現在、働き方改革の国民運動という「テレワーク・デイズ」が実施されていますが、最近では仕事と休暇の両立を目指す「ワーケーション」という取り組みが新しいライフスタイルとして注目を集めています。各地の自治体からは地方創生につながる新しい働き方として期待が高まりますが、今回は「ワーケーション」の現状などから可能性と地域の活性化について考えてみたいと思います。
年次有給休暇の取得率は51.1%で目標の70%に及ばず
1本の動画があります。社会人2年目の女性社員が子どもの急病により得意先に行けなくなった先輩の代わりに出張してデザイン案を提案し、テレビ会議やサテライトオフィスを駆使しながらクライアントの要望に応えた修正が認められ、自分へのご褒美に地元の名物を頬張るという映像に被って「Hello My TELEWORK」の文字が映し出されます。これは来年の東京五輪・パラリンピック開催が刻々と迫るなか、総務省が作製した「テレワーク・デイズ」の周知動画です。
総務省などが東京都及び関係団体と連携し、2017年より2020年東京オリンピックの開会式に当たる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、働き方改革の国民運動を展開中です。2017年は6万3千人(1日実施)、2018年は延べ30万人(5日間実施)以上が参加しましたが、今年は本番テストとして7月22日~9月6日までで延べ60万人の参加を目標としており、在宅やモバイル、サテライトオフィスなど、さまざまなテレワークの実施、時差出勤にフレックスタイム、ワーケーションを組み合わせた多様な働き方での参加が可能になっています。
さて、日本の企業では周囲に迷惑をかけたり、積み残した仕事で休み明けが忙しくなったりすることから有給休暇を取りづらい状況にあります。実際に厚生労働省の2018年に発表された「就労条件総合調査」を見れば、2017年の年次有給休暇の取得率は、わずか51.1%でした。2016年からは1.7ポイント上がりましたが、欧米諸国でほぼ完全取得されている状況に比べ、政府が掲げる2020年までに取得率を70%とする目標にもまだまだ遠く及ばないのが現状です。
(資料:独立行政法人労働政策研究・研修機構)※厚生労働省「就労条件総合調査」より
2019年4月より年休を年10日以上与えられている従業員に対して企業が最低5日以上の消化が義務づけられ、厚生労働省でも義務化で取得率のアップを目指しています。ちなみに2018年に約6400社を対象にした調査では、2017年の企業の付与日数は2016年と同数の18.2日で、従業員の取得日数は前年比0.3日増となる9.3日でした。達成ができなかった場合は、働き手1人当たり6ヵ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科されることになります。
そうしたなか、テレワークの一形態として、リゾート地などに滞在しながらIT技術を活用して働いたり、休暇を楽しむ新たなライフスタイルとして注目されているのが「ワーケーション」です。企業のワークライフバランスの実現にも寄与するといわれるワーケーションは仕事をした時間が勤務時間扱いとなり、給与も支払われます。休暇の合間など柔軟な働き方ができるとして、2017年に日本航空が導入して話題となった後、大手企業やIT企業へ広がりました。
■ワーケーション(Workation)
ワーク(Work)とバケーション(Vacation)を組み合わせたアメリカ生まれの造語です。文字通りバケーションを楽しみながら仕事をする意味で、リゾート地などで短中期的に滞在し、リモートワークを活用して仕事を行う取り組みです。
43自治体が「ワーケーション全国自治体協議会」に賛同
JTBとスノーピークビジネスソリューションズが4月1日から施行された「働き方改革関連法」に先立ってハワイでのワーケーションを推進するために法人向けのソリューションとして提携ホテルやレストラン、レジャー施設などでサービスを開始しましたが、元々アメリカでは2000年代に始まり、2010年ごろから徐々に広がりました。海外ではワーケーションを利用する人を当たり前に受け入れるためにリゾート地などでコワーキングスペースが増えています。
日本では和歌山県と白浜町が2015年からワーケーションの受け入れを推進し、白浜町にITビジネスオフィスを設け、民間企業を誘致してきましたが、2019年5月には三菱地所と提携し、「ワーケーションサイト南紀白浜」が開業され、NTTコミュニケ―ションズなど3社が利用しているといいます。また、同所を利用する三菱UFJ銀行は、7月から長野県軽井沢町の自社保養所内にワーケーションオフィスを、NTTコミュニケーションズも同町に施設を開設しています。
企業の働き方改革が進むなか、ワーケーションには全国の自治体も注目しています。特に長野県と和歌山県が積極的で、全国の自治体に呼び掛け、11月にも全国的に普及させることを目的とした「ワーケーション全国自治体協議会(WAJ)」の設立を進めており、8月19日現在で、2県(三重県・鳥取県)27市12町2村の43自治体が賛同を示しています。9月10日は同協議会の参加募集の説明会も開催される予定ですので、今後さらに増えることが予想されます。
ワーケーション・スタートアップ宣言では、以下の5項目を挙げられています。
・都市部の人口集中の緩和や地方への移住の促進
・異なる地域や企業間での協業を進めることでイノベーションを活発に創出
・人々の健康と生活の確保や雇用の促進などSDGsの実現
・長期滞在を通じた人口の創出拡大
・オリパラなどの大規模イベントにおける地域への人の流れの促進
(資料:長野県の資料を基に筆者作成)※赤字は県として賛同(8月19日現在)
リゾート地に滞在し仕事と観光を楽しむワーケーション
企業にとってワーケーションの導入は、国内外のリゾート地や帰省先、出張先などの休暇先で仕事をするという新たな働き方によって、従業員のモチベーションや生産性の向上につながるほか、ワーケーションによって休暇も取りやすくなり、旅行の機会が増えたり、家族と過ごす時間が増えることも期待されています。また、地域との関わりが増えることによって地方創生へも寄与することと思われます。
ワーケーションが広がる一方で現在、総務省が進めているものに「ふるさとテレワーク」があります。地方のサテライトオフィス等においてテレワークにより都市部の仕事を行う働き方のことです。「ふるさとテレワーク」の推進により都市部から地方への人や仕事の流れを創出し、地方創生の実現に貢献するとともに、地方における時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方を促進し、働き方改革の実現にも貢献するというものです。
(資料:総務省資料より)
総務省では、2015年度に地域の実情や企業ニーズに応じた有効な「ふるさとテレワーク」のモデル等を実証した事業を行いましたが、2016年度からは地方自治体や民間企業等に対し、リモートワークやサテライトオフィス等のテレワーク環境を整備するための費用の一部を補助する事業を推進しています。その結果、「ふるさとテレワーク」や「おためしサテライトオフィス」という仕組みを活用して企業が福利厚生制度として導入する例も増えているといいます。
働き方改革は単に時間を短くするのではなく、生産性が上がり、意欲を持って仕事ができる環境づくりが重要ですし、今後の働き方改革を示唆するワーケーションはそのような企業の取り組みに寄与することでしょう。今後、「ワーケーション全国自治体協議会」に賛同する自治体のように導入する地域も増えていくことでしょうが、地方の自治体においては、受け入れ地域としての環境整備を進めていくことが必要になるでしょう。
テレワークの普及に伴って企業や個人がテレワークを活用し、日常の職場から離れ、リゾート地などで通常の仕事を継続するワーケーションに関心が集まっていますが、地方創生の観点からもワーケーションにより人口減少に悩む地域への訪問や滞在が活発になることで、地域経済への貢献のみならず地域間交流がより活性化されることが期待されるとともに今後の動向が注目されます。(年内に各地の最新事例を交え後編を掲載する予定です)