2018年に訪日外国人旅行者が3千万人を突破するなか、三大都市圏から地方へと目を向け、成田や羽田、関空を経由せずに約171万人がダイレクトに入国したり、基幹空港から地方空港を経て足を向ける外国人も増えています。今回は、訪日外国人旅行者数や消費額の拡大を図る上で欠かすことができないほか、訪日誘客支援や民間委託の現状などから地域活性化の核として期待される地方空港について考えてみたいと思います。
東京オリパラ見据え地方空港のゲートウェイ機能強化
日本政府観光局が発表した1~3月期の訪日外国人客数は、前年同期比5.7%増の805万3,700人(推計値)と昨年を上回っています。訪日需要が高まる桜の季節に向けて各国で展開された訪日旅行プロモーションの効果もあり、訪日者数は堅調に推移しました。国・地域別では、中国が11.6%増の216万9,300人と最多で、韓国の208万800人、台湾の118万9,700人、香港の50万5千人、アメリカの37万2,500人の順で続いています。
さらに、増加する外国人延べ宿泊者数も2018年には対前年比11.2%増となる8,859万人泊で、調査開始以来の最高値を更新しました。三大都市圏と地方部で外国人延べ宿泊者数の対前年比を比較すると三大都市圏(東京首都圏・中京圏・関西圏の8都府県)は11.1%増、地方部で11.3%増で、地方部の伸びは三大都市圏と同水準でした。地方部のシェアは前年に引き続き4割を上回りました。
さて、日本を訪れる訪日外国人旅行者が増えるなか、以前の「コト消費」から「モノ消費」へと関心が変化していますが、東京圏や関西圏ばかりでなく、前述のように地方を訪れる人も増えています。各地にある地方空港を利用する訪日外国人旅行者が増えるのに従い、受け入れ側となる空港や当該自治体、周辺観光地などの早急な整備が求められていますし、地域の「コト消費」によって訪日外国人旅行者を引きつけるチャンスでもあります。
(資料:観光庁資料より筆者作成)
来年に迫る東京オリンピック・パラリンピックの開催とその先を見据え、国土交通省の2019年度の航空政策では、首都圏空港の機能強化はもとより、地方空港のゲートウェイ機能の強化などが掲げられていますが、「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月)が定めた訪日外国人旅行者を2020年に4,000万人、2030年には6,000万人という目標の実現に向け、さらなる航空需要に対応するための基本方針が下記の施策です。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)
訪日外国人旅行者利用実績に合わせ3カテゴリーに分け支援
2020年に4,000万人という訪日外国人旅行者数の目標達成には、地方イン・地方アウトの誘客促進が欠かせません。このため、2017年7月に全国27の地方空港を「訪日誘客支援空港」と認定し、各地域における訪日客誘致の取り組みの拡大に向け、当該空港に対して訪日外国人旅行者の利用実績に合わせ、新規就航・増便への支援や旅客受け入れ施設整備など国による必要な支援を下記の三つのカテゴリーに分けて実施しています。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)
下記の支援措置などにより、各地における国際線就航に向けた取り組みが促進され、2017年秋以降、国際旅客定期便については、21空港42路線135便/週の新規就航または増便が実現するとともに、2018年の夏期ダイヤで初めて週に1,000便を突破しました。2018年に地方空港から入国した訪日外国人旅行者数は、対前年比2割増となる約171万人と順調に増加しており、成果を上げているといえます。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)
また、2012年3月に本邦初となるLCCが就航し、現在はピーチ・アビエーション、ジェットスター・ジャパン、バニラ・エア、春秋航空日本、エアアジア・ジャパンなどが国内線、国際線をネットワークしていますが、2017年の国内線におけるLCC旅客数シェアは9.8%、国際線は21.7%となっています。今後、LCCの参入促進により訪日外国人旅行者の増加や国内観光等、新たな航空需要の創出が期待されています。
政府は、2020年の航空旅客のうち、国内線LCC旅客の占める割合14%、国際線LCC旅客の占める割合17%を目標と定め、LCC参入を促進させるために主に料金体系の変更、空港経営改革、受け入れ環境整備などのさまざま施策が図られていますが、日本におけるLCCシェアは欧米(約30%)に比べ低い傾向にありますから今後もシェアは高まる余地があると予想されます。
民間の資金・ノウハウ活かすコンセッション式空港運営
4月1日に「国管理空港」である福岡空港が完全民営化されました。訪日外国人旅行者への対応や災害時の対応強化、過密化対策としての北九州空港との連携や長距離路線誘致などが課題として挙げられますが、30年後に14ヵ国・地域に51路線の就航を目指す地元企業が出資する運営会社の福岡国際空港(FIAC)では、運営計画で国際線ターミナルビルの混雑緩和や商業施設の充実などを掲げています。
所有権は国に残したまま滑走路と空港ビルの運営などを民間が担うのがコンセッション方式ですが、着陸料を独自の判断で柔軟に設定できるので、新規就航や利用客数の増加にもつながるでしょう。また、空港運営を民間に委託する例が相次ぐなか、不動産業者や鉄道会社などが運営権を獲得するケースが増えていますが、商業施設を運営してきたノウハウを空港で活かし、利用客の消費を促すことで経営を安定させるという狙いもあります。
(資料:国土交通省資料を参考に筆者作成)※利用者数は2017年(1月~12月)
国土交通省の2017年度の統計によれば、27の「国管理空港」のうち航空系事業と非航空系事業で経常黒字を確保できたのは、羽田、新千歳、福岡、那覇、広島、高松、松山、熊本、大分、鹿児島、小松、徳島の12空港です。多くの空港で旅客ターミナルなどの非航空系事業が堅調な業績で推移する一方で、滑走路などの航空系事業は赤字という実態があります。この打開策として期待されるのが、航空系と非航空系の一体経営と各地に波及する民営化です。
2016年7月に「国管理空港」としては国内で初めて民営化された仙台空港では、地域活性化と東北復興という狙いからコンセッション方式が採用され、大手民営鉄道会社などで設立した仙台国際空港に運営権が移りました。民間のノウハウを生かした航空ネットワークの充実、ターミナルビルなどの施設機能の増強を進めることによって、2015年に約300万であった年間利用者が2018年には約358万人(速報値)へと伸びています。
このように空港におけるコンセッション方式は少しずつ広がりを見せています。今後、日本人の国内旅行者が減少していくと見込まれるなか、その影響を少しでも抑えていくためにも国際線の誘致活動や訪日外国人旅行者の地方誘客にかかる期待は大きいものがあります。そのためにも各地域への入り口となる地方空港などのインフラ強化が必須ですし、インバウンドの促進を図る上では、「モノ消費」はもとより、「コト消費」の魅力や訴求も欠かすことができません。
地方空港にとっては観光にしろ、ビジネスやMICEなどにしろ、アクセスや宿泊、受け入れのインフラ機能などインバウンドの誘客やPRを行うに当たっては、単独の地域だけで観光振興を図るのではなく、隣接する複数の地域が連携して広域的に取り組むことも大切でしょう。地方空港同士のネットワークを生かしながら周辺自治体も巻き込んでさまざまな効果的な施策が望まれますし、空港を核とした一層の観光資源の磨き上げもインバウンドの促進につながるでしょう。