コロナショック後の地方について、各種産業的視点から迫ってきた本特集ですが、最終回となる今回は個人にフォーカスを当てたいと思います。今回のコロナショックで多くの人は自分の生き方を問い直したのではないでしょうか。
自分の生活そのものに様々な疑問を持ち、変化を生み出そうと思っている方が増加していることと思います。今回はコロナショックで変容する都市と、地方部と組み合わせたハイブリッド型のライフスタイル、キャリア形成について語りたいと思います。
コロナショックで変化する都市
コロナショック後に変化する都市部のワークスタイルがあります。テレワークなどを今回多くの企業勤務者が体験し、在宅での仕事スペースを確保したり機材を揃えたり、個人での動きもかなりありました。5月末に緊急事態宣言が解除されて以降、オフィスワークに戻そうとしている方々もいますが、すぐにオフィスクラスターというリスクが顕在化しているので、実質的に一年ほどの間にオフィスワークとテレワークの組み合わせが基本になっていくと思われます。
単なる調整ばかりをしていた中間管理職や、はたまた超高齢化して全く時代の変化についていけない高齢経営陣などは「オフィスに人を集めて仕事するのが会社だ」なんて言っているようですが、制約条件からテレワークとのハイブリッド型にせざるを得ないでしょう。そもそもコロナショックがあってもなくても、もともと各企業はオフィス面積を小さくし、フリーアドレスにしたり、テレワークを導入するという流れはありました。コロナショック前の昨年、久々にPC売上が回復という流れもあったのは、テレワーク採用企業の増加が影響していると言われていたわけです。
つまりは時代の潮流はオフィスだけでなく、どこでも仕事ができるワークスタイルにシフトするというものでもありますので、コロナが落ち着いたとしてもこの流れは変わらないでしょう。
変化するワークスタイルの先にあるライフスタイル、キャリアデザイン
変化する各種企業のワークスタイルによって、個々人のライフスタイルやキャリアデザインも変わっていくものと思います。
コロナショック前から動き出していた、東京近郊都市などは非常にチャンスだと思います。鎌倉資本主義など地元企業での連帯を進めてきているカヤックなどが集積する鎌倉、そして地元企業で副業人材を積極的に受け入れてきた熱海など、東京から十分にアクセス可能で、かつその地域の企業群が特徴的な経営をしているエリアの可能性は増しています。第一に、このような週に1〜2回はオフィスワークをするがその他はテレワークというスタイルの方は、都市部よりは近接部で、かつその地域独自の動きがあるところに住み、場合によってはその住む場所にある企業での副業ワークも組み込むというスタイルがこれから出てくるでしょう。東京の企業の仕事に従事しつつ、熱海に住みつつ、週に数回東京に通いながら、自分のスキルを生かして地元企業での副業も行うというスタイルは非常にエキサイティングでしょう。
さらに、地方部でも独自の事業を立ち上げ、多くの人の受け入れ実績を持っている宮崎県日南市などの地域などでは、都内企業のサテライト拠点などもあり、地方でも都市部で身につけたスキルを活かせる機会もあるでしょう。
生活を豊かにしたり、自分のキャリアを伸ばしていく上で大切なのは、どこに身を置くか、です。それが今までは「1つの場所」に縛られたものだったりしたのですが、複数の場所を組み合わせることによって、自分なりのチャンスを最大化することが可能になってくるでしょう。
「年収は住む場所で決まる」という都市経済学の本があるように、勤労場所が1つに限定される場合、住む場所を変えると収入が激減してしまうという説がありました。しかし、住む場所と仕事の内容が変えられる、さらに言えばパラレルリビング、パラレルワークというスタイルの中では、年収水準の高い都市部ワークと、年収水準は低いものの内容面で関心のある地方ワークを組み合わせることも可能になっていくでしょう。
さらに、オンライン市場が拡大していくことによって、地方にいようと都市にいようと、収入構造的には変わらないサービスも増加していきます。むしろ不動産コストなどが安い地方のほうが事業展開が容易な分野もあるのです。
変化に貪欲な地方にとっては大チャンス、何もしない地方の衰退は変わらず
このような新たなスタイルは、地方企業にとっても、また都市部人材にとってもチャンスになります。
今、熊本県上天草で新たな事業の立ち上げを進めていますが、現地でマリーナ経営や船路線などを運営する株式会社シークルーズには、都市部からの転職希望者や外国人スタッフなども多く働いています。何より若い世代が多い。これは定時勤務を徹底し、さらに高付加価値サービスを中心に事業展開することによって客筋が良くクレームなども著しく低いなど、働きやすいスタイルを徹底しているからです。その上勤務地からは海も山も自然豊かな環境があり、それらを欲する人にとっては申し分のない立地になります。今後都市部人材などでもこのような立地を選択し、有望な地元企業の仕事をしながら、都市部ワークも組み合わせるといった魅力的な選択をする方が増えるのではないでしょうか。
一方で、何もしない、昔ながらのやり方に固執する地方企業や地方そのものの衰退は変わらず進むでしょう。このGLOCAL MISSION Timesを創設した日本人材機構(※2020年6月末にて事業終了)でも地方企業と都市部人材のマッチングの場において、地方企業で「骨を埋めるつもりで来ないやつは採用しない」といった話を未だしてしまうワンマンオーナーなどもおり、当然転職者だけでなく、副業人材など全く想像の範疇の外にある、という実態を聞きます。一方、特に給与水準が全国的にみて高いわけでもないので、そういうところは今は良くてもどんどん採用が困難になり、いい人材は流出し、手に入れられる人的スキルは低下していくでしょう。個人にとってもそのような企業を選択して地方に移住するというのはあまりにリスクが高いわけです。
今後の社会の中では柔軟性、流動性は極めて大きなテーマになります。個人にとっても自分の柱となるスキルを形成しながら、複数地域、複数企業と関わるプロフェッショナル人材になっていく道が選択しやすくなっていきます。この流れは徐々に進んでいたものですが、コロナショックで一気に加速していると思います。
日本では終身雇用がベースで、就職した企業で定年を迎えるのが当たり前という戦後の一時期の慣習がありましたが、私達の世代では転職は本当に当たり前になりました。さらに次の世代では、複数拠点で生活し、複数拠点の仕事をしていくというのもそれほど珍しくなくなっていくように思います。
これを機に新たな働き方、生き方を選んでみるのも良いのではないでしょうか。