「和歌山で仕事するって、実際どう?」を、ありのままに語った3時間
TURNS×W 和歌山の「地方の経済入門」
鳥羽山 康一郎
2020/03/11 (水) - 08:00

「ローカルで暮らす魅力と、地域で生きるための知恵」をテーマに掲げて、地域や移住に関する情報発信を行っている「TURNS」。さまざまなエリアとコラボレーションしたイベント等も積極的に開いている。今回、「TURNS×W=和歌山」と銘打たれた東京・有楽町でのトークイベントを取材した。テーマは「経済について」。移住先の仕事や収入はどうなの?という誰もが強い関心を持つ内容を、実際に移住した2人がありのままに語った。

「和歌山のほうから会いに行く」というイベント

JR有楽町駅前の交通会館は、都内在住者にとってはパスポート取得で馴染みのある場所だ。そのビル内のセミナールームで、和歌山県への移住PRイベントが行われた。地方移住に関する情報発信を行っているメディア「TURNS」と和歌山県による共催企画だ。タイトルは「TURNS×W|和歌山の『地方の経済入門』@東京」。そしてサブタイトルに「もういい! 和歌山のほうから会いに行く!」というフレーズ。「来てくれないならこっちから行っちゃうよ」という半ば開き直り的な本音をさらけ出して気持ちがいい。
これは2019年から東京と大阪で開催されてきたシリーズイベントで、今回は9回目。その最終回に当たる。今までのテーマは「食でつながる」「店を始める」「農に会いに行く」など。締めくくりにふさわしい「地方の経済入門」がこの日のテーマだ。移住に際して誰もが抱える心配ごとが、「おカネ」。どんな仕事で、どう暮らしているのかを、実際に移住した2人が語る。
30席以上ある椅子は予約で満席。20代から50代以上まで年齢層は幅広く、女性の姿も目立つ。進行役は、「和歌山移住会議」主宰で埼玉県出身の小泉博史さんと、那智勝浦町出身で獣害対策専門家の原裕さん。それぞれの経歴や体験も交えながら軽妙なやり取りでイベントを進めていく。

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司会進行役の小泉博史さん

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同じく原裕さん

パンダが6頭、もすごいけれど

イベントのトップバッターは、交通会館内にある「わかやま定住サポートセンター東京窓口」でアドバイザーを務める宮地舞さん。和歌山県への移住を考えている首都圏在住者にとっての、水先案内人的な存在だ。まずは和歌山県の地理的な知識を、ゲーム「桃太郎電鉄」を例に取って説明。海と山が近いという地形の特徴、ミカン、梅、柿など各地の産物や、世界遺産・熊野古道を紹介する。和歌山と言えば「アドベンチャーワールド」に6頭もいるパンダが有名だが、改めて特徴を並べられると奥の深さを感じる。
そして、自身が関わっている定住・移住の支援について。移住希望者には交通費を補助したり、「空き家バンク」で住まい探しを支援したりというサポート体制を説明する。また起業支援金や就職のマッチングについても紹介。さらに、「ワンストップパーソン」というシステムも。これは、移住に関するあらゆる相談に乗る担当者で、言わば窓口的存在。県内全市町村にいる。当日は、実際に3つの自治体からワンストップパーソンが来場していた。

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有楽町のサポートに常駐している宮地舞さんからの和歌山解説

集落が小さいから、「人間の存在」が大きい

メインコンテンツである移住実践者のゲストトークは、千葉智史さんからスタート。千葉さんは北海道出身で、東京の編集プロダクションに勤務していた。奥さんも会社の同僚だった。現在の住まいは那智勝浦町の旧・色川村という地区。地域おこし協力隊としてここに来て、色川地区の紹介冊子を制作したり棚田の整備をしたりという仕事を受け持った。そして唯一の商店「よろず屋」の一部を改装して「らくだ舎喫茶室」をオープン。外からの人たちを迎え入れる受け皿のような存在にもなっている。

千葉さんは現在の「経済」について「なりわいの3つの柱」を元に説明。前職の編集者・ライターとしての仕事、喫茶室での飲食提供や書店業、そして地域での作業が、3本の仕事だ。このなりわいで得られる収入と、暮らしに必要な支出とをどうバランスよくするかについて語った。支出を抑える手段としては「できることは自分で行う」が大きい。家賃は安い(1か月1万円だそう)が、車の維持費(車がないと生活できない)が意外にかさむのが予想外だったという。それでも「現在の家族3人構成で、月10万円あれば暮らしていける」と語った。
また、よく聞く「田舎は仕事がない」については「半分本当で半分嘘」と言う。確かに、ハローワークなどでの求人は少ない。しかし、そこに出ない仕事はたくさんある。例えば、「地域の作業」。棚田の整備や季節の作業、側溝の清掃など、対価を伴う頼まれ仕事だ。農産物などが謝礼ということもある。「貨幣外の経済活動ですね」と千葉さん。色川地区の人口は300人ちょっと。だから住民一人ひとりの存在が大きい。地域の集まりなどへの参加は必須だが、「それだけ気にかけてもらえるし、出てみると居心地がいい」と千葉さんは言う。

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千葉さん夫妻の前職で磨いたセンスが「らくだ舎喫茶室」に活きている

東京の生活とは「違うけれど同じ」な、県庁所在地

続いてのトークゲストは三田寛之さん。東京都出身で、都内のIT系企業に勤務し光ファイバーの法人営業などをしていた。30歳を前にして「環境を変えたい」という思いが生まれ、生まれ育った東京以外で生活しようと考えた。移住先を検討している時、和歌山県のIターン支援事業を知り、ここに決定。今年(2020年)で10年が経った。現在は和歌山市にある、県内の中小企業の支援などを行う「公益財団法人わかやま産業振興財団」の総務部に所属し、財務管理や情報通信などを担当。この勤務先はハローワークで見つけたという。
県庁所在地である和歌山市は人口約35万人。千葉さんの那智勝浦町に比べると「都会」だ。そして、大阪の中心部まで約1時間、関西国際空港まで約45分という地の利がある。住まいは3LDKのマンション。最上階なので「とても眺めがいい」と部屋から撮影した写真をスライドで見せ、「価格は東京の半分以下ぐらいでは」と来場者に語った。最寄り駅である和歌山市駅の再開発や病院の近さ、小中一貫の公立校もできたことなどから、「資産価値は購入時と同じくらいでしょう」と住みよさが生む価値についても触れた。さらに、海や山に近く、有名な高野山には2時間程度の距離。ある程度都会的な生活をしながら自然を楽しむこともでき、東京にいた時と同じ系列のスポーツジムにも通う。「東京と同じような生活ができている」というのが実感だ。
そして「皆さんいちばん興味を持ってくれるのではないでしょうか」と、「和歌山での支出」というスライドで各費目の数字を見せ、奥さんと幼い子ども2人の家族構成で月にならした額を映し出した。あくまでも参考値だが、移住を考えている人たちには参考になったことだろう。

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都会的な生活と自然の両方を楽しめる、と和歌山市を語る三田さん

生活者の生の声が飛びかうクロストーク

次には、「クロストーク」の時間が設けられた。「A:地方に仕事はあるか B:子育てや教育環境の良し悪し C:広い家に住めるか D:東京に戻りたくなる瞬間は」という4つの設問から、会場の挙手でDを選択。2人のゲストスピーカーに加え、進行役の原さんも参加した。

千葉さん:「博物館や美術館、書店などがなく、『置いていかれる感覚』がする。文化に触れたい時や情報を得たい時は東京へ戻りたくなる」
三田さん:「お墓参りや昔の友達と飲む時など、『やっぱり地元はいいな』とは思う。とは言え今の生活にもとても満足している」
原さん:「大学進学で鹿児島に行ったが、いろいろ揃っていて便利だった。でも地元が好きなので卒業後すぐにUターン。みんなを知っているというのはいいこと」
そして、Bの設問「子育てや教育環境」についてもそれぞれが語った。
千葉さん:「まだ子どもが1歳なのでこれからという感じだが、待機児童はいないし、みんながおじいちゃんおばあちゃんのように、大切に接してくれる。先生が一人ひとりにきちんと目を掛けてくれる」
三田さん:「子どもが行っている学校はとてもきれい。保育園には入りやすく、待機児童は少ないと思う。子育て環境はいい」
原さん:「小学校の時は複式学級といって2学年が同じクラス。1年上の授業を聞いて勉強を先取りしていた。みんなが学校のことを意識できる環境」
と、実際に移住している人たちの貴重な声を聞くことができた。

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住んでみての実感を、それぞれの体験から語るクロストーク

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クロストークのテーマ候補。いずれも移住にあたり興味ある事柄だ

愛にあふれる我が町の魅力プレゼン

和歌山県には「ワンストップパーソン」という移住相談の窓口担当者がいるが、今回は那智勝浦町、田辺市、串本町の担当者が来場。それぞれの自治体について訴求した。

●那智勝浦町:人が住んでいるのは「だいたい山、ちょっと山、だいたい海」という3つのエリアに分けられる。移住者の声を聞くと「アウトドア好きにはたまらない」「食べ物がおいしい」「温かい(気温も人情も)」。移住や起業に対する支援制度も厚い。中学生まで医療費は無料。
●田辺市:世界遺産・熊野古道が市の中央部を通っている。欧米系の外国人が多く、この5年で25倍に増えた。温泉資源にも恵まれている。移住支援制度としては空き家改修補助金、起業補助金が。短期滞在施設でお試し移住も可能。(移住しての起業例を2例紹介)
●串本町:本州最南端の町で、温暖で豊かな自然を持つ。マグロの養殖、カツオ漁、サツマイモの栽培も有名。住居はアパートより一軒家の方が家賃安く、空き家バンク制度もあり。高速道路が整備されるので、町外への通勤に便利。地域の行事に積極的に参加してコミュニケーションを。
具体的な移住先が決まったら、各自治体のワンストップパーソンに連絡を、とのことだ。

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3つの自治体から出席したワンストップパーソンたち。上から那智勝浦町、田辺市、串本町

興味はある人、もう決めている人が交わり合って

今回のイベント参加者は、基本的に「どこか別の土地へ動きたい」というマインドを共通して持っている。その上で、「まだ土地は決めておらず、検討中」と「ほぼ和歌山に住むつもり」という2つのクラスターに分けられる。とは言え、基本マインドが同じなので、最後に開かれた交流会はとても活気に満ちたものとなった。参加者が3つの島に分かれて座り、それぞれをゲストスピーカーや進行役、ワンストップパーソンが巡って話をする。気候や住まいのこと、交通事情や補助金について質問が飛び交う。住んでみての細かい体験談にもうなずく。参加者同士で名刺交換する姿も見られた。
こうして、11時半から3時間にも及ぶイベントは、幕を閉じた。
最後に、それぞれのスピーカーからのひと言を紹介しよう。

千葉さん:「棚田を見ながら話をしたいので、ぜひ遊びに来てほしい。僕らが地域と皆さんをつなげるので、活用を」
原さん:「ジビエの食肉処理施設を3月から始める。狩猟体験ツアーや鹿とマグロの解体ショーも行うので、興味があれば参加を」
三田さん:「家族や周りの皆さんに助けられて丸10年を迎えられた。『移住』と構えるよりも気軽に遊びに来てもらえればと思う」
和歌山県移住定住推進課の中嶋真紀子さんもマイクを取り、交通会館内のサポートセンターをぜひ訪ねてほしいと結んだ。
同じ和歌山の方向を向いている人たちの気持ちが、力強いうねりのようになっていくのでは、と思わされた3時間だった。

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交流会では3つに分かれた島のどれもが活気ある会話であふれた

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交流会で出された軽食は、いずれも和歌山産の素材。梅ジャム入りのミニマフィン、ニンジンジャムやゆずマーマレード、ほうじ茶など

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千葉さんの奥さん・貴子さんと1歳になるお嬢さん。集落では38年ぶりの子どもだそう。色川地区は40年くらい前から有機農業を志す移住者が多く、人口の半分以上を占めている

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移住定住推進課の中嶋真紀子さん。シリーズイベントに何回も参加して顔見知りになった参加者も多いとのことだ

(参考URL)
TURNS https://turns.jp/
らくだ舎喫茶室 https://rakudasha.com/
公益財団法人わかやま産業振興財団 https://yarukiouendan.or.jp/
WAKAYAMA LIFE(移住・定住ポータルサイト) https://www.wakayamagurashi.jp/

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