「副」ではなく「複」の字を使う複業が、日本人の働き方を変えるかもしれないと注目されています。生活費の補填を主眼とするのではなく、自分自身の幅を広げるためにもうひとつ仕事を持つ。こうしたポジティブな目的での複業が広まるにつれ、就業規則で副業を禁止している会社もそれを見直す流れになってきました。
複業を「社外研修の場」と捉える
このサイトでも複業について採り上げましたが(「『複業』のススメ──日本社会を変える働き方になるか!?」)、その根底には「複数の職場や職業を体験した方が人材育成に有効である」という考え方が流れています。少々足りない生活費を補填するために人目を気にしながら副業にいそしむよりも、「自分のため、ひいては会社のためになる」と胸を張ってもうひとつの仕事をする方が、はるかにカッコいいではありませんか。「意義>収入」の式です。会社側にとっても、いくつものメリットがあります。
複業がもたらす、会社への5つの貢献
1.自主的に社外研修を実施してくれる
複業として選ぶ仕事は、その社員の専門分野であるケースが多いことでしょう。企画部門に在籍しているならプロモーション部門、人事総務であれば管理部門など、やり慣れている業務を行うことで、本来の会社業務の幅を広げることができます。また、興味を持ってずっとやりたかった仕事を複業として実現している人もいます。結果、広い範囲のスキルアップ、新たな可能性の開拓といった社内研修の目的を、社外で自主的に行っているわけです。
2.社外ネットワークを構築してくれる
複業は新たな人との出逢いの場でもあります。つながる人が増え、ネットワークが広がるとどうなるかというと、入ってくる情報量が格段に増加します。もちろん、守秘義務に反する類いの情報には神経質にならねばなりませんが(それは双方に言えることです)、幅広い情報に触れることで刺激を受け、新たな発想をもたらしてくれるかもしれません。それらが本業にフィードバックされたり、会社にとって有益な情報になったりもします。もしかすると、ネットワークの中の人がこちらへ働きにくるということも考えられます。
3.自社の評判を社外で高めてくれる
所属している会社の名前を出すことが可能であれば、例えばWebメディアに会社名入りの署名記事を書いたり、会社名と肩書きを冠してセミナー講師をやったりすれば、会社の名前を外に広めてもらう結果につながります。同時に、「複業を認めている・推進している会社」という認識も強められます。時代を読み、新しい試みを採り入れている会社であることを、複業を実施している社員が周知してくれるのです。
4.社員のモチベーションを上げてくれる
複業とは「本当に自分のやりたいこと」を社外で行うこと。言い換えれば、社内にいてはできない仕事が社外ならできるわけです。社内でフラストレーションを溜め込むよりも、気持ちを切り替えて外で実現する方が、はるかに気持ちを高められます。本来の業務をしっかりキープしながらやりたい仕事を併行してできる環境を作ることで、どちらのモチベーションも上がってきます。また、「やりたいことができないから退職します」というケースも防止することができるでしょう。
5.社内のコミュニケーションが活発になる
旧来の「副業」を密かにやっているときは、できるだけばれないよう注意していたはずです。複業を認め、推進するようになれば、社内で公然と情報交換をすることができます。「あの部署のあの人はWebデザインをクラウドで受けているらしい」「あの人は週末にNPO法人で活動しているらしい」など、聞き込んだ情報を本人に確認することも容易です。今まで交流のなかった部署であっても、個人としての交流が生まれます。結果、社内のコミュニケーションが活発になり風通しもよくなります。
複業を勧める・認める会社の特徴とは
複業を勧めたり認めたりしている会社は、増加の一途にあります。すでにわかっている会社名は以下の通りです。Webサイトで公式に発表したりリリースを出したりしている他、ブログ等で複業が認められていると考えられる会社も含まれています。(筆者調べ。2017年5月現在)
ロート製薬・NTTデータ・アクセンチュア・グーグル・サイボウズ・エンファクトリー・メルカリ・リクルートホールディングス・サイバーエージェント・ヤフー・リブセンス・LIG・スマートニュース・ソウルドアウト・クラウドワークス・リブセンス・ビズリーチ etc.
社名を眺めていて気付くのは、ほとんどがIT系の企業だということ。新たな動きを採り入れる柔軟さはもちろんのこと、もともと従来の労働体系に縛られない文脈から生まれた若い企業も数多く含まれています。しかしその他の会社はどうなのでしょう? 「複業時代」への流れを掴んでいないのでしょうか。そこまで情報や世の流れに疎くはないはずです。ほとんどの企業は、「情報漏洩が怖い」「本業が疎かになる」「副業が稼げるとなれば辞めてしまう」といった理由で禁止していると思われます。「給料の安い会社だと思われたくない」という見栄も存在するでしょう。ただ、情報を漏らしてしまう人物は副業とは関係なく存在しますし、複業によって本業へのモチベーションが上がるのは前述の通り。本当にやりたいことが複業でできるのなら、退社の意思も抑えることができます。また、「法律で副業が禁じられている」という誤解も根強いものがありますが、労働基準法には副業禁止の項目はないのです。もちろん、守秘義務に反しない限りという但し書きは付きますが。 複業は時代の流れです。このコラムを、副業を禁止している会社の管理職の方がお読みでしたら、もし部下から許可してほしい旨要望があった場合、デメリットよりもメリットを思い出していただきたいものです。それを役員に諮り、認められるような結果になったとしたら、社内のイノベーターとして認識されるかもしれません。
地方転職と複業を地方創生にどう活かすのか
「SELF TURN」のメインテーマは、「地方創生」です。地方転職も複業も新しい働き方という大きなくくりに入るものの、その両者が有機的に結び付けば地方創生の新たな局面が見えてくるかもしれません。いくつかの可能性を考えてみましょう。
クラウドソーシング等ネットを活用する
大都市圏の会社に勤務している人が地方企業で複業をするためには、距離というハードルがあります。それをクリアするひとつの方法が、ネットによる参加です。クラウドソーシングを活用して地方企業の案件を受注するというのが、いちばんの近道かもしれません。リアルなコネクションがあり、対面での打ち合わせができたとしても、それ以降はメールベースでのやり取りが現実的です。打ち合わせはSkype等のツールを活用すれば、時間にも場所にも縛られません。
地方創生、地域活性化プロジェクトに関わる
NPO法人や一般社団法人などで地方創生をテーマとして活動している団体は数多くあります。自分の興味のある、あるいは生まれ育った地方に関わるプロジェクトを見つけ、参加してみるのはどうでしょうか。もし講演やセミナーなどのスキルがあるのなら、現地へおもむいてそれらを実施することも考えられます。常駐せず、スポット参加であれば距離のハードルは下げることができます。
複業を認める地方企業への転職
この方法が究極と言えるでしょう。本業と複業をともに地方で見つけるわけです。とは言え、まずは本業の足固めをしっかりしてから複業を探さないと、どっちつかずの共倒れになる危険性があります。本業を決める際、複業ができることを転職の条件としておけば確実です。複業の対象としては、前項のような地方創生や地域興しプロジェクトも有力候補となります。地方転職に伴う課題のひとつとして「地域に融け込む」ことがあります。地方創生・地域興しはもちろんのこと、複業は地域でのネットワークづくりに大いに役立ってくれることでしょう。