世界的なスポーツイベントのラグビーのワールドカップ日本大会が9月20日に開幕し、1次リーグA組の初戦に登場した日本はロシアを30-10で下し勝利を飾りました。9月28日には世界ランキング1位の強豪アイルランドと対戦します。11月2日まで全国12都市で開催されますが、今回は「ラグビーワールドカップ」の話題から地域の活性化について考えてみたいと思います。
約40億人がテレビ観戦し経済波及効果は約4,372億円
世界で約40億人が視聴するといわれる「ラグビーワールドカップ」のテレビ観戦ですが、前回2015年のイングランド大会での南アフリカ戦の大金星や決勝トーナメント進出は惜しくも逃したものの3勝するなど日本代表の大活躍を契機にファンも徐々に拡大し、20日に日本テレビ系で放送された開幕戦「日本vsロシア」戦の平均視聴率は18.3%(関東地区)で、翌日以降の日本戦以外の試合の中継も軒並み高視聴率を上げています。
■ラグビーワールドカップ
4年に1度行われる15人制ラグビー世界王者決定戦。世界中のラグビープレーヤーにとっては選ばれた人間だけが出場することができる憧れの舞台で、約7週間にわたって行われるラグビーワールドカップは、夏季オリンピック、FIFAワールドカップに次ぐ世界三大スポーツイベントと呼ばれている大会です。
2015年のイングランド大会では、44日間の開催期間中に約247万人の観客が開催地であるイギリスのスタジアムを訪れ、実に約40万6千人が14日間もイギリスに滞在し、試合観戦とともに各地で観光を楽しんだといいます。経済効果も約4,000億円と報告され、全世界で約40億人ものファンがテレビ観戦するなど、スポーツイベントの枠を超える経済的にも好影響をもたらしました。
今回のラグビーワールドカップ2019組織委員会がまとめた「ラグビーワールドカップ2019大会前経済効果分析レポート」によれば、今大会が創出する経済的波及効果は、約4,372億円(直接効果は1,917億円、一次間接効果は1,565億円、二次間接効果は890億円)に上ると期待されていますし、消費だけではなく、約2万5千人の新たな雇用を生み出し、その雇用は大会終了後も継続するといわれています。
2018年には訪日外国人旅行者が3119万人を超え、政府は東京オリンピック・パラリンピックが開催される「2020年には4000万人」という高い目標を掲げているほか、観光立国が「地方創生」の起爆剤と捉えています。今回、訪れる訪日外国人は今までと少し趣が変わり、ラグビー観戦という明確な目的があるため、初来日の人、それも欧米豪というそれほど多くはなかった国の人というのが特徴で、各地で複数の試合を観戦して長期間滞在することになります。
全国12都市の開催で観光や消費などにも大きな期待
2020年の東京オリンピック・パラリンピックは東京を中心に開催されますが、ラグビーワールドカップは、北は北海道から南は九州まで下表のように全国12都市で11月2日まで試合が行われるので、インバウンド需要にも期待が高まっています。陸上競技場やサッカーなどの競技場というスタジアムが多いものの、埼玉県の熊谷や大阪府の花園などラグビー専用スタジアムで試合が行われる都市もあり、ラグビータウンとしてのアピールにもつながることでしょう。
最近では地方を訪れる観光客は三大都市圏に比べ2倍ペースで増えていますし、リピーターは地方の祭りや食、伝統工芸品などを目当てに来日し、母国では決して体験することのできない「コト」や「モノ」に注目が集まっています。今回、初めて来日することになった欧米豪のラグビーファンにも長い滞在期間中には各地でアクテビティや観光などの体験をすることでしょうが、開催には19自治体が関与していますので、開催都市以外への波及効果も期待されます。
ラグビーワールドカップの開催により多くの選手や観客が来訪することを契機に、開催地の自治体と大会出場国との人的・経済的・文化的な相互交流を図るとともに、地域の活性化等を推進するほか、各地の文化財や自然など観光資源を生かすことや滞在型観光の推進などさまざまな施策により地域ならではの特性を生かした魅力ある受け入れ態勢や大会終了後も交流が活発化するように継続的に取り組まなければならないかと思います。
さて、世界最大のスポーツイベントの一つであることは誰しも疑いのないところですが、ラグビーを文化・教育と融合させることの意義や大会期間中には各開催都市でさまざまなプログラムを実施して日本が誇る文化や伝統を世界へ発信し、地域活性化につなげるチャンスでもあります。受け入れ側もスポーツのみならず、文化や経済、教育など幅広い分野での草の根レベルでの交流の促進も望まれています。
スポーツ・文化・ラグビー・観光振興に地域経済の活性化
ラグビーワールドカップは、その有形・無形のレガシーを創出することを通じて、大会開催期間中はもちろん、開催後においてもスポーツの振興のみならず、地域経済の活性化を通じた地方創生への貢献、文化プログラム等を活用した日本文化の魅力の発信、震災復興の推進や教育活動の一層の推進または観光や国際交流の促進等の社会的、経済的発展に貢献できると考えられています。
日ごろ外国人が訪れることが少ない地域もあるでしょうが、2020年に向けますます訪日外国人旅行者が増えることが予想されるなか、各地域ならではの魅力を発信する絶好の機会でもあります。世界的に注目される一大スポーツイベントであるだけに、ローカルゆえの魅力を直接世界に向けて発信すれば、地域も活気づいていくことでしょう。官民連携して地域のポテンシャルをフルに活用することが重要です。
今回の大会では、44日間の期間中に12会場で約1万3千人のボランティアがスタジアムへの観戦客の誘導など大会運営に関わっているといいます。こうしたボランティア参加や各地での宿不足など来年に控えた東京オリンピック・パラリンピックに向けて運営上の試金石になるスポーツイベントともいえます。大きな問題がなく無事に大会が終了することが望まれます。
さらに、地域住民の関心を高め、参加や関与を促すイベント等の実施の機会を継続的していくことも必要ではないでしょうか。そして、各地域においては、スポーツ振興だけでなく、文化プログラムの活用、高齢者や障害者にも優しいまちづくりなどラグビーを通じた交流にとどまらないレガシーづくりも期待されていますし、何より今回の日本大会を一過性のイベントで終わることなく、ラグビーの普及と地域経済の底上げへとつなげて欲しいものです。