知っておきたい複業の実務──あとで慌てないための税金や労災知識
鳥羽山 康一郎
2017/05/23 (火) - 08:00

「複業」を認める企業が増加するに従い、「もうひとつやりたかった仕事」「自己実現のための仕事」に就く人口も増加しています。しかし、おカネを稼ぐということは納税の義務も発生すること。面倒くさいと放置しておくと、あとで驚くような納税額になることもあります。複業に付いて回る実務的なあれこれをまとめてみました。

理想しか見ていないと、現実に青くなることも

「副業禁止」を就業規則に掲げている企業だとバレないようこそこそとやっていた「もうひとつの仕事」。周囲に知られないよう働く場所や時間に気を付けていても、本業の勤務先の給与管理者にバレてしまうケースが多いのです。これは、会社が肩代わりして払っている所得税や住民税、特に住民税の額が増えるのが原因です。その仕組みは後ほど解説しましょう。
しかし、複業を認める企業であるなら大手を振って社外の仕事を行うことができますので、バレるかもしれないという心配は無用になります。
そこで知っておきたいことは、2つ。ひとつは「税金」、もうひとつは「労災」です。
税金を例に取りましょう。仮に複業としてライターをやっている場合。原稿料は発注元から振り込まれているとすると、発注元は経費としてその原稿料の税務申告をします。あなたにいくら払ったか、税務署には知られているわけです。そこで、あなたがその原稿料収入を申告しなかった場合は、あった収入を申し出なかったわけですから最悪の場合「脱税」と見なされることになります。特にマイナンバー制度が導入されましたので、税務署による不申告のチェックは広い範囲に及ぶようになると言われています。
「これこそ自分がやりたかった仕事」とばかりに複業の内容だけに意識が行っていると、あとで税務署から催促状が来て、最悪の場合目玉の飛び出るような所得税・住民税を払うことにもなりかねません。

年間20万円を超える複業での所得は確定申告が必要

会社員であれば、所得税や住民税は会社ですべて手続きを行ってくれます。毎月の給与から所得税は天引され、年末調整によって戻ってくるという仕組みはご存じでしょう。会社が把握している所得の範囲内であれば、「この人には年間これだけ支払っている」ことを居住地の役所へ報告し、役所はそれをもとに住民税額を決定します。会社は給与の中からその税金分を引いて支給するわけです。
もしあなたが複業で給与以外の所得があり、それが年間20万円を超える場合は「確定申告」をして正しい所得額を税務署に伝えなければならないという決まりがあります。対象となるのは毎年1月1日から12月31日までの間に得た所得です。確定申告書によって複業分の所得税が決まり、それを納付します。確定申告は通常2月16日から3月15日までの間に行うことになっていますが、期限が近づくと税務署の窓口が混雑しますので、早めに準備を始めておくか電子申告(e-Tax)がいいでしょう。

確定申告の「必要経費」、そして住民税の支払い方

ここで、会社員には今まで縁遠かったある概念を知っておかねばなりません。確定申告によって所得を申告する際、「必要経費」の計上ができるのです。例えばライターの複業をした場合、原稿を書くための資料購入費や、取材に行った際の交通費といった支出です。それらを必要経費として原稿料収入から控除できます。収入金額が低くなるので、所得税や住民税の額もそれに応じて変わってきます。また、原稿料から源泉徴収税が引かれている場合は、発注元が発行する源泉徴収票を添付して申告すれば、還付金を受けられることもあります。
確定申告により複業所得が加算されると、合計の所得額が役所に報告されます。すると、今までよりも多い税額が勤務先の会社に通知されることになります。副業禁止の会社であればその時点で副業していることがバレてしまいますが、公認であるならばその心配もありませんね。ただし、会社の担当者が行う業務が増える可能性がありますので、確定申告の際に住民税の増額分を自分で支払うという申請もしておけば、その気遣いもしなくて済みます。会社によってどのようなシステムを採っているかまちまちだと思いますので、念のため担当者に問い合わせてみることをお勧めします。

もし事故や怪我が起きたら、どちらの労災になるの?

業務を行っていく上で、何らかのアクシデントが起こる可能性があります。本業においての事故や怪我についてはわかりやすいのですが、複業先での業務中に起きた事故や怪我はどうでしょう。企業や組織と契約を交わしている場合は労災保険にも加入しているケースがほとんどだと思いますので、治療費や補償は支払われます。しかしライターやデザイナーの仕事を請け負い、その業務中に起きてしまった場合は、自己責任ということになります。健康保険内で治療費等をまかなうことができたとしても、本業での業務執行に影響が出てしまいます。「慎重に行う」「気を付ける」といった基本的な心構えをしておくことが大切です。
一方、精神的なダメージを負ったこと(メンタルヘルス疾患)での事故や怪我は、その原因がどこにあるかの見きわめが重要です。通常、労災の判断の場合は本業での労働時間を重視します。本業における長時間労働が原因でメンタルヘルス疾患となり、複業の業務中に労災事故が起きてしまった場合、本業での労災認定とされます。逆に、複業のために深夜や休日を使って長時間労働をし、本業で事故が起きた場合は複業での労災となる可能性が高くなります。
「本業に悪影響を与えないこと」を条件に複業が認められているわけですから、本末転倒になるような働き方は避けるべき。アクシデントが起きたのでは、「働き方改革」どころではありません。

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