衰退地域における「協同組合」の可能性
イタリア・ソレントにおける漁業、農業における新たな協同組合の挑戦
木下 斉
2019/06/14 (金) - 08:00

EUでの地域間格差が大きな問題となり、各国では右派の動きが強くなり、イギリスは連日Brexitで議会は揺れてヨーロッパを揺るがす事態となっています。EU統合によって金融システムなどは議論されますが、実際のところは農林水産部門における功罪ともに生まれており、それらは農林業中心にあるような非工業で都市化がそれほど進んでいない地域に強い影響を与えています。

そのような中、変化に対応しながら、新たな付加価値を生むために一次産業分野では様々な形式での協同組合事業がスタートし、成果を生み出しています。これらの事例を漁業とレモン農業との2回に分けて、協同組合の仕組みと共に解説していきたいと思います。

今後、資本的にも限りがある地方が再起していく上で協同組合の仕組みは極めて可能性を秘めており、それらについても実例を踏まえて解説していきたいと思います。

1. EUによる漁獲規制によって生活変化が求められたソレント漁民たち

南イタリアのソレントは現在は観光地としても人気の地方都市となっています。
しかしながら、長らくは漁業や農業が盛んな地域であり、漁民たちはマグロ漁などで生計を立てていました。しかしながらEU統合後、漁獲規制が厳しく行われるようになったため、漁民たちは生活変化を求められます。ソレントの場合には規制前には120名ほどいたという漁民が、現在は30名ほどまで減少しています。そしてその残っている方々も従来の漁業だけでは生活はできないため、新たな事業に取り組んでいます。それが、ペスカツーリズモ(観光漁業)です。

キャプテンのおじいちゃんと、学校帰りの孫が共にペスカツーリズモの対応をしている

しかしながら、海を使った観光事業もまた規制されているため、認可を取らなくてはなりません。そのためには国への認可申請手続きも必要で、かつ時間も2年ほどかかるということで個人ではできないため、協同組合を皆で設立して取り組んでいます。

訪問した漁業系協同組合の一つ、Pescaturismo da O`puledrone は元々が一族で漁業を営んでいたものの、漁獲規制によって新たな活路を見出すために関係者一同で協同組合組合を新たに設立し、ペスカツーリズモの事業を立ち上げ、元々加工場だった建物をリノベーションしてレストランの経営まで行っています。

漁港近くのレストランは夜になると客足も増えて繁盛していた

観光地であるからこそ可能なペスカツーリズモである一方で、ソレントはアマルフィほどではないとはいえ観光地として人気を集めているため、近年は不動産が高騰し、生活に困る地元の多くの人たちは不動産を手放しています。加工場などの不動産をもともと保有し、さらに協同組合を設立してペスカツーリズモや飲食事業を立ち上げられたからこそ、不動産を手放すこと無く、関係者で経営を続けられています。

2.協同組合の持つ、地域再生分野での可能性

協同組合は様々な形式で世界各国で生まれ、発展していますが、基本的には労働者個人や地域の中小事業者たちが中心となって設立し、運営する共益組織です。日本においては大原幽学の先祖株や二宮尊徳による報徳社など農村再生における取組みが協同組合の前身とも言われています。協同組合的な取組みは、金融面でいえば講や結の仕組みも日本には古くから根付いており、皆で資金を出し合い、互いに合同する取り組みは馴染みのあるものです。かつて日本の各集落においても個々人が出せる資本には限りがある一方で、ある時に個人として、もしくは営む事業として相互で資金を融通したり、合同して取り組みを行う必要がある機会はそれなりにあったわけです。その際に協同組合的な取り組みは有効に機能しました。

現代においても衰退地域においては個々人が保有する資本は限定的で、一人で多額の資本を拠出して再生事業を推進することは極めて困難です。一方で、財政状況が悪くなると行政もまた巨額の投資を行うことは難しくなると共に、そもそも事業体ではない行政として効果的な地域産業再生投資を行うことが難しいのは日本の過去の農林水産業政策を見ていてもわかります。

そのような中で、協同組合という選択は極めて興味深いです。私益とも公益とも異なる、その中間に位置する共益組織であるからこそ、日本においても税率の軽減政策なども行われています。また、株式会社の一般的なルールのように出資者が出資金額に応じて発言権があるわけではなく、あくまで一人一票をもとにし、資金を皆で出し合い、共同事業を営むことができます。利益も組合自治に基づいて様々な形式で配当を出すことができ、出資金配当以外でも利用者配当といって組合事業の利用金額に応じて配当することも可能であったりします。

自分たちで資金を出し合い、事業活動を行い、利益も自分たちに戻ってくるという仕組みは、衰退地域の所得改善においてとても大切です。地域における所得は大きくわけて労働所得と資本所得に分けられるわけですが、協同組合事業がうまくいけば、地域の幅広い出資者たちが配当を受けて資本所得を得ることが可能になるわけです。

3. 協同組合が強いことが地域経済の基盤であるスペイン・バスク自治州

3年前に訪ねたスペイン・バスク自治州は、スペイン国内でも平均所得が高く、失業率が低い地域ですが、モンドラゴン協同組合企業連合など10万人規模の雇用人数を誇る協同組合グループがあります。協同組合はあくまで日本国内であれば都道府県、海外でも各州などの自治体単位に事業範囲が限られるため、グローバル企業のように利益を海外に投資したりしません。あくまで儲けは組合員へ配当したり、自分たちの地域に再投資されます。バスクで郊外に展開されている大型ショッピングモールもまた、EROSKIという協同組合経営なのです。地元の消費によって生じる利益はまた地元に戻っていくようになっているわけです。また所得格差も最低賃金と最高賃金との差を5倍に設定するなど、所得のばらつきを減少させ、地域経済における消費活動の喚起にもつなげています。

普通のショッピングモールのようで、実は地元協同組合経営。地元消費で生まれるが地域外の本社に流出しない地域経済は大切

日本において、私達の生活に近いのは消費生活協同組合などで全国で2187万人、実に全世帯の37.7%(2018.3統計)が加盟しており、決して協同組合は遠い存在ではありません。産直事業などで地方農林水産業においても大きな貢献をしている事例も多くあります。その他でも農協、漁業といったような全国にあり、政策的にも強い影響を受ける協同組合もありますが、近年は制度疲労とも言われています。

そういう意味では、協同組合であればなんでも良いというよりは、共同出資で新たな地域内生産や消費のモデルを構築し、組合員への配当、地域への再投資などを効果的に推進していく地域経営を共益団体を通じてどうやるか。このような仕組みを今一度地方での事業にどのように活かすか、というのが問われていると言えます。自治体は財政難、企業は成長地域に投資するという行動原則を鑑みても、地元と盛衰を共にせざるを得ない協同組合という仕組みを通じた地域再生を考えることはこれから極めて大切になってくるでしょう。

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