日本列島には本当の幸せを教えてくれる宝物、未来のヒントがいっぱい詰まっている宝物、世界に発信しなければならない宝物はまだたくさんあります。それらの宝物を誰もが楽しみ、さらなる学びに昇華できるようにデザインする。そして、地球社会の人々が日本を訪れ、幸せの種を探し、夢を育むミュージアムにするというミッションを支える新しい仕組みがあります。
文化起業家へのパスポートが地域デザイン学芸員
私が会長を務め、主宰する日本地域資源学会では、前述のミッションを実現するために2015年より茨城県那珂市、行方市などで実証実験を展開してきました。そして、2018年度には、文部科学省の職業力育成プログラム(BPプログラム)として、筑波学院大学で、「地域デザイン学芸員」の養成をスタートさせました。今回はその成果を紹介し、地域文化資源をミュージアム化することの意義と可能性について考えたいと思います。
■地域デザイン学芸員
地域デザイン学芸員とは、地域の文化、生活資源を付加価値化し、観光、都市デザイン、コミュニケーションなどの新しい産業を起業したり、これまであった産業を文化や生活の視点から変革、創造することができる新しい人材です。
1. 地域デザイン学芸員とは
地域デザイン学芸員が活躍する場として次の6つの分野を想定しています。
① 暮らしの記憶を記録する ― みんなのデジタルアーカイブ
地域社会を歩き、地域社会と関わりながら、感じたありのままの感動をカメラに記録し、感動を共有できるようにします。
② 感動を共有するコトを起こす ― コミュニケーションデザイン
言葉の壁を超えて、五感を生かし、多様な来歴を持つ人とつながります。たくさんの人と多様な情報を共有し、さらには人々の学びや自分磨きにも踏み込んだコミュニケーションに挑戦します。
③ ふるさとの宝物を感動商品に ― ビジネスをプロデュースする
ふるさとの宝物を誰もが楽しく共有できるように物語化します。それをさらに踏み込んで商品化を行い、学習活動や観光、さらにはビジネスに生かすことができるレベルに磨き上げます。
④ 人が集まるミュージアム展開 ― まちに知と学びをふり注ぐ
人が集まる駅や公園や病院、まちなかの空き店舗に、誰もが手にしたくなる美しい本やふるさとの宝物を展示し、映画の鑑賞会やクッキング教室などを開催し、普段着で夢を探せる場を生み出します。
⑤ お母さんを学芸員、司書に ― 地域社会の担い手を育む
子どもはふるさとの未来からの留学生です。ふるさとのみんなが子育てに取り組むために、お母さんに司書や学芸員のスキルを身につけてもらう必要があります。その仕組みづくりに取り組みます。
⑥ 人を動かし、組織をつくる ― 地域社会をデザインする
未来からのまなざしで、地域社会が抱えている課題を発見します。そして、生活者が参画して地域社会の課題を解決するような機運をつくり、生活者をサポ―トしながら、その仕組みを形成します。
地域の生産者の方と関わりながら地域の文化資源、宝物を学びます
学んだ成果生かし活動する場がみんなのミュージアム
2. みんなのミュージアムとは
地域デザイン学芸員が、学んだ成果を生かして具体的に活動する場が「みんなのミュージアム」です。地域デザイン学芸員のスキルを習得すれば、誰にでも、どこにでもつくることができます。
筑波学院大学附属図書館を図書館カフェ「おいしいミュージアム」に改装
「みんなのミュージアム」は、地域デザイン学芸員が収集した「ふるさとの宝物」を中心に、「想像力を育む本棚」(=ライブラリー)と「人と人を結ぶカフェ」(=交流)の3つの機能で構成します。
市庁舎のエントランス、公民館、児童館、福祉センター、公園、道の駅など公的な施設をあつらえ、駅、ホテル、スーパマーケット、病院の待合室、喫茶店・カフェ、商店街、神社・仏閣、スポーツジムなど民間の集客施設に3つの機能を組み入れることで普段何気なく過ごしていた日常の生活に夢や感動があることに気づかせ、暮らしに新しい風を吹き込みます。
資源開発に取り組む社会人向け人材養成プログラム
3. 地域デザイン学芸員の養成カリキュラム
1) 基本スキル
地域デザイン学芸員には、a)ふるさとの宝物を探し、目利きすることができるエクスプローラ、b)探してきた宝物を誰もが楽しく学ぶことができるようにデザインする物語デザイナー、c)人々のやる気を引き起こすコミュニケーションデザイナー(プロデューサー)のシゴトをこなします。
その養成にあたっては、これまでの博物館学芸員の養成、観光経営、地方創生にて個別に展開されていた「文化力」「デザイン力」「マネジメント力」の3つの分野を組み入れ、まちを歩き、ふるさとの宝物を探す「地域文化資源調査(=フィールドワーク)」を実施しながら、受講者の知恵や経験を持ち寄り宝物を磨き上げ、富を育む学びのコンテンツに完成させ、最終的には期間限定の「みんなのミュージアム」を運営するという演習形式でプログラム展開しています。
2) 地域デザイン学芸員ラインセンス
地域デザイン学芸員のキュレータとしての履修証明を得るためには、9科目19単位の習得が求められ、継続的に学びを進めていく必要があります。受講者の到達目標を確認しながら、学びの成果が活用できるように、分野の近い複数の科目を組み合わせて「エクスプローラ」「コミュニケーター」「クリエータ」「エデュケータ」「プロデューサー」の5つのライセンスを設定しています。
5つのライセンスを取得し、「地域文化資源総合演習」を修了した受講者には、地域デザイン学芸員(キュレータ)の履修証明書が発行され、学芸員として、官民に多様な施設でプログラムを実践することができます。
ふるさとの宝物に光を当て、磨き、デザインで活性化へ
4. 事例報告:うしくる里のおいしいミュージアム
2018年度は、茨城県牛久市を中心に地域文化資源調査を実施して、「おいしいミュージアム」を実施し、学びのコンテンツとミュージアムグッズなど商品開発を展開しました。
1) 目標の設定
牛久市は、都心からおよそ50キロ程度の位置にあり、ベッドタウンとして宅地開発が進み、現在も人口が増加しています。重要文化財牛久シャトー、牛久大仏があり、国内外から1年間に170万人の人々が訪れる茨城県有数の集客地になっています。
しかし、富はもたらされてはいません。なぜならば、白鳥のいる牛久沼、小川芋銭の河童など自然、歴史、文化、芸術等の地域文化資源の調査が十分でなく、まちをミュージアムとして編集することができないでいるからです。
今回のプログラムでは、受講者の知恵と経験を持ち寄り、牛久市の地域文化資源の再発見を行い、未来志向のミュージアムに編集し、実験的に「みんなのミュージアム」を展開してみることを目標に設定しました。
2) おいしいというまなざしで地域文化資源の調査
日本を訪れる人が空から初めて目にする巨大なシンボル牛久大仏のある国際観光都市牛久には、日本で最初の本格的ワイナリーの文化遺産があります。あんぱんを考案し、起業した木村安兵衛のふるさとです。近代日本の食文化をリードした牛久という視点で地域の文化資源を見直してみると、牛久には、ブラックピーナッツ(黒落花生)、北限のお茶、味噌と麹など人々の暮らしを豊かにする宝物があることを発見しました。
5種類の茶葉をパッケージデザインした受講生開発のミュージアムグッズ
3) おいしいをみんなのミュージアムに
おいしい宝物を糸口に、五感で楽しみながら「知る」「つながる」そして「夢を探す」新しいミュージアム体験を開発するという基本計画を設定し、展示、選書、カフェメニュー、ミュージアムッグッズを開発しました。
https://www.jclabo.comで公開しています。
2019年3月8日(金)~5月30日(月)筑波学院大学附属図書館をおいしいミュージアムに改装し、「さくらとめぶきのめぐみをいただくおいしいミュージアム」を開設運営しました。
「おいしいミュージアム」は、地域社会に新しい文化起業の種をまくこと、志を共有する共感者と起業家を巻き込むことに成果を挙げています。2019年の9月には、つくば市で音楽教室を経営して50年目を迎えるショパンアカデミーの代表安田睦子さんと協働で、音楽とおいしいを縁結びした新しい視点で展開します。
https://www.o-museum.comで公開されています。
さて、今回のプロジェクトを整理すると、ふるさとの宝物に光を当て、それを磨き、デザインすることで、人々の夢や感動を育む知と学びのコンテンツの新しい可能性が見えてきます。知と学びをまち中にふり注ぐことで、感動をさらなる学びに進化させ、人々に幸せの種をまき、自然、歴史、文化、音楽、スポーツ、アートを縁結びしてみんなの学びを創造、支援する情報、メディア、知識サービスなどの新しい産業のカタチが見えてきます。新しい生活、文化、そして産業を実現するためには、未来への志を持ち、時代を拓き、新しいコトに挑戦する起業家の誕生がまたれます。
なお、日本地域資源学会が主催、パートナーシップ協定を結ぶ地域活性機構が協力し、9月より社会人向けの2019年度「地域デザイン学芸員」講座の募集を開始して、10月から開講を予定しています。今回は医食同源のテーマを設定し、牛久市と銀座キャンパスでの授業を計画しています。
プログラムは、https://www.j-contents.orgで公開します。