【地方都市の魅力】福岡県北九州市 「日本で一番住みよい街」を目指すSDGs未来都市
亀和田 俊明
2021/03/24 (水) - 07:00

最近では40代以下の来所者が7割以上を占めるなど、現役世代の利用が増えているというNPOふるさと回帰支援センターが移住相談者を対象に調査した2020年の「都道府県別移住希望地ランキング」の窓口相談は、1位に静岡県、続いて山梨県、長野県、福岡県の順でした。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は福岡県「北九州市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。

暮らしやすさ、住みやすさ、物価の安さ、アクセスが魅力

2019年度までの6年間で50社のIT企業を誘致している北九州市では、令和2年度に首都圏のIT企業等を対象に交通費や宿泊費が企業負担ゼロとなる「お試しサテライトオフィス実証事業」が行われています。社員が同市での生活環境やテレワークなど利点を生かした新しい働き方を体感することで、遠隔地からの労務管理や業務効率などを実証するもので、観光資源を活用したワーケーション的な利用を通じて首都圏からのサテライト拠点開設に向けた本格的な検討を促すものとして22社が参加しており(令和3年3月16日時点)、令和3年度も同事業によって誘致の促進に取り組む予定です。

image001.jpg (263 KB)JR小倉駅周辺には多くのコワーキングスペースが開設されています(ATOMica北九州)

冒頭の「2020年都道府県別移住希望地ランキング」の窓口相談において福岡県は、20代以下で2位、30代~60代までは各年代で4位、総合順位でも4位でした。また、自治体の子育て支援の取り組み状況についての環境評価を行っている第15回「次世代育成環境ランキング」(NPOエガリテ大手前)では、出産環境や小児医療などが好評価を得て9年連続で政令指定都市1位に選ばれているほか、物価の安さでも1位(平成29年総務省「小売物価統計調査」)でした。

関門海峡に面し、本州と海を挟んだ九州側の玄関口となるのが約94万人の政令指定都市の北九州市です。山間部の北九州国定公園は景勝地として知られていますが、八幡東区の皿倉山からの眺望は「日本新三大夜景」にも選定されています。釣りやサーフィンなどマリンスポーツも盛んな海や草花が生息する山に囲まれているほか、小倉城を中心とする勝山公園や北九州市立美術館に近い中央公園など市内の都市公園数は約1700ヵ所あるなど自然環境に恵まれています。

北九州市は海に囲まれた地形であるため、夏場の梅雨明け後に30度以上の真夏日になることはありますが、猛暑日は他の九州地区に比べて少なく比較的過ごしやすいといえるでしょう。 夏に比べて冬場は季節風のために曇天が多く、日照時間が少なくなる影響から、年に数日ほど雪が積もることもあります。日照時間の年間合計値は 1979.3時間です。1981年から2010年までの平均気温は下表のように16.2度で、2020年は17.1度と上がってきています。

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福岡県内には福岡空港のほかに陸側への騒音が少ない人口島に24時間利用可能な北九州空港があります。小倉駅から同空港まではエアポートバスで約30分です。スターフライヤーがハブ空港と位置付け空港内に本社を設けていますが、九州の空港では唯一の特徴を活かし早朝から深夜まで運行されており、東京・羽田空港までは約90分。国際線はコロナ禍で運休中ですが、2016年から中国・大連線や韓国・釜山線、仁川線、台湾・桃園線も運行を開始しています。

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また、新幹線が乗り入れるJR小倉駅があるほか、四国、関西、東京に接続するフェリーもあるため、県外へのアクセスも良好です。北九州市内の公共交通機関は、鉄道、バス、モノレールがあり、毎日の通勤・通学や買い物など、どこに行くにも便利な交通網が整っていますので、首都圏とは違い市内の平均通勤時間は24.8分と短いものがあります。バスは路線バスのほか、北九州市内各地と福岡市を結ぶ高速・特急バスが運行し、県内の移動もスムーズです。

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工業都市から創造都市、そして、グリーン成長都市へ

2020年3月に国土交通省から発表された福岡県の公示地価は、全用途で1.2%上昇と伸び率が全国2位でしたが、住宅地で3.5%、商業地はターミナル駅周辺などでの上昇が目立ち、6.7%で5年連続での上昇となりました。北九州市は、商業地で1.3%の上昇。住宅地は不動産業者による戸建てやマンションの用地取得が旺盛だったことから21年ぶりに0.1%の上昇でしたが、共働きの子育て世代が増え、通勤に買い物にも便利な駅周辺の物件に人気が集中しています。

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また、北九州市の事業所数は約4万3千、従業員数は約43万5千人で、いずれも九州では福岡市に次いで2位。産業別の市内総生産(2017年度)は3兆7,188億円でしたが、同市の代表的な産業の製造業は増加と減少の業種が混在し、 製造業全体では減少したものの、建設業や不動産業が増加し総生産額を押し上げました。産業別シェアは「製造業」の22.1%を筆頭に「不動産業」の10.5%、「保健衛生・社会事業」の9.5%、「卸売・小売業」と続いています。

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北九州市は、令和3年度においても新型コロナ対策に万全を期すとともに、2050年の脱炭素社会の実現に向けた取組などのグリーン成長戦略やデジタル改革をはじめ、下表のような同市の成長につながるさまざまな事業を推進するとしていますが、「北九州まち・ひと・しごと総合戦略」に基づく地方創生の取組やSDGs未来都市の達成に向けた取組を着実に推進し、「日本で一番住みよい街」と実感できるまちの実現に邁進するといいます。

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北九州市は、2018年にOECDからアジア地域で初めてとなる「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選ばれたほか、同年に「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」に選定されています。「市民力」や「公害克服の経験」「ものづくりの技術」という3つのキーワードがSDGsの理念を先取りしている同市ですが、「洋上風力発電関連産業の総合拠点化」や「ロボットを活用した生産性の向上」などに取り組むとともに、全国初の試みとして市内の金融機関19社と連携し、ワンストップで地域企業の取り組みをサポートする協力体制も整備しています。

image002.jpg (133 KB)(出典・北九州市)

移住者や女性の就職支援をはじめ子育て環境も充実

人口減少が進む北九州市ですが、転入超過数はマイナスながらも2015年から2020年までに2115人減少しています。同市では2021年度も「定住・移住促進事業」を継続するほか、「住むなら北九州 定住・移住推進の取組」も拡充するといいます。就職希望者と市内企業をつなぐ市独自のサービスを提供している「北九州市U・Iターン応援オフィス」では、専任コンサルタントによるカウンセリングや情報提供が行われ、3年連続で就職者数は220名を超えました。

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同市では市外から移住する世帯等に対しては、一定の要件を満たす住宅を取得・賃貸する費用の一部を補助しているほか、2021年度にはテレワーク等で移住する世帯向けの補助枠も新設されるといいます。現在は賃貸の場合、「子育て・転入応援メニュー」(最大30万円)、「新生活応援メニュー」(最大10万円)、持ち家の場合、「定住・移住促進支援メニュー」(最大50万円)、社宅では、「社宅建設支援メニュー」(最大50万円)があります。

北九州市の子育て支援施設としてJR小倉駅近くに子育て中の保護者の負担や不安感を解消するための総合的な子育て支援拠点「子育てふれあい交流プラザ」とJR黒崎駅近くに「子どもの館」が設置されているほか。情報交換や育児相談ができる場として市内7区の区役所等に親子ふれあいルームが設けられています。また、「北九州市こそだて情報」が発行されていたり、イベント情報や地図と施設情報をリンクさせた「子育てマップ北九州」も開設しています。

image003.jpg (289 KB)主に就学前の子どもとその家族を対象とした「子育てふれあい交流プラザ」

最近の移住に関心が高い層は40歳以下の子育て世代といわれていますが、北九州市の魅力の一つに「子育て環境の充実」があります。同市の合計特殊出生率は1.61で、政令指定都市では1位でしたが、小児救急医療体制や保育サービスの充実に放課後児童クラブの全児童化、子ども図書館の開設、子ども食堂の開設・運営支援、「赤ちゃんの駅」登録など多岐にわたり子育て環境が充実しています。なお、下表のように待機児童数もゼロが続いています。

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女性が輝く社会の実現に向け、国と県と市が一体となって〝女性のはたらく″をワンストップで総合的に支援する全国で唯一の取り組みが、2016年に開設された「ウーマンワークカフェ北九州」です。就職支援や就業継続・キャリアアップ支援、創業支援、子育てとの両立支援などのサポートを行っていますが、2016年度から2019年度までの4年間で、新規利用者数は1万3千人を超え、就職決定者数は約3割となる3,552人に上るといいます。

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北九州市の人口10万人あたりの医療機関数は政令指定都市の中で病院が3位、診療所が4位で、病床数は病院・診療所ともに2位です。同市では救急医療に関する情報提供を行うためにテレフォンセンターが設置され、24時間体制で市民の問い合わせに対応して医療機関の紹介を行っているほか、患者の状態に応じた3段階からなる救急医療体制も整備されており、救急車要請から病院到着までにかかる時間は大都市で1番の早さ(2019年)です。

森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として109都市を対象にした「日本の都市特性評価2020」によれば、北九州市は20位。どこへ行くにもアクセスしやすく、本州と九州の結節点でもあることから交通アクセス分野では10位、ロボットを活用した生産性の向上などの評価から研究開発分野でも15位と高ランクです。2001年に地域の産業を支える知的基盤として開設された北九州学術研究都市を中心に地域に集積する大学・研究機関と産業界の連携をコーディネートし、中小企業やベンチャー企業の支援も行う北九州産業学術推進機構(FAIS)の取り組みも評価されているでしょう。

日本の近代工業化の歴史において重要な役割を果たしてきた工業都市も現在は、持続可能なまちづくりのために、「経済」「社会」「環境」の3分野で技術力や市民力を生かした取り組みを推進しています。また、世界遺産や産業観光をにぎわいの創出につなげるとともに豊かな文化土壌を活かして創造的なまちづくりにも力を入れているほか、洋上風力発電関連産業の総合拠点化という今後、日本でも普及が期待される再生可能エネルギーも注目されます。さらに、2016年に「国家戦略特区」に指定され、新しい産業と雇用を創出する新たな取り組みも始まっています。

北九州市は、「2020年版 住みたい田舎ベストランキング」(人口10万人以上の大きなまち)において、子育て部門で2位、シニア部門で3位、若者部門で5位になるなど、子どもから大人まで幅広い世代が、暮らしやすさ、住みよさ、物価の安さ、アクセスの良さなどを実感できる街といえるでしょう。そして、歴史的・地理的要因もあるのかもしれませんが、多様な人を受け入れ、認め合う風土があって許容度が高く、女性や若者の定着につながる魅力ある地域づくりや安全・安心なまちづくりを推進する北九州市はポテンシャルも非常に高く、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。 

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