札仙広福の観光と地価からみる地域経済の行方
亀和田 俊明
2020/03/27 (金) - 08:00

世界的に「新型コロナウイルス」感染拡大により先行きが不透明ななか、国内では東京オリンピック・パラリンピックの年にインバウンド4000万人という大きな目標も遠のきつつあります。昨年、「札仙広福」の四大都市は訪日外国人旅行者の増加などによって地価が高騰しましたが、観光動向や地価動向から前回に引き続き「札仙広福」という四大都市を軸に地域の活性化について考えてみたいと思います。

突出の札幌・福岡両都市の旅客数と訪日外国人旅行者数

日本政府観光局の発表によれば2019年の訪日外国人旅行者数は3188万人と過去最高を記録しました。2020年は東京オリンピック・パラリンピックの開催で政府は4000万人を目標としていましたが、2月の訪日外国人旅行者数は2014年6月以来の低い水準となる前年同月比58.3%減の108万5100人でした。特に北海道と九州が大きな打撃を受けており、北海道では観光消費額が3680億円も落ち込むとの試算があるほか、九州は外国人入国者が激減しています。

現在、観光面ではこうした厳しい状況ですが、2019年には過去最高の入国者数を記録した訪日外国人旅行者も利用する国内の空港で年間1千万人を超えたのは8空港でした。中でも新千歳空港と福岡空港の両空港は国内外の多くの旅行者が利用する国際空港です。福岡空港以外の3空港(新千歳=千歳市、仙台=名取市、広島=三原市)も近隣の市に空港がありますので、「札仙広福」の各都市は中心部から40~50分以内のアクセス圏に空港が控えています。

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(資料:国土交通省調査「空港管理状況調書」より筆者作成)※〇内数字は空港別順位

また、路線別利用者数では、羽田―新千歳の900万7372人、羽田―福岡の864万7386人の2路線が他路線を圧倒して1位、2位を占めていますが、両路線とも6時台から毎時平均3~4便の頻度で発着しており、観光客はもとより、利便性の高さからビジネス需要も確実に取り込んでいます。さらに成田―新千歳の路線が9位、成田―福岡との路線も20位と上位に名を連ね、地方都市の空港としては、新千歳空港と福岡空港は突出した旅客数を誇っているといえます。

2019年は新千歳空港を利用して札幌市を訪れる観光客数は、上期は過去最高の約969万8千人で、外国人宿泊者数も上期最多の約127万4千人でした。一方、福岡市も6年連続で過去最高を更新し、5年間で2.6倍となる309万人、訪日外国人旅行者数も7年連続で過去最高となりました。同時に観光消費額も4,983億円と5千億円に迫る勢いでしたが、昨年後半から今年にかけて外国人宿泊客の6割の宿泊を占める韓国人、中国人の旅行者が大幅に減少しています。

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(資料:各自治体のHP資料などを基に筆者作成)※福岡市は2017年のデータです。

札仙広福は訪日客増や再開発で商業地は二桁の伸び

こうした訪日外国人旅行者の増加によって恩恵を受けてきた我が国ですが、3月18日に国土交通省から発表された公示地価(2020年1月月1日時点)は、商業・工業・住宅の全用途で前年比1.4%増の5年連続での上昇となったほか、四大都市を除く地方圏も28年ぶりに0.1%の上昇に転じました。都市部で始まった地価回復の流れが、ようやく県庁所在地と周辺の交通の利便性が高い地方都市や訪日外国人旅行者が多い観光地などに広がってきています。

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(資料:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績

全国平均の商業地は3.1%増と5年連続で上昇し、住宅地は0.8%増と3年連続で上がりました。国土交通省では、交通インフラの整備や都市の再開発による利便性の向上のほか、訪日外国人旅行者を見込んだホテルや店舗などの進出が地価を押し上げたと分析しています。地価上昇の動きは四大都市以外の地方都市にも広がり、商業地が24都道府県、住宅地で20都道府県が上昇しました。

今回の地価上昇の背景には、商業地で人材確保等を目的としたオフィスビル需要が堅調であり、空室率の低下、賃料の上昇傾向が継続しているほか、訪日外国人旅行者をはじめ、観光客の増加により収益性の向上が見込まれる地域における店舗やホテルの進出があります。さらに、交通インフラの整備や再開発の進展に伴う利便性やにぎわいの向上等から需要が堅調であるとみられています。

そして、上昇基調を強めているのが「札仙広福」の四大都市で、商業地が11.3%、住宅地が5.9%と三大都市圏の商業地5.4%、住宅地1.1%を上回っています。近年の訪日外国人旅行者の増加に伴うホテルや商業施設、オフィス開発が活発化し、全用途で7.4%の伸びでした。特に福岡市は、商業地で16.5%と都道府県所在地で2位、住宅地の6.8%も3位と特筆すべき数値でした。ちなみに、商業地では札幌市も10.2%、仙台市も10.9%と二桁の伸びを示しました。

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(資料:国土交通省の資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績

札仙広福の中心部でホテルやオフィスの建設ラッシュ

四大都市を個別に見ると、札幌市の商業地は前年比10.2%の7年連続で上昇でした。中央区を中心に複数の地点で20%以上上昇しており、訪日外国人旅行者の増加を背景に大通り公園やすすきの地区などでホテルや飲食施設の需要が拡大していることに加え、北海道新幹線のホームが設置される札幌駅の東側の地区で再開発への期待から需要が高まっていることが伸びにつながったと推察されます。

札幌市中心部や札幌駅周辺では超高層タワーマンションやオフィスを中心とした複合ビルの建設が継続的に続いていますが、札幌市やJR北海道などが計画している札幌駅に隣接するホテルやオフィス、商業施設からなる高層ビルは2029年秋の全体竣工及び供用開始が予定されているほか、西武百貨店跡地にはヨドバシカメラホールディングスが札幌一高い超高層ビルの建設を構想しています。

また、仙台市では商業地が10.9%の伸びで、JR仙台駅周辺を中心にして依然としてオフィス需要が活発で、2年連続で上昇率が10%を超えています。地価を押し上げたのは訪日外国人旅行者や市外からの住民の流入ですが、東北は首都圏や関西圏に続いて訪日外国人旅行者が増えているエリアです。東北大学農学部の跡地でもイオンモールや医療・福祉施設、集合住宅など大規模な再開発計画が進んでいます。

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(資料:各ホテルのHP資料などを基に筆者作成)

近年、訪日外国人旅行者やビジネス需要が増加するなか、仙台市内ではホテルの客室数が不足しており、仙台駅周辺では平均稼働率が90%を超えるホテルも多いといいます。これまでは他の三都市と比べても小規模の部屋数のビジネスホテルが中心でしたので、MICE需要やインバウンドの富裕層をターゲットにした場合には、地元ではシティーホテルの進出を望む声が強いといいます。

広島市内は、新規のホテル建設やオフィスビルの建て替え等による再開発で、中心部の伸びが追い風になって路線価も4年連続でプラスになっています。オフィス空室率が低水準で維持し、2年ほど前から都心部の幹線道路沿いの容積率が緩和されたことも上昇要因だといいます。「エキキタ」と呼ばれるJR広島駅北側の再開発が進んで利便性が増して割安感が高まったことが理由とみられます。

他の地方都市に比べれば訪日外国人旅行者も十分に多い広島市は、オバマ大統領が訪問してから欧米系の訪日旅行者にとって注目度が上がったといわれています。市内には川が多く、平地が少ないということもあるため、ホテル数も今までそれほど多くはありませんでしたが、今後、建設、開業ラッシュが控えています。さらに地元企業の旗艦店や商業施設や本社・本店の建て替えなども増えています。

一方、商業地が16.5%と上昇した福岡市は、観光客や買い物客の多いJR博多駅がある博多区と天神のある中央区に集中しており、同県内の新規開業ホテルも福岡市内の中心部への一極集中の状態となっていましたが、ここ数年にわたってホテル建設が活発だった博多地区も昨年後半からの訪日外国人旅行者の減少による客室の稼働率が下落するなか、新規開業も落ち着いてきているようです。

博多駅周辺では容積率を緩和する再開発促進策「博多コネクティツド」が動き出していますが、天神地区では2024年末までの10年間を期限に再開発促進策「天神ビッグバン」が進行中です。オフィス需要も活況を呈しており、リーマンショック後に15%だった空き室率も現在は2%台で推移しています。全国でも有数の開業率を誇る福岡市では、スタートアップ企業の増加により新たなオフィス需要の担い手にもなるでしょう。

今回、大きな伸びを見せた四大都市は、訪日外国人旅行者の増加と都市の再開発が地価上昇を牽引してきましたが、今回の新型コロナウイルスの世界的な流行、「パンデミック宣言」により入国者の大幅な減少でホテルや商業施設をはじめとした観光業に大きな打撃を与え、状況が急変して今後、建設や着工などにも影響が出てくるでしょう。地域経済の行方も懸念されますが、早い新型コロナウイルスの終息を願わずにはいられません。

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