2020年12月の内閣府の調査では若年層の約4割が地方への移住に関心を持っていましたが、総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、東京都の人口は2020年7月から8ヵ月連続で転出超過となっているほか、2020年の東京圏からの転出も9千人増えています。東京一極集中に変化の兆しが見え始めています。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は鹿児島県「鹿児島市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。
通勤時間短く、機能性の高い快適な街は移住者に人気
新型コロナウイルス感染症が広がった影響で、鹿児島市では東京や大阪での移住相談セミナーを開催できない状況にありますが、2020年度に同市の移住推進室に寄せられた相談件数は2019年度の1078件を上回って1472件だったといいます。移住を考えている県外在住者向けに始めた市の制度「かごしま市IJU倶楽部」も好調で、76世帯172人(2021年3月現在)が加入しており、加入者の59%は東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の住民です。
さて、鹿児島市を抱える鹿児島県は、2020年のふるさと回帰支援センターの「移住希望地域ランキング」の窓口相談者の順位では20位でした。一方、鹿児島市は全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」など8分野で調査した日経BP総合研究所の「住みよい街2020」では都道府県庁所在地で8位。居住エリアと中心地の距離が近く、通勤時間も約70%の人が30分未満で、移住者から仕事とプライベートのバランスが取りやすいとの声も。
太平洋と東シナ海に面した広大な鹿児島県は総面積の約1/4が、種子島、屋久島、奄美大島などの離島で占められています。鹿児島市は同県のほぼ中央に位置し錦江湾を挟んだ桜島を含め人口約60万人の県庁所在地。行政、商業や教育、文化、医療など多様な都市機能が集積しているほか、中心地のビル街からも活火山の桜島が見える都市と自然が共存した独特な景観が魅力。市内には源泉も多く、気軽に天然温泉に足を運べる贅沢な環境です。
市中心地からも錦江湾を挟んだ桜島の大きな姿が望めます
鹿児島市は温暖で多雨の太平洋側気候で、8月の平均気温は28度を超え、最高気温も32度前後の真夏日が多くあり、7月中旬から8月下旬にかけて熱帯夜が続きます。年間平均気温は全国上位の18.6℃と高く、年間の日照時間の合計値は1935.6時間ですが、年間の降雨量も2265.7mmと多いのが特徴。1981年から2010年までの平均気温は下表のように18.6度で、2020年は19.2度と上がってきています。
県内唯一の鹿児島空港は鹿児島中央駅からリムジンバスで約40分の距離です。国内線は日本航空と全日空を中心に羽田や伊丹、中部など主要都市へ飛んでおり、東京へは約1時間45分で移動できます。また、東アジアと近接しているので、国際線は上海、香港、ソウル、台北など各都市へのアジア路線にも就航しています。なお、奄美大島や沖縄など南西諸島への多くの離島航路の発着機能を持つ鹿児島港は重要な交通・物流拠点です。
県外へは九州新幹線の終始発駅の鹿児島中央から博多まで最短で約1時間20分、大阪へは約3時間40分です。市内の公共交通機関は、JRと鹿児島市電(路面電車)、路線バスです。市の中心部は交通網が整備されているので、ほとんどの施設へ公共交通機関を用いてアクセスできます。車を所有しているほうが動きやすいですが、路面電車の電停近くなどであれば、車がなくても十分に生活できます。ちなみに、桜島フェリーは24時間運航されています。
多様な主体と連携図り「SDGs未来都市」に向け取組推進
2021年3月に国土交通省から発表された鹿児島県の公示地価は、商業地が30年連続で下落、住宅地も23年連続で下落し、下落幅も拡大しています。鹿児島市の商業地は中心部の再開発が進み地価は上昇基調でしたが、新型コロナウイルスにより天文館地区が影響を受け、前年比マイナス0.2%で4年ぶりの下落。住宅地も利便性の高さから堅調でしたが、先行きの不透明感からマイナス0.1%で3年ぶりに下落。ちなみに、工業地はプラス0.2%と2年連続の上昇でした。
鹿児島市の事業所数は約2万7千、従業員数は約27万人で、いずれも鹿児島県ではトップ、九州では4位です。産業別就業人口は第三次産業が87%です。事業所数も従業員数いずれも「卸売業・小売業」が最も多く、次いで事業所数では、「宿泊業・飲食サービス業」(13%)、「医療・福祉」(10%)、「生活関連サービス業・娯楽業」(9%)が続きます。従業員数は、「医療・福祉」(19%)、「宿泊業・飲食サービス業」(10%)の順となっています。
鹿児島市は、令和3年度予算については、『「新しい時代に対応する鹿児島市」の創造に取り組む予算』と位置付けており、直面する課題を乗り越え、将来においても同市が持続的に発展していくことを目指し、「市民のための市政」を基本に新しい時代の変化をとらえ、的確に対応しながら、特に下表の4つの政策に重点的に取り組み、市政を推進していくとしています。
また、鹿児島市は2020年7月に「SDGs未来都市」に選定されています。下図の同市が第5次総合計画に掲げる都市像「人・まち・みどり みんなだ創る“豊かさ”実感都市・かごしま」は、少子高齢化が進行し、人口減少局面へ移行する中において、同市の特性を最大限に生かしながら、持続可能な社会を目指すものであり、SDGsにおけるあるべき姿と共通しています。今後、普及・啓発に積極的に取り組むとともに、市民や事業者、NPOなど多様な主体と連携を図り、「SDGs未来都市・鹿児島市」に向けた取組を推進していくとしています。
<都市像>「人・まち・みどり・みんなで創る“豊かさ”実感都市・かごしま」
(出典:鹿児島市「第五次鹿児島市総合計画」から転載)
医療環境が充実し、健やかに暮らせる安心・安全な街
鹿児島市は、2010年から2012年まで転入が転出を上回る社会増で推移していましたが、2013年に44人の転出超過なってからは2019年まで社会減の状態でした。2020年は8年ぶりに275人の転入超過となりました。最近では、WEB会議システムZoomを利用した「オンライン移住相談会」も開催していますが、同市は今年度、移住を促進するために県外からの移住世帯に対し、奨励金を交付するなど「かごしま移住支援・プロモーション事業」に取り組むといいます。
鹿児島市移住促進ポータルサイト「かごしま移住ライフ」では、移住に関連する支援制度やイベント等の情報、移住者のインタビューなど暮らす人のリアルな声が参考にできます。なお、移住推進室では、専任の移住支援コーディネーターが、移住希望者からのさまざまな相談に対応するとともに、これまで相談のあった移住希望者や既に移住した人に対してフォローアップを行っています。
鹿児島市の待機児童数は216人(2020年4月)と少なくありませんが、市内8ヵ所の保育所等では「地域子育て支援センター」を設置し、子どもの遊び場や親子交流、情報交換の場を提供。また、すこやか子育て交流館「りぼんかん」や「親子つどいの広場」ではイベントや講座の開催、子育て相談、一時預かりの受け付けも行っています。援助を受けたい人、援助したい人が会員となり相互援助活動を行うファミリー・サポート・センターもあります。
鹿児島県では県内で働く女性を招いての異業種交流会「わたし活躍スイッチ!」など各種セミナーを開催して女性がいきいきと働くことができる社会づくりを推進していますが、鹿児島市では、市内在住の働きたい女性の就職を応援する「ツアー型職場見学会」を随時開催し、出産や育児で離職した女性の再就職をサポート。子育てをしながら就職を希望する人向けの就職相談窓口「マザーズコーナーかごしま」はワークプラザ天文館に併設されています。
市内には救急時には夜間急病センターがあるほか、重篤な救急患者を24時間体制で受け入れる救命救急センターは鹿児島市立病院、鹿児島大学病院などにあります。ドクターヘリは鹿児島市立病院を基地病院として運航されています。安心して出産ができるよう市内の「周産期母子医療センター」は、鹿児島市立病院を中心として、今給黎総合病院、鹿児島大学病院の3施設で連携を図っています。医療機関については県の「かごしま医療情報ネッツト」で検索可能。
森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として109都市を対象にした「日本の都市特性評価2020」によれば、全体的にバランスの良い鹿児島市は総合ランク21位です。交通アクセス分野が25位、文化交流分野も25位、生活居住分野は29位など各分野では九州地区でも上位にランクされているほか、研究開発分野33位、環境分野42位。経済ビジネス分野では46位でした。
鹿児島市で生まれ育った人が誇りに思う「3S」というキーワードがあります。桜島、焼酎、西郷隆盛という鹿児島を代表し象徴する「よかもん」です。街への愛着やプライドがひときわ強い地域ですが、野村総合研究所の「成長可能性都市ランキング」で上位に名を連ねた同市は、「外部人材の受け入れや多様性への寛容度が高く、新しいものを受け入れる風土がある」と評価されました。近年、東京圏の住民からの関心も高く、移住者も増えている土地ですが、都市の豊かさや自然の豊かさとともに、人と人がつながる温もりに満ちた心の豊かさに安心できるでしょう。「SDGs未来都市」にも選定され、経済・社会・環境の三側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い鹿児島市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。