地方への移住増で期待される地域の活性化(中編)/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2019/04/12 (金) - 08:00

若者を中心に地方都市から東京圏へ毎年10万人を超える転出超過が続いていますが、この15年間で地方の若者は約3割減少するとともに、15歳以上の就業者は大幅に減少しています。今回は6年間で6万人が目標とされる東京圏から地方へのUIJターンによる起業や就業者の創出を図る国の施策や地方自治体における移住の現状から今後の地域活性化について考えてみたいと思います。

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地方への移住増で期待される地域の活性化(前編)

若者の地方移住を後押しへ起業支援金と移住支援金

政府は2014年に「まち・ひと・しごと創生本部」を創設して以来、さまざまな対策を講じてきましたが、2016年度からは地方創生推進交付金として毎年約1,000億円の予算が確保され、地方企業の就業体験、本社の移転や地方での拡充を目指す企業支援を行ってきました。2019度、東京一極集中に歯止めをかけ、地方での就労人口を増やす狙いで、東京圏から地方への若者の移住を促すために起業や就業をする人向けの支援金が新設されました。

今回、スタートする「支援金」は、地域の課題に取り組む「社会性」「事業性」「必要性」の観点を持った起業(社会的起業)を支援する「起業支援金(最大200万円)」と地域の重要な中小企業等への就業や社会的起業を行う移住者を支援する「移住支援金(最大100万円)」の二つがあります。この事業は、今後6年間をめどに地方公共団体が主体となって実施するもので、個人の移住目的を対象にした支援金制度は初めてになります。

起業支援金の事業分野としては、子育て支援や地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援、まちづくり推進など地域課題に応じた幅広いものが想定され、事業立ち上げに向けた伴走支援とともに起業に必要な経費の2分の1に相当する額が交付されます。東京圏以外の道府県または東京圏内の条件不利地域において社会的事業の起業を行うことや起業地に居住している、または居住予定であることなどが対象となっています。

(資料:内閣官房・内閣府総合サイトより)

移住支援金は、東京23区(在住者または通勤者)から東京圏以外へ移住し、移住支援事業を実施する都道府県が選定した中小企業等に就業したり、起業支援金の交付決定を受けたりした場合に都道府県・市町村が共同で交付金を支給します。5年以上東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)で働く人限定の給付金制度で、地方へ移住して社会的事業を起業した場合には最大300万円(単身の場合は最大260万円)が交付されます。

(資料:内閣官房・内閣府総合サイトより)

また、政府は10月をめどに全国の転職情報を一元的に検索できる仕組みをつくるといいます。そのために、3月末にヤフー、ディップ、ビズリーチといった民間求人サイト運営事業者と連携協定を締結しました。今後、各道府県が政府の交付金で地方移住支援を目的とした中小企業等の求人サイト「ふるさと求人」」を立ち上げ、3社の求人サイトとも連携させる計画で、官民連携による移住者視点での情報の提供を行う意向です。

6年後に8千人を目標に地域おこし協力隊を拡充へ

2018年6月に発表された政府の「わくわく地方生活実現政策パッケージ」で、「UIJターンによる起業・就業者創出(6年間で6万人)」とともに掲げられたのが、「地域おこし協力隊の拡充(6年後に8千人)」というものでした。都市部から地方に移り住み、地域おこしの「協力隊員」になってもらうという2009年に始まった国の移住支援策「地域おこし協力隊」は、2018年度の隊員数は約5,500人で、5年間で5倍以上に増えています。

(資料:総務省の資料を基に筆者作成)※カッコ内は特別交付税算定ベース

都市地域から過疎地域等の条件不利地域に生活の拠点を移し、一定期間、地域に居住して地域おこしの支援や農林水産業への従事、住民の生活支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みです。地方公共団体が「地域おこし協力隊員」として委嘱し、活動に要する経費(報償費200万円、その他経費200万円)は1人当たり400万円が上限で、隊員の活動期間は概ね1年以上3年以下となります。

隊員の約4割が女性ですが、最近では、この制度を利用する隊員の約7割といわれる20歳代と30歳代の若者が増加し続けています。また、隊員の約6割が任期終了後も地域に定住しているほか、同一市町村内に定住した隊員の約3割は自ら起業しているといいます。定住後の活動は起業・創業、就業、就農など多岐にわたりますが、起業としては、飲食サービス業、小売業、宿泊業、まちづくり支援業、観光・移住交流業があります。

(資料:総務省資料を参考に筆者作成)

一方で任期中に辞めた隊員200人の約3割が理由として地域とかみ合わない「ミスマッチ」を挙げています。2024年度に8千人という高い目標が掲げられていますが、地域や地域住民と多様に関わる「関係人口」を創出し、将来的な隊員のなり手を確保するためにも隊員として活動する前に一定期間の体験ができ、受け入れ地域とのマッチングを図る「おためし地域おこし協力隊(仮称)」の創設は、任期途中の退任抑止効果が期待されます。

半数以上の府県で2017年度の移住者数は過去最高へ

さて、実際に地方への移住の実態を2017年度の自治体の統計で見ると、自治体によって移住の定義などが異なるために単純に比較はできませんが、半数を超える26自治体(府県)が前年度を上回る過去最高の移住受け入れ数を記録していることが分かりました。特に移住者数が多かったの自治体は、3,300人の岡山県を筆頭に2,452人の栃木県、2,127人の鳥取県と続きますが、栃木県、佐賀県、長崎県では前年度比170%超えで急増しました。

(資料:各自治体資料等を参考に筆者作成)

過去最高を記録した自治体の2017年度の特徴としては、20~30歳代の若年層や子育て世代の移住です。これらの移住者は、何より「子育て環境を重視」していますので、生活環境のなかで、教育や医療機能、さらに子育て支援が充実した地域を選択しています。自然環境も含め、安心してのびのびと子育てができる暮らしが移住者にとっても大きな魅力であり、移住する上で優先順位が高くなっているといえるのではないでしょうか。

また、移住者を増やすことになった自治体の具体的な施策としては、市町村レベルでの補助・助成制度や対象に合わせた移住施策などの強化、大都市圏での相談窓口の開設、専門相談員の配置、移住フェア・セミナーの開催など相談体制の充実があるほか、ポータルサイトや移住・定住のガイドブックの作成といった情報発信。さらに、地域の魅力を体験できる移住体験ツアーや地域滞在ツアーの実施なども有効であったようです。

流出人口が増えていた地域、課題が多かった地方にも都市部からの移住の流れが加速する中、全国の自治体による首都圏等での相談窓口の開設や移住相談会の開催等が相次ぐなど、自治体間における移住者の獲得競争が激しくなっています。地域の魅力を発信しながら、いかに市町村と連携してきめ細かな支援、移住希望者のニーズを踏まえた対応、受け入れ体制の充実を図っていくかが求められています。(後編は6月に各地の移住の実態などについて掲載予定です)

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