若年人口の減少に直面する地域では学校の統廃合が相次ぎ、廃校が増加しています。毎年約500校前後の学校が廃校に至り、自治体にとっては廃校施設の有効活用が喫緊の課題となっていますが、新たなビジネスや文化の創出という動きも見られ始めている「廃校」の現状から今後の地域活性化について考えてみたいと思います。
現存の廃校5,943校で活用されていない廃校1,745校
少子化などによる就学人口の減少が続くなか、とりわけ地方における学校の廃校が顕著ですが、文部科学省の「廃校施設活用状況実態調査」によると2002年度から2015年度までの14年間で毎年約500校ずつ増加し、実に6,811校が廃校となっています。少子化による児童・生徒の減少や市町村合併に伴う統廃合などが主な原因とされますが、2016年5月時点で施設が現存している廃校は5,943校にのぼります。
また、廃校施設の活用状況については、施設が現存している廃校のうち、「活用されているもの」は4,198校(70.6%)ある一方で、「活用されていないもの」は1,745校(29.4%)にも及びます。さらに、現在活用されていない施設のうち、今後の用途が決まっているものはわずか314校(5.3%)で、1,260校(21.2%)が活用の用途が決まっていない状況にあるほか、取り壊しを予定しているのが171校あります。
(資料:文部科学省)
このような状況のなか、国土交通省で進められている取り組みが中山間地域の「小さな拠点」づくりです。地域の困りごとに対して地域住民が自ら立ち上がり、解決のための取り組みを行うことにより持続的に暮らせる地域を作っていくことですが、そうした活動・交流を行う場として、住民にとってなじみ深い施設であることや住民が足を運びやすく、交流しやすいことから住民の活動拠点としてふさわしいと考えられるなかに、活用されていない廃校があります。
高知県では、地域で暮らし続けたいという住民の思いを尊重しながら生活をはじめ福祉や産業、防災など地域が抱える課題を解決する手段として「集落活動センター」を核とした集落維持の仕組みづくりが推進されていますが、廃校となった学校などを拠点として地域住民が主体となった地域の運営組織による取り組みが行われています。2018年11月末現在で県内の10市15町3村に47ヵ所のセンターが設置されており、うち7ヵ所は廃校となった小学校です。
「小さな拠点」づくりの取り組みイメージ(資料:国土交通省資料)
廃校をオフィスや工場、宿泊・創業支援施設などに活用
さて、今後も学校の統廃合が進むと見られ、廃校の有効活用が課題となっていますが、文部科学省では2010年9月に「~未来につなごう~『みんなの廃校』プロジェクト」を立ち上げ、廃校施設の情報と活用ニーズのマッチングの一助となるよう未活用の廃校施設等の情報を一覧にして公表しています。廃校はオフィスや工場、宿泊施設、IT施設などに活用され、雇用創出や交流人口の増加など地域活性化につながる事例も生まれています。
現在、活用されている廃校施設の活用用途(複数回答)については、「学校(大学を除く)」が1,609件、「社会体育施設」が1,015件、「社会教育施設・文化施設」が675件で、上位3用途で全体の約7割を占めています。続いて「福祉施設・医療施設等」424件、「企業等の施設・創業支援施設」370件、「庁舎等」268件、「体験交流施設等」239件、「備蓄倉庫」102件、「大学」35件、「住宅」12件となっています。
そもそも学校施設を用いた活用であるために教育関係、公共施設の用途が多くを占め、民間事業者などによる民間用途の活用がまだまだ少ないのが現状です。原因としては、施設の老朽化や立地条件、財源、用途に応じた法令上の制約など他への転用が難しい部分もあると考えられます。活用の用途が決まっていない理由としては、「地域などからの要望がない」(48.7%)、「施設が老朽化している」(37.5%)が大きな理由とみられます。
(資料:文部科学省資料)
最新事例では工場や宿泊・創業支援施設などに活用される例が増えていますが、高知県室戸市「廃校水族館」は施設名にも「廃校」の名前が付けられたほか、プールをウミガメの水槽に使用するなど校舎を水族館化したユニークな展示が人気となり、昨春のオープン以来、半年で10万人以上の人が訪れる人気スポットです。また、民間企業7社により創設された鳥取県の「隼LAB.」では、同施設がきっかけになった創業も半年で5社といいます。
(資料:筆者作成)
地域経済活性化の拠点へ早急に活用の取り組みを準備
一方で、国土交通省や文部科学省ばかりでなく、農林水産省も農山村地域での定住を促進する目的で廃校に関心を寄せ、廃校を活用した拠点づくりなど農山村が抱える課題の解決において専門家を直接、現地に派遣するプロジェクトを始めています。「地方創生」を掲げる政府や省庁、自治体にとっても廃校の活用は雇用の創出や移住・定住促進、地域の活性化にもつながる有効な地域資源といえます。
元「学校」は地域コミュニティの中心だった場所で、住民にとっては思い入れも強く、単なるハコモノを超えた存在ですが、十分に活用しきれていないのが現状です。修繕等が必要な部分もありますが、建物はまだ使えますし、体育館やグラウンドなどの設備も魅力的で、既存施設を活用することによる早期着手が可能、設備投資も軽減できるというメリットがあるほか、廃校という話題性からメディアからも注目されるでしょう。
(資料:文部科学省資料より筆者作成)
急激な少子高齢化や人口減少などが深刻な地域では、以前の賑わいを取り戻すために廃校を活用した企業誘致をはじめ、積極的に地域を挙げて対策を図っているところもありますが、「地域等からの要望がない」や「活用方法が分からない」という地域も多くあるのが現状です。活用に向けた公募の実施についても「公募していない」が81%を占めており、地方公共団体や広報誌、「みんなの廃校プロジェクト」の情報も十分に活用されているとはいえません。
(資料:文部科学省)
今後も廃校となる学校がますます増えると思われますが、自治体では廃校が決定した段階から次を検討し、廃校になったら直ぐに活用できるよう早急に取り組みを開始する準備が必要でしょう。その際には土地や建物が教育、文化、生活など地域の拠点であったことを踏まえ、地域の活性化と振興のために自治体や地域と事業者が、それぞれの視点から生み出す新たな活用案が望まれます。新しい産業や雇用の創出、持続可能なコミュニティなど再び地域経済を活性化させる拠点になることが期待されますし、どう活かすかが問われています。