今年3月にJR北海道の石勝線夕張支線が営業を終了し、メディアでも大きく報道されましたが、近年、北海道をはじめ地方の鉄道は少子化や人口の流出により経営環境が悪化し、地域の公共交通をどう維持するかが全国の地域鉄道共通の課題となっています。今回は、地方における現状と課題から「鉄道」を通して今後の地域の活性化について考えてみたいと思います。
2000年度以降に全国41路線、約900kmの鉄軌道が廃止
3月23日に岩手県沿岸部を走る三陸鉄道リアス線が開業しました。2011年3月に起きた東日本大震災による津波で宮古―釜石間の鉄路が遮断されていましたが、実に8年ぶりに復活し、163キロが全線で開通しました。沿線住民の交通手段はもとより、鵜住居住駅付近には今年9月に開幕する「ラグビーW杯2019」会場となる復興スタジアムもあるため、訪日外国人旅行者も含め多くのラグビーファンが利用されるなど観光振興に寄与することも期待されています。
寸断されていた路線が再開し、復興へと進んでいく嬉しい知らせの一方で、前述の夕張支線のように廃線となり、バス転換により公共交通を維持していく地域もあります。地方における地域鉄道は、地域住民の通学や通勤などの交通手段として重要な役割を担うとともに、地域の経済活動の基盤ですし、移動手段の確保、少子高齢化や環境問題への対応、そして、まちづくりと連動した地域経済の自立などから活性化が求められている重要な社会インフラです。
■地域鉄道
地域鉄道は、一般に新幹線、在来幹線、都市鉄道に該当する路線以外の鉄軌道路線のことを指しますが、地域鉄道事業者の運行主体は中小民鉄及び第三セクターに分けられます。2019年4月現在、下表のように中小民鉄が49社、第三セクターが47社の計96社になります。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)※太字は第三セクター
沿線の人口が限られる地域鉄道では、少子高齢化やモータリゼーションの進展等も重なって通勤や通学の利用が減少しており、運行本数等のサービス水準の大幅な低下が進行するとともに、事業者の経営悪化が急速に進行し、路線の維持・存続が困難になるなど大きな課題となっています。実際に鉄軌道については、2000年度から2018年度までの19年間に41路線、約900kmの鉄軌道が廃止になっているという厳しい現実があります。
地域鉄道の輸送人員については、1991 年度をピークに2002 年度頃まで減少傾向でしたが、その後、横ばいの状態が続き、2011 年度からはわずか増加傾向が見られたものの、1990年度と2015年度を比較すると約20%の減少となっています。また、経営状況についても、輸送人員の減少等に伴い、2017年度には事業者の73社(76%)が経常収支は赤字で、今後の急激な人口減少の下で地域公共交通をめぐる環境はますます厳しいものになることが想定されています。
(資料:鉄道統計年報及び国土交通省調査より筆者作成)
通学・通勤以外の利用者の取り込みや収益を確保へ
地方の鉄道は、長期的な輸送人員の減少等により経営が厳しく、また施設保有に係る経費が収支を圧迫するコスト構造上の問題も存在しています。国交省では潜在的な鉄道利用ニーズが大きい地方都市やその近郊の路線等について、地域公共交通活性化・再生法に基づく地域公共交通網形成計画の枠組みを活用して地域鉄道の利用促進や地域の活性化を図るべく、鉄道の利便性向上のための新駅の整備、行き違い設備の新設など施設整備に対し支援を行うといいます。
地域鉄道は、沿線の通勤・通学や買い物、通院など地域の日常生活の移動手段として、地域住民の暮らしを支える役割を担っている生活路線です。特に自動車を運転できない子どもや学生、高齢者にとっては目的地への移動手段として欠かすことのできないものであるとともに、朝夕の通勤・通学時間帯では決められた時間に多くの乗客を運ぶなど他の公共交通機関よりも優位性が発揮されることから地域住民の移動手段として重要な意味を持つといえるでしょう。
また、地域鉄道は地域住民の生活路線であるとともに、観光振興や地域活性化の基盤としても重要な役割を果たしており、厳しい状況下においても地域が主体的に鉄道の維持や活性化に向けた取り組みを促進していくことが必要です。次にまとめたように、地域鉄道においては日常利用者に向けた利便性の向上、移動手段以外の鉄道乗車の目的化、交流人口の拡大などを核にした施策が望まれます。
(資料:観光庁資料を基に筆者作成)
昨今、生活路線としての動きで注目されているものに貨物があります。ドライバーの高齢化等の問題もあり、地方での配送効率が低下するなど物流では課題を抱えていますが、地域鉄道の車内スペースを活用して貨客混載で荷物を運ぶ例が増えています。宅配業者と組んで宅配便を積むだけでなく、地域の農産品などの輸送にも使われており、地域の暮らしを支えるだけでなく、地域の活性化にも大きく貢献することが期待されます。
地域鉄道は観光に活路を見出し国内外の旅行者誘客へ
訪日外国人旅行者が3,000万人を突破して2020年には4,000万人を目指す日本において、地域鉄道でも観光を切り口として改装や新たな車両の導入により、鉄道自らが観光資源となって観光誘客を図る事業者が増えています。国交省でも訪日外国人旅行者の移動に係る利便性向上や利用環境の改善を促進するため、インバウンド対応型鉄軌道車両の整備、低床式車両の導入をはじめとするLRTシステムの整備及びICカードシステム導入等の支援を行うといいます。
地方の地域鉄道では、観光振興の面でも重要な役割を果たしていますが、昨今のインバウンド需要などを見込んで観光に活路を見出す事例も増えています。そのひとつが、相互の鉄道利用促進など「友好・姉妹鉄道協定」や「観光連携協定」といった海外の鉄道事業者との提携です。毎年、多くの訪日旅行者が訪れる台湾の鉄道事業者4社やスイスの3事業者が下表のように国内各地の事業者と提携して広告やイベントなど共同プロモーションを実施しています。
(資料:観光庁資料より)
地方の鉄道では観光列車の運行により国内外からの誘客に取り組んでいますが、観光庁では訪日外国人旅行者の地域鉄道の利用促進に向けて有識者委員会が開催されています。ヒアリングや調査結果を踏まえ、プロモーションや商品・販売、受け入れ環境整備などの方向性を決めて「インバウンド誘客促進ガイドライン(仮称)」がまとめられ、2019年度にはモデル事業者を選定する方向といいます。
地域鉄道は、地方においては多くの人々が行き交う主要なインフラであるほか、まちづくりの拠点としての役割や乗車目的で訪れた観光客が地元の商店街や観光施設を利用するなど地域経済の循環や観光振興等に貢献することも期待されています。地域鉄道にはさまざまな社会的価値があるだけに、さらに活性化に向けた取り組みを推進していかなければなりません。次回は、観光振興に寄与している各地の地域鉄道の事例について触れていきます。