若者の地域参加とオルタナティブインターンシップ/地域活性機構リレーコラム
山岡 義卓
2019/05/10 (金) - 08:00

地域活性化の重要課題のひとつに若年世代の確保や育成があります。移住促進や関係人口の拡大、あるいは各種地域人材育成のためのプログラムなどさまざまな施策が行われていますが、中でも肝心なプロセスはその地域に関心を持ってもらうことでしょう。こうした観点から、今回は地域と若者をつなぐ取り組みのひとつとしてインターンシップに着目し、地域活性化における意義や可能性について考えたいと思います。

「地域系オルタナティブインターンシップ」とは

インターンシップとは、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」 *注1)です。多くは大学生を対象とした民間企業における就業体験です。しかしながら昨今は就職・採用活動時期の後ろ倒し化 *注2)等に伴い企業が採用活動の一環として実施するものが増えており、実習期間はワンデイ、ツーデイ等短く、内容は就業体験というより会社説明会に近いものが多くなっています *注3)。

他方でこうした就職・採用活動としてのインターンシップとは一線を画す、本来的な意味でのインターンシップ(就業体験)として、ただし企業のみを実習のステージとせずNPOなどをはじめとした地域で活動する組織や団体に着目したインターンシップが、数は多くありませんが各地で行われています。
たとえば、次のような事例があります。

(資料:筆者作成)

2018年にはこのようなNPO等で実習を行う地域に着目したインターンシップに関心を持つ関係者が集まり「NPOインターンシップラボ」(以下、ラボと言う。)注5)を発足させ、情報交換や勉強会、調査研究、事業の推進などを行っています。ここではこれらのインターンシップを従来とは異なることを明確にすべく「地域系オルタナティブインターンシップ」と名付けています。

地域への「入口」としてのインターンシップ

こうしたインターンシップには実際どのような効果があるのでしょうか。ここでは私が調査に関わった横浜の事例を参照しながら考察したいと思います。
なお、文中の数字はすべて2015年に本インターンシップに参加した48人の学生を対象に実施した調査結果です。

■横浜におけるNPOインターンシップの概要

名  称 :NPOインターンシップ
目  的 :NPOや地域課題に関心をもつ学生を発掘し、NPOの活動経験を
      通して、市民活動を支える人材を育成すること。
主  催  者   :特定非営利活動法人アクションポート横浜
対  象 :大学生(学年は問わない)
受入団体 :横浜市内および近隣地域を活動拠点とするNPOや市民活動団体、
      社会的企業。
実習期間 :短期80時間程度、長期6ヵ月程度

NPOインターンシップにおけるお見合い会

本インターンシップの参加学生の多くは、大学での学習等を通じてNPOやまちづくりへの関心を持っています(NPOに対する認識:「活動や事業内容についてよく知っていた」47.9%、参加動機:「NPOや民間非営利組織に関心があるから」)。しかし、関心はあるものの活動への参加経験は決して多くなく、ボランティアとして活動に参加した経験があるのは1/4程度(27.1%)で、NPO等との関わりが全くない学生も1/3程度(35.4%)います。すなわち、このプログラムには、NPOについて知識はあるものの実際の活動に関わる機会がこれまでなかった学生が多く参加しているということです。

実習後、これらの学生に対して受け入れ団体等との今後の関わり方について聞いたところ、全員が「今後もボランティアとして参加する」等、何らかの関わりをもっていきたいと回答しています。これは、これまで地域のNPO等の活動に関わったことのなかった学生が、本インターンシップに参加したことにより、今後、積極的に関わっていきたいと感じるようになったことを示しています。学生にとって地域で活動するNPOは、授業などで聞いて知ってはいるものの、活動に関わることのない縁遠い存在であったのが、インターンシップ後は自から積極的に関わりたいと思えるような身近な存在になったということで、本インターンシップは学生にとって地域参加の「入口」になっていることが分かります。

「地域起点」のキャリア教育の提示

インターンシップはもともとキャリア教育の一環として教育課程に導入されてきたという経緯があります。キャリア教育は「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」 *注6)と定義づけられています。その内容は多岐にわたるのですが、「一人一人」という語句からもうかがえるように個人に焦点が当てられており、多くは「自分のキャリアをどうつくるか」という観点(自分起点)で考えがちです。

現在主流のインターンシップは、就職活動としての性質が色濃いことも含め自分起点の側面が強いといえるでしょう。しかし、現実社会においては、キャリアは周囲との関係の中で形作られるのであり、自分起点の思考だけでは限界があります。一方、オルタナティブインターンシップはささやかですが地域社会に身を置く経験ですから、自分と地域の関わりを意識する機会となるでしょう。このことにより「自分起点」に偏りがちな現状のキャリア教育を補正し、たとえば「この地域で自分に何ができるか?」といったように「地域起点」でキャリア形成を考えられる機会を提供できるかもしれません。こうしたキャリア教育の在り方は視野や可能性を広げるという点で個人にとって望ましいだけでなく、若者の確保や育成を目指す地域にとっても望ましいものでしょう。

若者の地域参加が地域の好循環をつくる

ところでこのような可能性のあるオルタナティブインターンシップは地域活性化の営みの中にどのように位置づけられるでしょうか。
前述のとおりオルタナティブインターンシップは、若者の地域への関心を喚起することが期待できます。さらに、ここでは触れませんでしたが、受け入れ団体に対してもさまざまな刺激(人材育成力の強化等)になることが示唆されています。その結果、地域のさまざまな活動がより活発になり、地域の魅力が高められ、さらなる関心の喚起につながるという循環が期待できます。(下図参照)

(資料:筆者作成)

オルタナティブインターンシップはこうした好ましい循環を駆動させる起点になれると考えられます。

以上のように地域の人材育成に大きな可能性を持つオルタナティブインターンシップですが、大きな課題として、継続的運営(特に資金面)の難しさがあります。人材育成という長期的な営みのごく初期のプロセスだと考えれば、その価値を貨幣に換算することが難しいのは必然的なことと考えられますが、仕組みが整い意義や効果も見えつつあるのに継続できないというのは残念なことです。私たちは何事にもつい短期的な成果を求めがちですが、こと人材育成においては長期的な視点で、オルタナティブインターンシップのように若者の関心を喚起し、地域参加を促すことを意図した初期的な活動の重要性に多くの方が関心を向け、支えられていくことを願います。

 

*注1)文部科学省・厚生労働省・経済産業省「インターンシップの推進にあたっての基本的な考え方」(平成27年12月10日一部改正)より
*注2)企業による新卒採用の時期に関して法的な規制等はないが際限のない前倒し化が学業に支障をきたすこと等が問題となったことを背景に、経団連では倫理憲章においてルールを設けている。たびたびの変更を経て2020年3月卒業の学生では3年次3月より広報活動開始、4年次6月より面接開始としている。すなわち、それ以前は公式な採用活動は実施できないため名目上は教育活動であるインターンシップが実質的には採用活動として普及している。なお、2018年10月に経団連の中西宏明会長は就活ルールを廃止すると発表している。
*注3)「2019年卒マイナビ企業新卒採用予定調査」(株式会社マイナビ、2018年)によれば企業が行うインターンシップの実施期間は、1日:75.2%、2~3日:23.8%とワンデイ・ツーデイがほとんどで、実施内容は「会社見学・工場見学・職場見学」が60.1%を占める。
*注4)情報はいずれも運営団体のウェブサイトより入手。
*注5)NPOインターンシップラボについては右記ウェブサイト参照 http://intern.yokohama/labo/
*注6)中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日)より

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索