移住スカウトサービス「SMOUT」が7月にまとめた「みんなでつくる移住白書」によれば、「現在暮らしている場所にずっと暮らしたいというこだわりは特にない」が73.8%、「地域に足を運んでいい出会いがあれば移住を検討したい」が62.5%と高い結果を示しており、地方移住への関心が高まっていることが分かります。4月から12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の実態をお伝えしてきましたが、地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。11回目は山梨県の「甲府市」です。
生活・居住面で高い評価、2019年に「健康都市宣言」制定
現在、新型コロナウイルスの感染拡大がまた広がりつつありますが、甲府市では停滞した市内の消費を喚起するためQRコード決済(PayPay)で支払いをした人に支払額の30%をポイント還元する「がんばろう 甲府!最大30%戻ってくるキャンペーン」事業を始めています。対象となる事業者は大手チェーンを除く市内の飲食店や小売店、宿泊施設などで9月1日~30日までの1ヵ月間で、還元の費用は市が負担し、1億5千万円を追加補正予算に計上しています。
さて、第11回で取り上げる甲府市を抱える山梨県は、「移住希望地域ランキング」5位(2019年ふるさと回帰支援センター)で、常にベスト5にランクインしており、特に50代以上の比率に高いものがあります。一方で、全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」など8分野で調査した日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2019」では、都道府県庁所在地で30位でした。
山梨県の中央部に位置し、南に富士山、西に南アルプス連峰、北に八ヶ岳連峰を仰ぎ見る約19万人が暮らす甲府市は、武田信玄をはじめ戦国武将たちからの歴史とゆかりの名所が多い有数の観光地です。2027年にはリニア中央新幹線が開通予定ですが、甲府~品川間のアクセスが約25分に短縮されるため、首都圏からの移住先として今後ますます注目を集めるエリアです。2019年には「健康都市宣言」を制定するなど、健康づくりにも注力する街といえます。
甲府市は内陸部にあることから暖候期には風が弱く、降水量が多い。寒候期には北西の季節風が強く、降水量が少なくなっています。夏には蒸し暑く、冬は寒さが厳しい盆地特有の気候です。甲府市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように14.7度で、2019年は15.9度と上がってきています。冬は非常に寒いものの、ほぼ晴れの日が多く、日照時間の年間合計値も2,183.0時間で、主要72都市では浜松市に次いで2位となっています。
(資料:気象庁資料を基に筆者作成)
甲府駅にはJR東日本とJR東海が乗り入れており、長野県とは中央線、静岡県へは身延線が発着していますが、新宿駅までは特急で90分。さらにリニア中央新幹線が開通すれば品川までは約25分となりますし、車でも高速を使って2時間程度と好立地です。県の中心地にあることから県内はどこでも1時間ほどで行き来できます。市内での交通手段は車が主流ですが、同駅を中心に放射線状に路線が整備され、買い物や近隣市町へのアクセスにも便利です。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)
百貨店閉店で心配されたがJR甲府駅南口5年連続上昇
3月に国土交通省から発表された山梨県の公示地価は、工業地は28年ぶりに上昇に転じたものの、商業地、住宅地ともに1993年から28年連続の下落となりましたが、JR甲府駅周辺の商業地など10地点は前年に比べて倍増し、特に駅南口の商業地は1.3%と5年連続で上昇したといいます。山交百貨店の閉店によるマイナス影響が心配されましたが、跡地にヨドバシカメラの入居が早期に決まったことが好影響を及ぼしたと思われます。
甲府市内でにぎわいをみせているのが、甲府駅南口の商業地エリアですが、駅周辺もマンションなど高い賃貸需要がみられており、商業地の地価に波及したといいます。物件を探すなら都市機能を備えた駅北側が選択肢ですが、県最大の「イオンモール甲府昭和」があり、リニアの新駅設置が決まった大津町にも近いことから、今後のさらなる開発が期待されています。南側には歩いて楽しく健康的なまちづくりを推進するエリアもあります。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)※カッコ内は前年実績
また、甲府市の事業所数は約1万1千、従業員数は約10万人です。同市の産業構造をみると、生産額の77.6%、従業者数の83.2%を第3次産業が占めており、生産額では不動産をはじめ、金融・保険、卸売、医療、教育など都市型のサービス産業が上位に名を連ねています。製造業のなかでは電子応用装置・電気計測器、食料品、その他の製造工業製品(宝飾産業を含む)の生産額が比較的高くなっています。
(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)
昨年、甲府市は「中核市元年」のほか、「こうふ開府500年」に「市制施行130周年」といくつもの記念すべき年を迎えていますが、特に「こうふ開府500年記念事業」を通じて多くの市民に培われた「こうふ愛」を基に、今年度は地域の絆をより一層深めるとともに、さまざまな主体と連携・協働しながら同市が有する地域資源を最大限に活用することで、さらに魅力あふれるまちづくりを進めていくとしています。
(資料:「甲府市令和2年度予算概要」を基に筆者作成)
子育て支援も手厚く、ファミリー層が暮らしやすい街
山梨県への移住を検討中の方には東京・有楽町の「やまなし暮らし支援センター」で、住宅・生活・就職情報などをワンステップで提供していますが、窓口での相談受付のほか、先輩移住者などによるセミナーを年10回開催しています。また、大阪市・梅田の「山梨県大阪事務所」でも移住相談を受け付けています。甲府市の移住サイト「甲府の暮らし方」では移住者のインタビューをはじめ、さまざまな移住に関する情報が掲載されています。
(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)
妊娠期から子育て期に渡って切れ目なく市からの支援がありますが、窓口にいる母子保健コーディネーターや子育て支援コーディネーターが「マイ保健師」とともに、ケアプランの作成や支援サービスの情報提供を行い、各種相談に応じています。さらに乳幼児の医療費助成も手厚く、通院は5歳未満児まで、入院は未就学児までを対象に医療費の無償化を実施していますし、中学生以下のお子さんと50歳以下の新婚世帯を支える家賃助成もあります。
(資料:甲府市HPより筆者作成)
また、待機児童ゼロの山梨県ですが、甲府市は放課後クラブが民間含めて35ヵ所あり、県同様に待機児童数も0人であるため働きながら子育てができる環境が整っています。「山梨県子育て就労支援センター」ではキャリアコンサルタントが駐在し、就職に関する相談や職業紹介、子育て支援制度の案内を行っているほか、「やまなし就職応援ナビ」でも求人情報や就労に役立つセミナー情報を掲載しています。
(資料:厚生労働省資料より筆者作成)
同市には市立・県立・国立を含め、14の総合病院と診療所・歯科診療所が300以上あります。救急医療センター、歯科救急センター、救急調剤薬局など専門性を高めた甲府市地域医療センター、夜間や休日でも小児科専門医の診療が受けられる小児初期救急医療センターもあり、救急時には迅速な対応が図られるほか、山梨県立中央病院を基地としてドクターヘリが運航しています。また、市内の医療情報など網羅する「こうふ医療・介護情報」も作成されています。
森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として72都市を対象にした「日本の都市特性評価」によれば、同市は特に環境(快適性)で8位。生活の余裕度が12位、市民生活・福祉が17位、さらに9位と高い評価を得ている育児・教育においては、「保育ニーズの充足度」が3位、「子どもの医療費支援」が5位と際立っており、小さな子どもを抱える世代にとっては大きな魅力となるでしょう。
今後、リニア中央新幹線開業や中部横断自動車道開通により、スーパー・メガリージョンが形成されることによる交流人口や物流の増加が見込まれる甲府市は、自立的な地域経済構造を有する交流拠点都市を目指しますが、同都市圏の経済的な中枢機能の一層の強化が望まれます。そのために優秀な人財やイノベーションの源泉となる教育・研究機関の活用、都市機能の充実や企業誘致も積極的に進めています。
首都圏や県内間のアクセスがとても良く、「職」や「住」に「遊」が近接している甲府市は、健康的に歩いて暮らせる街であり、良質で豊富な水資源や災害が少ないなどの自然条件や自然環境にも恵まれ、市街地から農村地まで住環境も多岐にわたっており、潜在的にポテンシャルが高いので、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。