イクボスを増やすために 課題と成功へのポイントを考察
浅賀 桃子
2017/07/03 (月) - 08:00

イクボスという言葉が聞かれるようになりました。ワークライフバランス、自身の働き方を考えるうえで「イクボス」を目指す方も増えてきています。このイクボスを増やすことは、政府が推し進める働き方改革の面でも有意義ですが、課題もあります。イクボス増加にあたっての課題と、成功へのポイントを考えます。

イクボスとは

「イクボス」という言葉の誕生は2013年に遡ります。2013年3月、当時の消費者行政兼男女共同参画・少子化担当相が消費者庁の人事評価を改定。「育児休業(育休)を取得したら利益になるような取り組みを」と、育休取得者ならびにその上司等の査定アップが盛り込まれた内容であり、同年6月にはプレスリリース中に「育ボス」という言葉が使われました。翌年にはイクボスプロジェクトが発足するなど、徐々に広がりをみせています。2016年に東京都知事に就任した小池百合子氏が都庁勤務管理職およそ400名に向かって「イクボス宣言」を行ったことも記憶に新しいかもしれません。

イクボスの言葉の定義としては「職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)」とされています。男性、女性は問いません。
なお、イクボスプロジェクトを立ち上げたNPO法人ファザーリング・ジャパンでは「イクボス10ヶ条」を作成しており、過半を満たしていることがイクボスの証だとしています。(イクボス10ヶ条:「理解、ダイバーシティ、知識、組織浸透、配慮、業務改善、時間捻出、経営目線での提言、自らワークライフバランスの有言実行、業績達成」)

イクボス育成の課題

企業でイクボスを育成する上では、現状課題も多いです。代表的な課題をご紹介しましょう。

・「残業は美徳」の考え
2015年12月、大手広告会社勤務の当時24歳の若手社員が過労自殺した件は広く報道されました。2016年9月に労災認定されましたが、認定された月残業時間は約105時間ということで、いわゆる「過労死ライン」とされる80時間を超えていたことから長時間労働の問題がクローズアップされるに至りました。その一方で「月残業時間が100時間超えくらいで過労死するのは情けない」といった趣旨の発言を大学教授がSNS上で投稿(のちに削除、謝罪)するなど、「(そのくらいの)残業は当然」という意識が、少なくとも一部では色濃く残っていることは否めません。高度成長期の日本ではまさに「残業は美徳」であり、遅くまで会社に残って仕事をしていることが頑張っている証とされていました。その時代の名残を引きずっていることが、イクボス化が進まないひとつの原因だと考えられます。

・評価の問題
先述の消費者庁人事評価制度においては、導入当初「公平に評価できるのか」という点が問題になったといわれています。育休取得者の評価をあげることを検討していたところ「その人が休んでいる間に残って業務の穴埋めをしている上司や同僚はどうなるのか」といった意見がでたため、上司等も評価アップの対象に加えたという経緯があります。
残業問題も然りですが「長く働いたほうが貢献している」という意識が働いてしまうと、育休などで時短勤務になる社員を評価しづらい社内風土ができてしまうことが、イクボスへの壁といえるでしょう。

イクボス推進成功事例紹介

経済産業省が主催する「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれた実績を持つバクスター社では、週2日のノー残業デー、在宅勤務導入(日数制限なし)などに加えイクボス育成キャンペーンを実施。部下が上司に対し「イクボス」だと感じたら、社内に設けた「イクボスカード」にシールを貼る仕組みで、カードがシールで埋まったら社内のカフェでコーヒーが無料で飲めたり、もっともイクボスだと思う人を表彰したりと、社員が気軽に参加できる対策を行っています。

2013年から毎年厚生労働省によって実施されている「イクボスアワード」。2016年のアワードでグランプリを受賞した戸田建設社員(部長職)は、保育園の送迎に配慮した打合せ時間の設定や育児期間中の社員の仕事と家庭との両立に配慮したことなどが評価ポイントとなりました。部内社員全員のベクトルを合わせるために部長自ら取り組むことで、風通しの良い職場への実現を図っています。

イクボス化やワークライフバランスへの取り組みは、企業が発展していくうえで欠かせないものであることを認識する必要があるでしょう。日本の労働力人口が減少へ向かう中、イクボス化をきっかけに柔軟な働き方が認められる世の中を作っていきたいものです。

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