5月29日に「SMOUT」を運営するカヤックが主催した「みんなの移住フェス2021オンライン」が開かれました。地域に関心を持つものの、地方移住の始め方などに戸惑う移住希望者と地域とのつながりを促進させる目的で、北は北海道から南は沖縄県まで県や自治体、外郭団体など28道府県の62の地域が参加したといいます。なお、「オンライン相談」は6月4日まで行われています。今回は、自治体の移住施策や移住状況、支援制度などについて紹介します。
移住相談件数は大幅減もオンライン相談への移行が顕著
昨今、官民による各種調査で20代の若い世代を中心に「地方移住」に関心が集まっていることが報道されています。当初、新型コロナウイルス感染症が都市部を中心に拡大したこともあり、特に23区内在住の30~40歳代が顕著で、都心から多摩地域、通勤圏内の郊外へ移り住む流れが進んだ年となりました。なお、転出先の約55%は神奈川県や埼玉県、千葉県といった東京都に隣接する首都圏3県で、大都市圏以外への地方移住の流れは始まったばかりです。
先ず、「住民基本台帳人口移動報告」(2021年・総務省統計局)で地域間の人口移動状況を追うと、2020年の都道府県別の転入者数は東京都が43万2930人で最も多く、次いで、神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県、愛知県、福岡県が続き、これらの7都府県で57%を占めています。また、前年に比べて転入者数が増加しているのは、福井県(807人)、長野県(736人)、茨城県(263人)、山梨県(22人)のわずか4県だけでした。
転入超過数を市町村でみると、各都道府県において転入超過数の最も多い市町村が21大都市となっているのは10都道府県で、その他の市となっているのが30府県、町村となっているのが7県です。なお、東京圏、中京圏、関西圏の1都2府8県を除いた36県が上表になります。市では札幌市や福岡市といった21大都市が上位で、つくば市、仙台市、大津市などが千人以上で続き、町村では軽井沢町(長野県)、菊陽町(熊本県)が上位にランクされています。
また、地方への移住について、ふるさと回帰支援センターの2020年の相談件数を見ると、コロナ禍で2019年の49,401件から38,320件へ大きく減少し、3年ぶりに3万件台に戻っていました。同センターが休館したことや職員の在宅勤務などもあり、面談による相談は前年比で約20%の減少。一方で、電話やメールでの相談は前年より約25%増加したほか、6月以降は約86%がオンライン・ハイブリッド型となっていたといいます。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、テレワークやリモートワークをはじめとした柔軟で新しい働き方の広がりにより移住のネックとなっていた仕事の問題が解決し、「1年以内の移住」希望が前年より6.1%増加したほか、移住希望先として「地方都市」を挙げる比率が68.5%と人気がありました。なお、「農村」を挙げる人も4.1%増加し、年代層は40歳代が27%と最も多いといいますが、現在、センター利用者は20~30歳代で約5割を占めています。
さて、内閣府では地方移住への関心が高いものの行動には移していない「移住潜在層」と位置付けられる20~30歳代の若者を対象に昨年11月、これから地方移住を考える人、始める人を応援するウェブサイト「いいかも地方暮らし」を開設しています。地方暮らしを始めた移住者のインタビューや移住関連コラム、官公庁などの移住情報サイトのリンク集、有識者が勧める移住の始め方といった地方移住に役立つ情報が掲載されています。
出典:「はじめての移住応援サイト『いいかも地方暮らし』」(内閣府)
移住施策や相談体制、情報発信が功を奏し移住者増へ
コロナ禍で地方への移住に関心が高まって、移住を考える人を受け入れる自治体でもさまざまな移住・定住の施策が講じられています。「地方移転に関する動向調査結果」(関東経済産業局)で、自治体に「どのような目的で移住する人物を重要視しているか」と聞いたところ、下表のように地元企業や自治体に就職する人材がターゲットで、テレワーク等によって東京圏に住みながら働く人材も希望は多いものの、重要度は少し劣ることが分かりました。
テレワークをはじめとした柔軟で新しい働き方の広がりや都心企業のオフィス縮小・分散化等の変化が生じるとともに、こうしたニューノーマルを背景に地方移住を考える人が増えてきましたし、移住先で新たに就職先を探さなくとも勤務先の仕事をリモートで対応する移住者、勤務しながら副業や兼業で地域に貢献する移住者や移住はしないまでも副業や兼業により地域と関わりを持つ人も自治体では対象と捉えています。
自治体にとって移住促進に関わる施策としては、補助金や物件紹介の支援策が多くなっています。一方、自治体が抱える移住促進の課題には、「環境整備の遅れ」や「自治体内のリソース不足」などもありますが、「移住希望者へのPR」の優先度が高く、特に情報発信の場や方法について模索する自治体が多いようで、「他地域との差別化ができない」の比率が高くなっています。
実際に地方への移住の実態を2020年度の自治体の統計で見ると、自治体によって移住の定義などが異なるために単純に比較はできないものの、相談窓口を通じた実数をカウントする自治体が多いといえます。特徴としては、20~30歳代の若年層や子育て世代の移住です。これらの移住者は、何より「子育て環境を重視」していますので、生活環境のなかでも子育て支援、さらに教育や医療機能が充実した地域は訴求力が強いといえます。
移住者を増やすことになった自治体の具体的な施策としては、市町村レベルでの補助・助成制度や対象に合わせた移住施策などの強化、大都市圏での相談窓口の開設はもとより、専属職員の配置、オンラインによる移住フェア・相談会の開催などの充実があるほか、ポータルサイトや移住・定住などWEBでの情報発信。さらに、地域の魅力を体験できる移住体験ツアーやお試し施設での地域滞在ツアーの実施なども有効であったようです。
若い世代の移住者の場合、単身者だけではなく、家族で移住する例も多くありますが、子どもたちがまだ小さいので、子育てに優しいと思えるような環境でなければ、移住する決断には至らないでしょうし、まちの未来もありません。出産や子育て世代の減少は都市の衰退の可能性があるので、そうした家族が安心して暮らすことができません。移住支援においても行政による子育て支援の整備が移住者にとっても魅力となり、大きな判断材料になるでしょう。
自治体の有効な施策は住居の補助金と空き家バンク
地方移住の促進のために東京圏から地方へのUIJターンによる起業・就業者の創出等を地方創生推進交付金により支援する「地方創生移住支援事業」と「地方創生起業支援事業」が実施されていますが、自治体が実施している移住促進策としては、こうした交付金以外に下表のような補助金や助成金をはじめ、物件紹介などの支援策が多く、特に有効な施策としては、「地方移転に関する動向調査結果」(関東経済産業局)では、移住希望者の住居に対する補助金や空き家バンクと答える自治体が多くありました。
流出人口が増えていた地域、課題が多かった地方にも都市部からの移住の流れが進むなか、ふるさと回帰支援センターには42道府県2政令指定都市の移住相談員が配置されているといいます。コロナ禍で移住相談会や移住フェア等がオンラインで開催されるようになっていますが、自治体間における移住者の獲得競争は激しさを増しています。地域の魅力を発信しながら移住希望者のニーズを踏まえた対応、受け入れ体制の充実を図っていくかが求められています。
コロナ禍で移住相談会も開催できないなか、オンラインによる相談会やお試し移住などを実施するほか、移住希望者の相談に乗る「移住コンシェルジュ」の配置、さらに地方で暮らしてもテレワークにより都会と同じ仕事ができるように、廃校や空き店舗を活用したコワーキングスペースやシェアオフィスの開設等受け入れ態勢の整備などが積極的に進められています。長崎市では市役所内に「移住支援室」なども設けられるなど、地方自治体でもさまざまな施策が講じられています。
東京圏への人口の過度な集中を是正し、地域で住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある社会を維持することを目的とする「地方創生」。さまざまな施策を講じてきたものの、なかなか東京圏から転出超過になることがありませんでしたが、コロナ禍で感染症が都市部を中心に拡大したこともあり、皮肉にも東京圏などへの人口集中のリスクが浮き彫りになって地方への関心が高まり、少しずつ転出、移住の流れにつながっています。地方移住を考える人や移住はしないまでも地域と関わりを持つ人が増えてきていますので、受け入れ側の自治体も今まで以上に移住希望者に寄り添った施策や対応が望まれます。次回は地方移住の最終回です。