人生100年時代の到来といわれ、60歳以降も働き続けることが当たり前となりつつあるいま、将来について予測不可能なことが増えてきました。個人においても、年代ごとに訪れるキャリアのターニングポイント(結婚・昇進・出産・介護など)は多様化し、会社まかせにはできない、個人が個人の在り方を真剣に考える時代になりました。そのようななか、今後のキャリアを考える上で参考になる「キャリア・ドリフト」理論を今回はご紹介します。
キャリア・デザインとキャリア・ドリフトはどう違う?
「キャリア・デザイン」も「キャリア・ドリフト」も神戸大学大学院教授の金井壽宏氏が提唱している理論で、金井氏の著書「働くひとのためのキャリア・デザイン」で紹介されています。
「キャリア・デザイン」とは、就職・結婚・出産など人生の節目において、大きな決断に迫られたときに、自らの知識や経験を元に、将来のよりよい自分の姿を描いていくという方法です。
しかし、人生においては、想定される出来事よりも、むしろ偶発的に起こることが一生を左右するようなターニングポイントになるというようなことも少なくありません。そんなときに必要となるのが「キャリア・ドリフト」です。予想していなかったような出来事が起こったときにも、それを柔軟に受け止め、あえて流されてみる(ドリフトする)ことで、新しい可能性が見えてくることもあるという考え方です。キャリアを漂流するという一見運任せに思えるような方法ですが、人生の節目において「キャリア・デザイン」をしておけば、節目と節目の間はむしろ「キャリア・ドリフト」で流れに乗ることも大事だと金井氏は著書の中で語っています。
【参考】独立行政法人労働政策研究・研修機構 日本労働研究雑誌寄稿記事(金井壽宏氏)
先が読めない時代にこそ必要なキャリア・ドリフトという考え方
過去の経験からは予想もできなかった技術の革新が起こり、3年で世の中の仕組みががらりと変わってしまうこともめずらしくない世の中で、10年、20年後のキャリアを描くということは難しくなってきているといえます。AIの登場で既存の仕事がロボットにとってかわられるということに代表するように、予想もしなかった技術の進歩によってキャリアが断絶されてしまうということも、今後十分に起こりえます
だからこそ、キャリア・ドリフトによって、起こった出来事をどうとらえるかがカギとなってきます。たとえマイナスに思えるような出来事も、どう次に活かしていくのかという視点で考えられることが重要です。ただ、何が起こるか分からないので、何も考えずに日々過ごすということではなく、理想のキャリアを描きつつも、節目以外のタイミングでは、流れに身を任せることができると、将来に対しても希望がもてるのではないでしょうか。
キャリア・ドリフトで可能性を拡げる
僭越ながら筆者の事例を紹介させていただくと、キャリア・デザインしつつも、大きなターニングポイントはいつも偶然に起こっていたことが分かります。
最初のターニングポイントは新卒入社時に起こります。銀行だったので、当然のように銀行業務をすると思って疑わなかったのですが、配属は広報。予想もしていなかった配属通知に、何をするかも分からないままの初出勤となりました。広報での仕事は、社内のテレビニュースの企画・編集・キャスター。銀行にいながら番組制作会社のようなことをやっていました。仕事内容は非常に面白く、銀行内では規制もほとんどないような自由な環境だったため、のびのび仕事をすることができたことも、筆者には合っていました。
このときに、銀行だから銀行業務をしなければいけない、数年後にはここまで昇進しなければいけないという考えに固執していたら、その後のキャリア展開は全然違ったものになっていたと思います。広報職に配属されたことを機に、私の中では、金融業界以外のキャリア展開が見えてきたのです。
次のターニングポイントは転職後に起こります。東京にある人材系企業の人事だったときに、全く予期せぬタイミングで名古屋支社での営業への異動を告げられたのです。転居を伴う異動であったことに加え、人生初の営業職に戸惑いながらも、おかれた環境で頑張ってみようと思えたことで、営業のスキルが身につきました。
もう一つのターニングポイントは、営業職だったときに、先輩が体調不良で休職し、突然大手クライアントを任されることになったことです。営業経験わずか1年で支社最大のクライアントを担当することとなり、自分にできるのかという恐れとともに、せっかくの機会なのでチャレンジしようと前向きに考えられたことで、その後の昇進につながりました。
このように、描いていたことと全く違う展開が訪れたとしても、受け入れられることで、キャリアの可能性が拡がります。
みなさんも、今後さまざまな予期せぬ転機が訪れると思いますが、「キャリア・ドリフト」をうまく取り入れてみてはいかがでしょうか。
(この記事は、2017年12月14日に公開されたものを再掲しています。)