最近「社会起業(ソーシャルビジネス)」と言われるものが増えてきています。何となく社会的に役立つことへの起業なのかな、と思っている人も多いのではないでしょうか。では、NPO法人などの団体だけを指すのでしょうか?一般の起業とは何が違うのでしょう?今回は、その点について知っておくべきことを解説します。
経済産業省の定義
経済産業省は、ソーシャルビジネスについて次の3つの定義をあげています。
①社会性を持ったビジネスであること:現代社会における、貧困、教育、地方の活性化、少子高齢化、子育て、介護、環境などの様々な問題や課題を解決するための活動を行っていることが求められています。
②同時に「利益を追求する」事業であること:社会性を持つ理念があるだけではなく、その活動が続けられるように利益を出していくことを求められています。
③新しいスタイルのビジネスとして「革新性」があること:今までのビジネスのスタイルで行っていても、課題や問題が解決できるわけではありません。新しいシステムを作り出す、新しいスタイルを生み出す、など革新的な方法が求められます。
つまり、ソーシャルビジネス、社会起業だとしても、社会的な課題のために活動すればよいだけではなく、利益を追求していくことが同時に求められるため、必ずしもNPO法人やNGO法人でないといけない、などということはないのです。
大切なのは経営の「目的」
では、一般の起業とは何が違うのでしょうか?まず、大前提として違うのは「何のために起業するか」という経営の目的です。
一般に起業するときは「自分のやりたいことを実現させたい」「ビジネスとして利益を出したい」「自分は、自分自身が経営する、という決定権を持って、ビジネスをやってみたい」というような目的で行うことがほとんどなのではないでしょうか。それは、社会起業の目的とは違う、ということです。
社会起業をする場合は、必ず「そのビジネスが社会的な問題を解決するのに役立つかどうか」「そのために、何か新しいやり方を生み出す革新性があるかどうか」を求められますので、ビジネスで利益を出す、という目的にプラスするものが必要なのです。
一般の起業と同じ点もある
ただ「続けていけるために、利益を生み出せるしくみを構築していく」ことも重要なので、一般の起業とまったく違うわけではありません。社会起業を成功させるためには、まず「何を解決したいのか」目的をはっきりさせる必要があります。しかし同時に、資金をどうねん出するか、どう仕事を得るための算段をつけるか、起業のための補助金や助成金などのサポートをどう活用するか、いつどこで、どんな形態で事業を開始するか、通常の起業と同じように考え、計画し、実行していくことも重要です。「社会起業」とは「一般の起業」とまったく別個のものと考える必要はないのです。
重要で難しいのは「社会性」と「革新性」をどう盛り込むか
また、重要で、かつ難しい点は「社会性」と「革新性」を事業の中にどう盛り込むか、です。「自分は社会の何について取り組みたいのだろう」「それには、どのようなやり方が考えられるだろうか」と事業化の案を練らないと、社会起業として成功し、継続していくことがなかなか難しいでしょう。今あるやり方ではない、違う方法を見つけていく必要があるのですから。
そのために、数は少ないですが、社会起業について学ぶ大学や、起業のためのスクール、公的な起業支援の場などもありますが、大切なのは、今成功しているソーシャルビジネスにどのようなものがあるか、どのような社会起業が増えているのか、自分でも事例を調べて研究しておくことです。
・藤田和芳さん(NGO大地を守る会会長/株式会社大地を守る会代表取締役):有機農業系のソーシャルビジネスを展開。人と自然の関わりに力を入れている。
・今村久美さん(特定非営利活動法人NPOカタリバ代表理事):教育系のソーシャルビジネスを展開。東日本大震災後の子どもの教育の場を新たに作り出すなどの活動を続けている。
などのように、今の日本の社会でも、株式会社、NGO、NPO問わず、社会起業家として活動を広げながらビジネスを存続させている人はたくさんいますので、実際に参加してその目で活動を見る、など調べていくことも必要です。
最も大切なものは「志」
そして最後に、私は「社会起業」をするのであれば、最も大切なものは、やはり「志」、社会のその問題に対して何とかしたい、と思う情熱だと考えます。そもそも、その「志」がなければ「社会起業」をしようとは思わないでしょう。その後に革新的な方法やビジネスとしての利益を考えることは重要ですが、自分がどんな社会にしたいと思い、そこに情熱をかけるのか、をまず決めることが一番大事なのではないでしょうか。