総務省が11月26日に発表した「住民基本台帳人口移動報告」によれば、10月の東京都の転出者数は3万908人と前年同月に比べ10.6%増え、転入者数は2万8193人と逆に7.8%減少し、4ヵ月連続で転出者が多い転出超過となり、コロナ禍で都心から郊外へ転居する動きが続いているといえます。4月から「移住と暮らし」という視点で、さまざまな地方都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は兵庫県「神戸市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。
自然や交通環境に恵まれ、生活・居住面では高い評価
地方自治体による「副業・兼業」人材の募集や採用が増えていますが、神戸市では10月にクラウドワークス運営の副業マッチングサービス「クラウドリンクス」で、副業人材40名の公募を行いました。ホームページの「モニタリング」や「動画企画」等の広報で、登庁を伴わないオンラインでの業務ですが、副業人材の募集並びにテレワーク完結の民間人活用は、同市初の取り組みとして話題にもなり、申込数は1週間で千件を超え、半数以上が県外だといいます。
さて、今回、取り上げる神戸市は全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」など8分野で調査した日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2020」で、都道府県庁所在地では5位、近畿エリアでは大阪や京都を抑え1位です。「街の活力」の項目が最も高く、以下、「生活インフラ」や「医療・介護」などが続きますが、「街に愛着がある」では、都道府県庁所在地では3位でした。
ウォーターフロントの再整備、にぎわいづくりが進む港町・神戸
兵庫県の南部に位置する県庁所在地の神戸市は、9区で構成される人口約152万人の政令指定都市です。明治期に神戸港が開港し、多くの外国人居留地ができたことなど古くから国際色豊かな洗練された港町として発展してきました。海上にはポートアイランドや六甲アイランドなどの人口島がつくられ、市域の約3分1の面積である旧市街区域に100万人を超える市民が居住していますが、背後には六甲山系が控え自然にも恵まれています。
神戸市域は瀬戸内海式気候であり、冬でもそれほど寒くなく、温暖です。年間の降水量は1216.2mmで少ないほか、日照時間の年間合計値も 2072.6時間と長く、関東と比べても乾燥しすぎることはありません。山が近いという地形の影響もあり、30度を超えると気温上昇が止まるともいわれていますが、六甲山の北と南では気温差があります。神戸市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように16.7度で、2019年は17.7度と上がってきています。
【神戸市の平均気温(1981~2010年)】(出典:気象庁資料を基に筆者作成)
陸路は新神戸から東京までは新幹線で2時間40分ほどと交通環境に恵まれているほか、空路もポートアイランドの沖合の人工島にある神戸空港から北は北海道、南は沖縄まで各地へ国内路線が展開されています。空港駅と最大ターミナルの三宮駅を最短16分で結ぶポートライナーが通っているので、交通の利便性も良い環境にあります。また、神戸空港と関西国際空港との間には高速船「ベイ・シャトル」が所要時間約30分で運航されています。
【神戸空港の乗降客数(2019年)】(出典:国土交通省資料より筆者作成)
神戸市の中心街はJR、阪急、阪神、地下鉄が運行されているほか、大阪や明石、姫路といった東西の移動は鉄道がスムーズです。市内北部へはローカル線の神戸電鉄やバスの利用が中心になります。市バスは全部で約100系統の運行路線があり、西神・北神方面を含め市内のほぼ全域をカバーしていますし、傾斜が急な市街地の移動には便利です。また、電動自転車のレンタサイクル「Kobelin」も楽に移動可能です。
【三宮駅の1日平均の乗車人員の推移】(出典:国土交通省資料より筆者作成)
住宅地は公共交通充実し駅近の利便性高い場所が人気
3月に国土交通省から発表された兵庫県の公示地価は、住宅地が12年連続で下落したものの、商業地は5年連続の上昇でした。神戸市はインバウンド需要や再開発が地価を押し上げた形で商業地では6.0%でしたが、上昇率は前年よりやや縮小。住宅地も東部4区で2.4%上昇しており、都市部の公共交通機関が充実し、駅に近く利便性の高い場所に人気が集まっているようですが、西部などでは下落している拠点も現れています。
県の人口が集中している神戸市には大学や企業が多く、賃貸物件も充実しています。須磨区・垂水区・北区・西区は一戸建て住宅や団地などがあるので、ファミリー向け物件を探すならコストもリーズナブルでしょう。また、中心部の西側の兵庫区や長田区では若者を中心に空き家のリノベーションが始まっているほか、マンション開発も進んでいます。さらに、都心から近い便利な場所に自然が楽しめる里山暮らしができるエリアもあります。
【2020年の公示地価の変動率】(出典:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績
また、神戸市の事業所数は約7万、従業員数は約73万人ですが、事業所数、従業員数ともに全国の市町村ランキングで8位、関西圏では大阪市、京都市に次いで3番目です。産業別の市内総生産(2016年)では、「製造業」の24%を筆頭に、「不動産業」の12.1%、「卸売・小売業」の12%、「保健衛生・社会事業」の8.2%、「専門・科学技術・業務支援サービス業」の7.2%の順で続いています。
【神戸市の事業所数・従業員数】(出典:「平成28年経済センサス」より筆者作成)
神戸市の令和2年度予算では、子育てしたい街、学びたい街、住み続けたい街として選ばれるよう、神戸の「再生」に向けた新たな政策展開に積極果敢に挑戦し、人口減少社会におけるまちづくりとして、都心に人口を集中させるのではなく、バランスの取れた街全体の発展をめざし、神戸を見違えるような街にリノベーションするとしています。下表の「6つの柱」に沿って、神戸の新たな未来を切り拓く施策が積極的に展開されています。
【神戸市の「主な新規・拡充事業」】(出典:「神戸市令和2年度予算の概要」を基に筆者作成)
また、三宮周辺地区においては、「美しき港町・神戸の玄関口“三宮”」のコンセプトに基づき、「都心・三宮再整備」事業として景観や生活居住など、備えるべき8つの軸を実現するために展開されています。2017年度に基本計画(案)が策定された公園などの公共空間を有効活用する「東遊園地」の再整備もそのひとつで、都心部とウォーターフロントをつなぐ回遊の拠点として、さらなるにぎわいや利活用の創出が期待されています。公園内には建築家の安藤忠雄さんが設計・整備し、市に寄附される子ども向け図書館「こども本の森 神戸」が2022年春に開館予定です。「子ども本の森 神戸」イメージ図(出典:神戸市HPより)
子育て世代が定住したいと考える街にリノベーション
2017年、2018年と転入超過数が2000人を超えていた神戸市ですが、2019年には1500人縮小しており、8月から兵庫県と同市は移住者の先輩にオンラインで実体験を聞く相談会も新たな試みとして始めています。市公式移住サイト「KOBE address」では、エリア紹介に始まり、「住む」「働く」「子育て」「教育」など、移住をするうえで知っておきたい情報がわかりやすくまとめられています。
【神戸市の転入者数・転出者数・転入超過数の推移 (人)】(出典:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)
今年度は、「東京での新たなプロモーションの展開」として、双方向コミュニケーション型デジタルサイネージを活用した動画広報の実証実験や不動産関連会社と連携した神戸の住宅情報等の集中的なプロモーション、東京の「ふるさと回帰支援センター」への常設移住相談窓口の設置、神戸版地域おこし協力隊の活用、東京圏から神戸市内への移住者に対する移住支援金(中小企業へ就職または起業した場合に最大100万円)の支給が行われます。
待機児童数が多い神戸市ですが、令和元年度に公園を活用した保育所、パーク&ライド型保育所などの新たな取り組みを実施し、当初の目標を上回る約1400人分の保育所等利用定員拡大を達成し、今年4月1日時点で52人まで減少しました。子育て情報サイト「KOBE子育て応援団ママフレ」では、神戸で子育てをする方の声を読むことができるほか、子育て関連施設を見つけやすいマップや、行政サービス案内も掲載されています。
【保育所等利用待機児童数調査】(出典:神戸市HPより筆者作成)
女性の就業相談については、市内中央区にある「兵庫県立男女共同参画センター・イーブン」が便利で、女性の支援員が対応してくれるほか、保育支援員もいるので子ども連れでも安心です。また、「マザーズハローワーク三宮」でも子育てと両立しやすい仕事紹介や相談などを行っています。三宮駅近くにあるためアクセスが便利で、相談時も安全サポートスタッフによる子どもの見守りサポートも実施しており安心といえます。
【神戸市内の生活情報】(出典:神戸市HP&兵庫県HPより筆者作成)
救命救急センターとしては、6年連続全国1位評価の神戸市医療センター中央市民病院など4ヵ所があります。神戸こども初期急病センターでは夜間や休日に急病になった子どもを年中無休で診察しているほか、休日・夜間の救急医療機関を症状や地域別に探すには、「こうべ救急医療ネット[Ko+MeT]」が便利です。市は1998年よりポートアイランドを拠点に「神戸医療産業都市」としての整備を進め、高度治療施設や健康関連企業が集積しています。
森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として109都市を対象にした「日本の都市特性評価2020」によれば、神戸市は「バランス型都市」との高評価から総合ランク6位。文化・交流分野では、特に「交流実績」において国際会議や展示会の開催件数では最も高い評価を得たほか、「発信実績」の魅力度・認知度・観光意欲度、経済・ビジネス分野の「ビジネス環境」、交通・アクセス面においても比較的高い評価でした。
神戸市は大都市でありながら、環境における自然環境の満足度や水辺の緑地度といった「自然環境」の評価が比較的高く、経済規模の大きい都市では低評価になりがちな生活・居住においても高い評価を得ています。大都市なのに自然の豊かさと住みやすさを兼ね備えていることがわかりますし、経済的・文化的な魅力と自然環境の魅力を併せ持った都市であることがうかがえ、理想的なコンパクトシティといえるでしょう。
前述の「神戸医療産業都市」は、2020年10月末時点で進出企業・団体数が約370、雇用者数1万1000人を達成し、国内最大級のバイオメディカルクラスターに発展するなどイノベーションを促す取り組みが顕著です。そして、子育て世代が定住したいと考える都市へ街をリノベーションしている神戸市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。