11月14日、一般社団法人全国道の駅支援機構による「地域を変える道の駅戦略セミナー」が開催され、120名が参加しました。
一般社団法人全国道の駅支援機構は、「『道の駅』を地域の原動力に」をスローガンに2018年7月に立ち上がった法人です。
機構の本格始動とともに開催された「地域を変える成功する道の駅戦略セミナー」では、道の駅を軸にした地方創生事例を、宮崎県都農町と北海道鹿部町、2町の町長が登壇して発表したほか、理事で株式会社シカケ代表取締役の金山宏樹さんが「地域が潤う!自治体の『道の駅戦略』成功事例に学び 道の駅を地域の原動力にする」をテーマに講演を行いました。
チームビルディングやクリエイティブ、商品やプロモーションの企画、デジタルマーケティングなど各分野の専門家10名で構成される全国道の駅支援機構がセミナーを通して発信したのは、「先進的な道の駅は、お客さんが入っていて経営状態がよいだけでなく、地域に雇用を生み出し、入域観光客の集客エンジンになっている」というメッセージ。
このメッセージを裏付ける先進事例を、セミナーの内容から抜粋してお届けします。
道の駅は、負のスパイラル断ち切る要素を多く含む事業 - 宮崎県都農(つの)町
宮崎県都農町は、海山地がそろった農業のまち。山の手で育つ生果用のぶどうを使った都農ワインや宮崎牛、豚鶏にトマトやきゅうりと、豊富な一次産品に恵まれています。
8年前、町政施行90周年の節目に立てた10年計画で、3つの政策を柱に掲げました。その一丁目一番地が「道の駅を中心とする中心市街地の活性化」。口蹄疫で壊滅的な被害を受け、主要産業である畜産で町内の牛豚鶏が全滅というどん底だった当時。河野町長は、「これが失敗したら都農町はなくなるかもしれない。生き残りをかけた、まさに乾坤一擲の事業でした」と振り返ります。
都農町 河野正和町長
「人口が減り、町民に元気がなくなり、町民所得が減り、税収が減り、まちがさびれて、さらなる人口減少を招いていました。こうした負のスパイラルに対して、道の駅で交流人口を増やせば、まちが元気に見える。道の駅が主要産業である農業の6次産業化を牽引し、なおかつ町民の雇用の場にもなって町民所得が増える。町民所得が増えれば税収も増え、次なる政策にあてることでまちの魅力が増す。こうしたことが、国庫補助事業や国の直接建設による国の支援を受けて、少ない出費でできる。議員や住民に、繰り返し語りかけました。」(河野町長)
総予算のうち、町の負担は口蹄疫からの復興ファンドなどを活用してなるべく少なくなるよう工夫しました。道の駅の運営は、農協・漁協・商工会が共同出資して設立した「株式会社まちおこし屋」が行うことに。地域の主要な経済団体がタッグを組んだ全国でも珍しいこの布陣は、町長の呼びかけで集まり、町の課題や解決策について議論を重ねていた「地域振興懇話会」から生まれたものです。
まちの未来を案じた各分野のリーダー手を取り合い、まさに総力戦で道の駅を軸にしたまちづくりに着手した都農町。
そうして完成した「道の駅つの」はオープンして7年。40万人の年間集客目標に対して、70万人が訪れ順調に黒字経営を続けています。利益の中から1億円を町の財政に寄付するなど、財政状態の改善にも寄与しているほか、長らく県内ワースト3に低迷していた町民所得は、直近のデータで26市町村中15位まで浮上。税収は、河野町長就任当時から35%ほど増収していますが、道の駅もその一因です。
また、道の駅が商社機能を担い、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」への特産品納入が実現したり、「道の駅つの」がたびたび石破元地方創生担当大臣やJR九州社長の口に上るといったPR効果も。道の駅での販売が、やまやの明太子のたれに使われるワインや梅、聘珍楼の肉まんの豚肉など、民間企業への納入の足がかりになった事例も出ています。また、高齢者サロンやイベント会場としても機能し、地域の賑わいを創出しています。
さらには「『道の駅つの』でしか売っていない商品をつくろう」という目標ができたことで、役場内で特産品開発への気運が高まりました。このことが、後になってふるさと納税の大成功を呼び込みます。
※都農町ふるさと納税に関する取り組みは、「【特集】ふるさと納税のその先へ?宮崎県都農町の挑戦?」の記事をご覧ください。
「役場の職員自ら汗をかいて、6次産業化を一生懸命してきました。そのおかげもあり、ふるさと納税の返礼品を充実させることができたんです。平成25年に104万5000円だったふるさと納税額が平成29年には79億1306万6992円に激増しました」(河野町長)
口蹄疫のドン底から始まったドラマのようなサクセスストーリー。河野町長は「町民に自信やプライドを回復してもらうことが、道の駅の目的であり成功の原動力」と、力を込めていました。
今後は、道の駅つのの年間来訪者数100万人を目指し、1泊2日で楽しんでもらえるコンテンツの拡充を図っていくとのこと。都農町は、道の駅を軸にした地方創生の先端を走り続けていきそうです。
稼げる「浜のかあさん食堂」へ ? 北海道鹿部(しかべ)町
北海道鹿部町は、ホタテの養殖や鹿部町沿岸付近でしかとれない白口浜真昆布、スケトウダラや甘エビなどの海の幸と、温泉に恵まれた町です。「道の駅しかべ間歇泉公園」は、北海道新幹線の新青森-新函館北斗間開通と同時の平成28年3月にオープンしました。もとは温泉旅館だったところ。平成11年につくった町営公園の来場者が減っていた折、観光政策のグランドデザインの一環で再整備し道の駅に。物産館、浜の母さん食堂、足湯と、足湯に浸かりながら見物できる。10分に一度噴き上がる間歇泉が名物です。
鹿部町 盛田昌彦町長
中でも、浜のかあさん食堂は漁協の女性部が運営する人気コンテンツ。地元のお母さんたちが買い付けの権利を持ち、その日の朝に漁港で仕入れた新鮮な素材で家庭料理を手づくりして道の駅のお客さんに振舞っています。地のものを使ったお母さんの家庭料理は、食堂で食べられるだけでなく料理体験もでき、インバウンド客に人気です。温泉の蒸気で蒸した甘エビやホタテをいただける「温泉蒸しどころ」も。道の駅しかべ間歇泉公園はこのほか、近くの川で鮭の遡上見学などの体験観光の拠点にもなっており、地域資源を結集して来訪客を呼び込む創意工夫が凝らされています。
就任1期目、自身も漁師の息子という盛田昌彦町長は、「15名ほどの雇用を生み出し、域外からのお客さんを呼び込む経済効果は数億円と試算していますが、施設自体は数千万円の赤字です。黒字化を目指していきたい」と話しました。
道の駅での仕事や、仕事を通しての外国人や来訪客との交流は、町民の生きがいになっているそう。「楽しいからお金はいらない」というお母さんたちに「続けるためには稼がないと」と語りかけながら、経済的な成功も目指す構えです。
道の駅をヒットさせる3つのポイント ? 株式会社シカケ・一般社団法人全国道の駅支援機構
最後に、一般社団法人全国道の駅支援機構の理事であり、株式会社シカケ代表取締役の金山宏樹さんから道の駅をヒットさせる3つのポイントが、さまざまな実例とともに紹介されました。
金山さんは、前職で株式会社うずのくに南あわじの飲食事業部を率い、数々のヒット商品・メニューを生み出した仕掛け人。
一般社団法人全国道の駅支援機構理事 金山宏樹さん
「全国1145箇所と1993年の103箇所から激増している道の駅は、自治体が設置し民間企業や業界団体が運営している。3割が赤字と言われており、指定管理料を外せば赤字の道の駅はもっと多い」と道の駅事情を概観した上で、黒字化できる余地はまだまだある、と話しました。
金山さんによれば、黒字化に必要なのは、プラスに描くこととシカケ、そして現場力の3つ。「現場の人たちがどうありたいのか、共通認識を持ち、毎日の積み重ねをすれば想像以上の結果が出ます。1年で売り上げを2倍にすることも、まったく夢ではありません。指定管理料もらってとんとんでやろう、ではなく、運営会社がどのくらい本気でやれるかです」と道の駅の潜在的価値を評価します。
道の駅うずしおの売り上げは、金山さんが仕掛け始めてから4年で年間売り上げが4億2000万円増えました。これは、「淡路島にもっと淡路島を。」というスローガンを掲げ、「売る」ではなく「買いたくなる準備をする」という意識改革を断行。食とロケーションに照準を絞りさまざまな打ち手を繰り出した結果です。
「淡路島の名産である玉ねぎの生産者さんに話を聞いたとき、玉ねぎにものすごくワクワクしたんです。なんでこんなに甘いの!?品種があるの!?と。でも、それが全然コンテンツになっていなかった。コンテンツというのは、写真を見て『ここに行ってみたい!』と思わせたり、実際に来て食べてくれたお客様の記憶に残り、SNSでシェアしたくなるモノやコトのことです。」
たとえば、金山さんは道の駅うずしおで、海鮮丼に淡路島産ではないマグロやサーモンをのせるのをやめました。
白い海鮮丼
「淡路島で獲れるのは白身魚なのに、なんとなく一般的な赤身の入った海鮮丼を目指していたんです。それなのに食べログとかでお客様が『海鮮丼が美味しかった』と書いているのを見ると、すごくいやだった。白身魚だけにしない?と提案したら、料理長は『色がないと見栄えが悪い』と言う。そこで、数種類の白身魚を、魚の名前を書いた札付きで別盛りにし、『白い海鮮丼』と名付けたんです。Googleで検索しても、『白い海鮮丼』は誰もやっていなかった。」 道の駅うずしおにしかないオリジナルコンテンツ誕生の瞬間でした。
金山さんは、小売業、飲食店等の成功の法則は、次の3つに集約できると話します。
- 魅せ方を変える
- 名物をつくる
- 高価格帯の商品の投入
この法則に則り、金山さんは とある卵専門店で看板商品を親子丼からパンケーキに変えて売り上げを1年で対昨年比200%に増やしたり、千葉の某道の駅をピーナツでとがらせて行政が算出していた売上予算を340%超えるものに激増させたりと、次々に成功事例を積み上げています。ここでも、現場が圧倒的な力強さを発揮し、大きな結果につながったといいます。
そうして人を集め、お金を稼げるようになった先の道の駅の未来を、金山さんは次のように描き、セミナーを締めくくりました。 「年金暮らしの地域のお年寄りが、道の駅の料理教室や品質管理教室に参加して、パンをつくれるようになれば、道の駅で売ってお小遣い稼ぎができます。それで増えた収入で、若い人のチャレンジを出資というかたちで応援する。そんなふうに地域でお金と価値が循環するしくみのエンジンになれると思います。」
●宮崎県児湯郡都農町
●北海道鹿部町
●株式会社シカケ