最近、注目される移住でも観光でもない「関係人口」ですが、その実態はまだ十分に認識されていないのが実情です。国土交通省が実施した「関係人口の実態把握」調査から見える「関係人口」と地方自治体をはじめとする地域で広がる「副業・兼業」を巡る新しい取り組み事例などを交え、今回は地域の活性化について考えてみたいと思います。
三大都市圏の関係人口は約2割強の推計値1080万人
国土交通省が2月に三大都市圏(首都・中部・近畿)に住む18歳以上の男女2万8千人を対象にインターネットで日常生活や通勤、観光、帰省を除き、定期的、継続的に関わる地域があるかどうかの調査を行いました。その結果、18歳以上の居住者4678万人のうち、生活・通勤圏以外に継続して訪れる地域がある「関係人口」は、約2割強となる1080万人(推計値)であることが分かりました。
(資料:国土交通省「関係人口の実態把握」より筆者作成)
訪問目的は、地縁・血縁以外の地域での飲食や趣味の活動を行う「趣味・消費型」が最も多く、地域の人との交流やイベント、体験プログラムなどに参加する「参加・交流型」、テレワーク及び副業の実施、地元企業における労働、農林水産業への従事などの「就労型」、地域の産業創出や地域づくりプロジェクトの企画に運営、ボランティア活動などに参画する「直接寄与型」が続きました。
(資料:国土交通省「関係人口の実態把握」より筆者作成)
「関係人口」という言葉について、「特に聞いたこともないし、よくわからない」と答えた人が約7割強と言葉の認知度が大変低い実態がありますが、訪問先は同一圏内の大都市間の移動が顕著で、東京都在住の関係人口の41.4%は首都圏の都市部と回答しています。都民の場合には訪問先が首都圏であるケースが最も多いものの、一方で三大都市圏、政令指定都市や中核市以外の地方部への関わりを持っている人が28.5%存在しています。
また、副業や兼業など本業とは異なる仕事は、「関係人口の関わり先での過ごし方」の問いには約5.6%で、「直接寄与型の地域での過ごし方」でも約9.5%と低いものがありました。「直接寄与型が考える地域との関係性を深めるために必要なもの」では、会社など所属組織の理解、テレワークや副業を認めるなどの制度化が10%を超える程度で、地域での活動に伴う収入の確保については、あまり挙げられていませんでした。
地方自治体に広がる首都圏人材の副業・兼業での採用
人手不足に悩む地方にとって首都圏の人材、知見は課題解決につながる可能性があります。地方都市にとって地域を代表する自治体での副業人材を活用することで、市内の企業における副業解禁、受け入れ推進事例として先鞭をつける上でも大きな意味があります。自治体として初の試みだったのが、2017年11月から12月にかけて戦略顧問を募集した広島県の福山市でした。定員1名に対し、全国から395人の応募があったといいます。
(資料:各自治体の資料を基に筆者作成)
上表のように長野市や浜松市、生駒市など各地の自治体に同様の取り組みが連鎖していますが、副業や兼業といったスタイルによる新しい働き方で働き手不足に対応する福山市の取り組みは、当時、消極的な地元企業が多かったことから、実際に自治体で副業人材を活用することで、これまでにない発想により課題の解決を図り、成果を上げるという前例をつくる意味がありました。
さて、3月6日に興味深い試みが行われました。2019年10月に台風19号によって甚大な被害を受けた宮城県丸森町と同地で起業サポートセンター「CULASTA」を運営するMAKOTO WILLが、被災企業を副業で支援する人材を募集するマッチングイベント「地方で副業しナイト!」をオンラインで開催しました。首都圏人材と経営課題を有する丸森町の企業とをつなぐことで被災企業や町内経済の復旧・復興を目指すものです。
お隣の岩手県では、2018年夏に定期的に岩手県を訪れる関係人口を増やしたい狙いで、副業をしたい首都圏の人材を地元企業と結びつける官民連携のバーチャル組織「遠恋複業課」を創設しました。北陸の富山県の南砺市では南砺商工会、groovesと連携し、企業の活性化や関係人口の創出、移住者の増加などもにらんで同社の副業プラットフォームを通じて首都圏の人材と市内企業とのマッチングに取り組んでいます。
南砺市のように地方自治体が人材大手や就職情報会社と連携する取り組みも活発化しています。広島県では、パソナグループと東京で説明会を開いているほか、安芸高田市も同社と東京と広島で説明会を実施したといいます。鳥取県ではビズリーチと連携し、同県の経済を牽引する地元企業での「鳥取県で週1副社長」というビジネスのプロの求人を行いましたが、首都圏の大手企業の社員を中心に地元企業の見学会や経営者たちとの意見交換も企画しています。
首都圏人材の獲得や積極的な活用で地域の活性化へ
また、地方自治体ばかりでなく、地方の金融機関の例としては、傘下に山口銀行や北九州銀行などを持つ山口ファイナンシャルグループが子会社を設立し、人材紹介のサーキュレーションと連携して昨年10月から首都圏の人材を地方に呼び込む取り組みを始めています。福岡、山口、広島3県の取引先に地方に関心のある首都圏の副業・兼業希望者を紹介し、中小企業の課題分析から求人、職場環境の改善までトータルで支援するといいます。
大手企業などでも副業・兼業を容認する流れが徐々に広がるとともに、働く社員も今までに培った経験やスキルを活かせる地方での仕事に関わりたいと考える人が増えているほか、副業の受け入れ、積極的な取り組みは地方自治体から地域の金融機関、さらに地元企業へと波及しつつあります。地方には足りない首都圏の優秀な人材を呼び込む好機でもあることから待遇面だけではなく、自己実現の機会を提供できるような要素や動機付けが重要かと思われます。
少子高齢化、若年層を中心とする首都圏への転出などで、生産年齢人口が減少するなか、地方の企業、特に中小企業は高度なスキルとノウハウの不足に直面しています。地域経済を維持するためには幹部人材を抱える首都圏から地方へ誘導し、地域をもっと活性化できるように先手を打つ必要性が求められます。新型コロナウィルス感染により閉塞感がありますが、令和2年度は地方での副業・兼業等に要する移動費を3年間で最大150万円支援するなどが予算化されるだけに継続的に首都圏人材と地方が多様な関わりを創出する取り組みが期待されます。
なお、内閣府地方創生推進室では、関係人口の創出・拡大に取り組む動きを加速化し、地方への新しい人の流れをつくるため、都市部住民と地方との関わりの創出・拡大に向けた中間支援を行う民間事業者等からの提案に基づくモデル事業の実施を予定しているといいます。現在、都市部住民と地方との関わりの創出・拡大に取り組んでいる、またはこれから取り組もうとしている団体から幅広いアイディアを3月12日から4月15日まで募集しています。