パラレルキャリアという言葉をご存知でしょうか。経営学者のピーター・ドラッガーが提唱したこれからの社会での生き方や働き方についての概念です。なぜ現代社会でこの「パラレルキャリア」という概念が注目されるようになったのでしょうか。
パラレルキャリアとは
パラレルキャリアの「パラレル」とは、英語で「並行させる」といった意味を持つ言葉です。先述のピーター・ドラッガーは著書「Management challenges for the 21st century(邦題:明日を支配するもの‐21世紀のマネジメント革命)」の中で「組織のみに頼らず、それとは別に第二の人生を始める必要が生じている」とし、第二の人生のひとつとしてパラレルキャリアを紹介しています。
組織=現在所属している企業(=本業)と捉えることができるわけですが、ここで「パラレルキャリアは、副業やWワークのことですね」と考える方がいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、副業やWワークとは違い「報酬を得ることに限らない」ということが特徴のひとつです。
以下で、パラレルキャリアの例をご紹介しましょう。
お笑い芸人×作家
芸人コンビ「ピース」の又吉直樹さんが、デビュー先「火花」で芥川賞を受賞しました。執筆と芸人活動の両立ということで話題になりましたが、芥川賞贈呈式のあいさつで「(執筆・芸人の)どっちが上ではなく僕にとっては両方必要と考えています」と話していたのが印象的でした。又吉さんはお笑い芸人と作家という形でパラレルキャリアを実現している例と言えるでしょう。パラレル(並列)という言葉から、それぞれが交わらないというイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、「芸人をやるうえでも文章を書くことは大きい」と語る又吉さんのように、全く関係ないように見えるそれぞれのキャリアが互いに相乗効果を生み出せる働き方といえるでしょう。
会社員×バスケットボールサークル
平日は会社員、週末は趣味のバスケットボールのサークルに入り汗を流すというようなことも、「パラレルキャリア」に含まれます。サークル活動では報酬はありませんが、身体を定期的に動かすことでストレス解消につながる効果も期待でき、心身ともに健康になることで本業である会社での業務パフォーマンスをあげることにつながれば、こちらも相乗効果が発揮されたといえるでしょう。また、普段家と会社の往復では出会えない仲間との交流により、人脈が広がったり新しい価値観や視点が生まれたりするメリットもあります。
なぜ「パラレルキャリア」が注目されているのか
パラレルキャリアが注目されてきている理由としては、終身雇用が事実上崩壊し、一生涯ひとつの企業でキャリアを積み続けることが現実的でなくなったことがあげられます。大手有名企業でも多額の債務超過に陥って社員をリストラしたり、倒産したりすることが珍しいことではなくなっています。
まさに個人の寿命>会社の寿命となりつつある中、働くことの定義も変わってきています。キャリアというと有償で行う仕事のことを考えがちですが、自分が現在行っている活動全てをキャリアと捉え、本業だけにとらわれない可能性を見出すことが、これからの理想的なパラレルキャリアといえるでしょう。
ハードルが高いように思われるパラレルキャリアですが、「趣味や社会貢献、イベントなどの身近な社会活動の場を持つ」と考えると、気軽に始められるのではないでしょうか。本業と自宅以外の「もうひとつの世界、居場所」を作ることは、ストレス解消の観点からも利点があるとされています。「自分にあわなければ別のものを探そう」というくらいの気持ちから、パラレルキャリアについて少しずつ考えていくことをお勧めします。