東京2020オリンピックの開会式が来週に迫りましたが、7月19日~9月5日に「テレワーク・デイズ2021」が設けられています。2017年から働き方改革の国民運動として始まりましたが、今回は全国で3000団体の参加が目標です。総務省の「令和2年通信利用動向調査」によれば、企業におけるテレワークの導入が急激に進み、在宅勤務を中心に導入する企業の割合は前年比で倍以上の47.5%に達したといいます。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は秋田県「秋田市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。
家族での移住でも安心な生活環境で「住みたい田舎」2位
5月31日にJR秋田駅前にホテルメトロポリタン秋田の別館がオープンしました。2015年にJR東日本秋田支社と秋田県や秋田市が、「地方創生に向けたコンパクトなまちづくりに関する連携協定」を締結していますが、同駅周辺で進められてきた再開発事業の一環。駅全体のリニューアルをはじめ、秋田駅東口にはバスケットボール専用体育館や学生マンションの整備、駅西口には秋田放送が進出するなど秋田駅を中心にコンパクトシティが構築されつつあります。
さて、秋田市を抱える秋田県は、ふるさと回帰支援センターの「移住希望地域ランキング」で2015年に8位にランクインしたこともあります。秋田市は全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」等8分野で調査した日経BP総合研究所の「住みよい街2020」では都道府県庁所在地で14位。「住みたい田舎」ベストランキングで東北エリア総合部門2位、人口10万人以上の大きなまち総合部門5位(宝島社「田舎ぐらしの本」2019)です。
東北地方の北西部にある秋田県は、日本海や白神山地などといった自然に恵まれ、全国で6番目に広い面積ですが、県の約3割の31万人が暮らす秋田市は県庁所在地。新幹線駅や空港などがそろう県の中心地で、十分なインフラやサービスが整っており、短い通勤・通学時間や安い地価も魅力です。一方、東には出羽山地、西には「夕日の美しい日本海」が広がる緑豊かな街であるほか、「秋田竿燈まつり」や5つの酒蔵がある酒どころでも知られます。
秋田県の気候は典型的な日本海側気候です。秋田市では夏は暖かく、蒸し、湿度が高く、冬はとても寒く、風が強く、年間を通じて曇りの日が多いといいます。冬期は強風の日数が月に13日程度、曇天日数は月に24日程度で、年間の日照時間の合計値は1527.4時間と少なく、年間の降雨量は1741.6mm、降雪量は平年値で38cmです。1991年から2020年までの平均気温は下表のように12.1度で、2020年は12.8度と上がっています。
秋田市は、秋田新幹線や秋田自動車道、秋田港、秋田空港など陸・海・空の交通インフラが整った利便性の良い都市です。例えば、秋田県庁から東京都庁までの所要時間は、航空機利用の場合に約160分とされます。新幹線で東京までは約3時間40分、飛行機では羽田空港まで約1時間でアクセス可能ですが、国内線は日本航空と全日空が札幌、名古屋、大阪へも運航しています。なお、秋田駅から秋田空港まではリムジンバスで35分ほどです。
市内の公共交通は鉄道ではJRだけですが、そのほかは秋田中央交通が運行する市内路線バスがあります。秋田駅西口と東口にバスターミナルが設けられ、市内44路線で運行されているほか、郊外部では秋田市が事業主体となっている秋田市マイタウン・バスがあります。公共施設や飲食店などが集中する中心市街地の主要スポットを巡回する運賃が100円で1周できる「中心市街地循環バス(ぐるる)」も便利です。
基本理念は「ともにつくり ともに生きる 人・まち・くらし」
2021年3月に国土交通省から発表された秋田県の公示地価は、住宅地でマイナス0.9%と前年と同様でしたが、商業地はマイナス0.8%からマイナス1.0%へ。前年に19年ぶりに上昇した秋田市の住宅地はほぼ現状維持でした。秋田駅東口側の地区と官庁街に近い地区は地価上昇を維持したものの、過疎化が進む同市郊外は下落率が大きいものでした。昨年、変動率が22年ぶりにプラスだった商業地は駅周辺の飲食店の利用客がコロナ禍で減少し、大半が横ばいに。
秋田市の事業所数は約1万5千、従業員数は約15万人で、いずれも秋田県でトップ。事業所数では東北で3位、従業員数で2位でした。2015年の国勢調査によれば、全就業者数の構成比では、第1次産業及び第2次産業は国や県よりも少なく、約8割を超える第3次産業への依存度が高いものがあります。男性は「卸売業・小売業」、「建設業」の順に就業者が多く、女性は「医療・福祉」、「卸売業・小売業」の順に就業者が多くなっています。
秋田市は令和3年度予算編成においては、引き続き市政の最重要課題である人口減少対策に取り組むとともに、令和3年度にスタートした「県都『あきた』創生プラン」(第14次秋田市総合計画)に掲げる施策の着実な推進を見据え、選択と集中による経営資源の最適配分に努めるとしています。5つの将来都市像別の体系にとらわれずに、経営資源を一体的かつ集中的に投入する分野として5つの「創生戦略」が設定されており、下表が今年度の主な事業です。
前述の「第14次秋田市総合計画ですが、同市の総合的かつ計画的な行政経営を図るため、令和3年度から7年度までの5年間の計画期間を通した目標とそれを実現するための基本的な考えを示すものです。人口減少・少子高齢化などの課題と社会の変化を踏まえ、時代の大きな転換点にあって、次の世代に引き継ぐことができる元気な秋田市を市民とともに「創」り、ともに「生」きるための計画として、名称を「県都『あきた』創生プラン」としています。総合計画は「基本構想」と推進計画」で構成されています。
【総合計画の体系】
(出典:秋田市「第14次秋田市総合計画」より)
教育や子育て支援に医療など生活環境が整った都市
秋田市の社会動態をみると、下表のように2015年以降は転出超過の社会減の傾向が続いていますが、2020年は76人の転入超過に改善されています。同市では秋田県内からの転入が相当部分を占めていますが、2019年に県内からの転入超過数が増加し、東京圏や宮城県を中心とした東北圏への転出が大きく減少するなど、転出超過に一旦、歯止めがかかった形となっています。
秋田市は2019年に東京・京橋に「秋田市移住相談八重洲センター」を開設し、2人の専門相談員が移住希望者の相談に対応するほか、無料職業紹介所として紹介状の発行や仕事のマッチングなどにも対応していますし、移住相談専用ダイヤルも設けられています。移住関連の情報については、秋田市ウェブサイト内の「移住・定住 - ちょうどいいから住みやすい」や秋田県移住・定住ポータルサイト「“秋田暮らし”はじめの一歩」に掲載されています。
また、秋田市では移住に関する各種の補助金が準備されていますが、「東京圏移住支援事業」をはじめ、一定の要件を満たす移住者(単身世帯または夫婦のみ世帯など)に対し、住宅の確保、移動手段の確保および生活必需品の購入に係る費用を補助し、移住を促進する「若者移住促進事業補助金」や「子育て世帯移住促進事業補助金」が用意されています。いずれも補助を受けるためには、転入日前の申請が必要になります。
同市では、市の拠点センター「ALVE」内に就学前の子どもを対象とした遊びや親同士が交流できる場を提供する「子ども未来センター」があるほか、市内には「子育て交流ひろば」を8ヵ所設置し、専門のスタッフによる子育て相談をはじめ、子育てに関するイベントも開催。市の子育て支援や子連れで行きやすい店、子育てに役立つ情報などは、「秋田市子育て情報」サイトにまとめられています。子育て世帯にとっても魅力的な環境が整っています。
県内の企業で働く女性の仕事や育児・家庭の両立を支援する「あきた女性活躍・両立支援センター」では、窓口・専用電話での個別相談や専門アドバイザーの派遣など企業へのサポートを総合的に実施。市内には育児を続けながら就労を希望する女性には「ハローワーク秋田マザーズサロン」もあります。なお、「あきた女性の活躍応援ネット」では県内で積極的に女性採用や社員の子育て支援を行う企業の紹介、仕事と育児を両立する女性のインタビュー等も掲載。
医療の充実度を示す指標である「人口10万人対医療施設従事医師数」では、秋田市は369.5人と全国平均を大きく上回っています。救急病院は市内には秋田大学医学部附属病院をはじめ6ヵ所、ドクターヘリは秋田赤十字病院を基地病院に1機運航されています。子ども救急や助産所など県内の医療情報は「あきた医療情報ガイド」にまとめられています。同市に住所のある中学3年生までの児童に対し医療費の自己負担分の全部または一部を市が助成する制度も。
「住みよい街」の条件としては、災害に強く、犯罪が少ないなど安心安全な街、暮らしやすい街、子どもに優しい街などは優先順位が高いですが、秋田市は今後30年以内に「震度6弱以上の地震」に見舞われる確率は僅か8.1%と低いほか、「検挙率」は全国1位など刑法犯が少ない実態があります。住宅地の平均価格も全国一安く、一戸建ての住宅比率は全国一多い79.8%。また、文部科学省が実施した「令和元年度全国学力・学習状況調査」によれば、秋田の子どもの学力は全国トップクラスで、学習面でも学びやすく、育てやすい環境が整っているのでしょう。
2019年度の市民3000人を対象とした意識調査の結果、74.4%の市民が、「住み続けたい」、「事情が許せば、住み続けたい」と回答していますが、市民からも高い評価を得ているほど「住みよい街」なのでしょう。子育て世帯や若者への移住費用の支援など移住・定住につながる独自の政策に取り組んできた秋田市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。