関係人口の誘致・活用に必要なのは、地方側の「働き方生き方改革」
木下 斉
2020/02/18 (火) - 08:00

さて、前回、本連載で『関係人口時代の「誘致コスト」と「誘致すべき人材」( https://www.glocaltimes.jp/8666 )』というコラムを書かせていただきました。そこで地方に必要なのは単にゆるい関係を持つ人口ではなく、明瞭に消費もしくは労働力となる人口を移住定住せずとも確保していくところに価値があると解説しました。

それを受け今回は、そのような消費もしくは労働力につながる人材との関係を構築していく上で必要なことについて書きたいと思います。

求められる、遠隔地の人々とのリレーションシップ・マネジメント

基本的に関係人口なるものが語られる背景には、インターネットの存在が書かせません。遠隔地にいても、テキスト、動画、音声など多様なデータ形式でまるでそこの地域にいるかのようにやりとりが可能になるインターネット上のツールが発達したことによって、従来とは異なる形態のリレーションシップが可能になっているのは事実です。

まだまだインターネットが一般的ではなかった20年前であれば、ブラジルの人々と国際電話をするといえば、数分でとてつもない金額が課金されていました。複数の人にFAXで情報を送ろうと思えば、それら全てに通信量が課金されていました。しかし、今となってはインターネットによって海外の人たちといくつもの国を結んで会議を行うのもほぼ無料に近いかたちで叶います。FAXのように都度通信量がかかるということもなく、メールやSNSを使って膨大な人々に情報を一度に発信することが可能になっています。

さらに大きな影響を与えたのが、スマートフォンの登場です。移動中でも通信可能なデバイスをほとんどの人が保有することによって、移動中に会話をしたり、移動中に写真を撮って送信するということが非常に簡単にできるようになっています。imodeが登場したのが1999年ですから、それがわずか20年で、移動通信デバイスでのやり取りを人々が当たり前のように行える時代になったわけです。

このように人と人との関係構築が従来から大きく変わったのがこの20年であり、今の関係人口の議論のベースには、常にインターネットという新たなインフラが我々の生活を変えたことがあります。従来ならば移動し、そこに行かなければやりとりができなかったものが、移動なくとも常にやりとりができ、関係を強く保持し続けられるリレーションシップ・マネジメントが可能になったという変化があるのです。

IT化推進など、地方の働き方改革が第一歩

このような技術革新による社会変化は、地方にとっては非常にプラスの面が大きいわけです。都市部に行かなければ届かなかったものに、地方にいながらもアクセスが可能になっているわけですから、これらを率先して取り込みながら発展を築いていくことが可能なのです。もちろん一部の民間企業や個人では積極的にネットを活用するところもありますが、IDC Japanの各種調査をみても全般的に地方のほうが都市部よりもIT関連に対する投資は低調で、やはり関東地方が最も積極的な地域となっています。さらに2021年以降も北海道や東北地方、北陸・甲信越地方、中国・四国地方といった地方では2021年もマイナス成長、さらに2022年以降もほぼ横ばいから微減という予測となっており、今後もIT化の推進はあまり進まないという予測となっています。それらの理由として地域の経済低迷が挙げられますが、むしろ経済低迷しているからこそ、積極的にIT化などを推進すべきであり、地域外への販売を伸ばしたり、地域外の人材活用に乗り出すべきところなのです。

地方自治体にいけば、なおさら紙と判子の世界も少なく有りません。一人ひとりにメールアドレスさえ付与されておらず、部署でひとつのメールアドレスを使いまわしているなんてケースもまだまだ見受けられます。

このような状況では、いくら人から人へ地元の素敵さをアピールしても、関係人口をベースにして副業人材などの確保を進めようとしても、機能しないのです。なぜならば、既存の働き方があくまで「職場に来て働く」というスタイルに固執しているからです。

まずは外の人材活用を進めるためには、内にいる地元の人々の働き方を変える必要があります。日常的な業務を変え、書類中心の文化からオンラインでのデータ共有へシフトしたり、オンライン会議を導入したり、リモートワークなども可能にしている職場だからこそ、都市部の人材の活用が可能になるのです。都市部の人とだけ特別に、というスタンスでは一般的な職場と全くの馴染まないのは言うまでもありません。

未だに「地元にわざわざ来てくれる人じゃないと信用できない」というようでは、外の人材は信用できない、毎度出張して地元に来てほしい、という話になってしまいます。しかし、毎度地方に出張して来てくれるほど暇な人が本当に優秀な人材なのでしょうか。当然、優秀な人材は引く手数多です。それでも地元に関心をもってくれて共に何か協力しようとしてくれるとすれば、リモートで関わってもらうことを前向きに捉える必要があります。そのためには、いちいち皆で集まって会議をしない、オンラインでのプロジェクトワークを行っていくというスタイルを、受け入れる側の地方企業内でも始めるのが大切な第一歩なのです。

外部人材とつながる地方企業、個人は既に動いている

私も多数の地域で様々なかたちでお付き合いする企業がありますが、これらの企業とは基本的にはリモートで日々やりとりをし、定期的なオンライン会議を行いながら、1ヶ月から2ヶ月に一度現地にいきます。地域活性化を目指している地方企業などでも、地元のメンバーは日頃から普通にオンラインの各種ツールを活用しています。このようなグループは既に地方に多数あり、効果的に地域外の人材との関係を構築し、事業に活かしたり、販売につなげています。

既にいわゆる関係人口としての消費力、労働力を効果的に駆使し、成長につなげている地方企業は、都市部と比較しても決して劣ることのない働き方を採用し日々の業務を行っています。だからこそ、外部人材とつながってそのパワーを効果的に活かすことができるのです。

これは企業だけでなく個人でも同様です。地元だけでなく様々な趣味、関心などの切り口から地域内外に交友関係を広げ、それらをもとにして自分のライフスタイルを変えていっている人は、既に個人として幅広い関係人口を獲得できているといえるわけです。交友関係開発にも投資資金は必要なわけですが、それが今はネットで最小化され、個人の人生を豊かにするリターンを得ることは非常に容易になっています。地方だからどうせできない、ということは本当に少なくなっています。

これら既に先駆的に取り組んでいる企業や個人などがいる一方で、前述のようにIT化に遅れ、昔ながらのやり方に下手に固執している限り、予算を獲得して「交流人口の確保のために」とプロモーションや、交流イベントを開催したとしても、全くもってコスト倒れに終わるでしょう。

プロモーションの前に行うべきは、地元企業、個人がこれら基本的なテクノロジーを活用した、今の時代に即した働き方、生き方に適応することと言えます。そうすれば、物理的な制約を超え、国内の都市部人材のみならず海外の人たちをも仲間にして動き出すことができる時代になっています。

外に向けての発信の前に、内側つまり組織内を振り返ることこそ重要なのです。

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