5月に発表された慶應大学とNIRA総合研究開発機構の「第4回テレワークに関する就業者実態調査」では、4月時点での全国の就業者のテレワーク利用率は16%でしたが、東京圏は28%だったといいます。昨年6月以降はほぼ同水準で推移しているものの、「緊急事態宣言」が発出されると出社頻度は低下し、解除されると増加する傾向ですが、コロナ禍で急速に普及したテレワークは地方への関心を促しました。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきています。今回は沖縄県「那覇市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。
「移住したい」で8位、「二拠点居住したい」で5位の高評価
「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」で、総合戦略に掲げた政策体系に基づいて取組を進めるに当たり、新たに「ヒューマン」「デジタル」「グリーン」の3つの視点が重点に据えられましたが、那覇市でも4月から「デジタル化推進室」が新設されました。「第5次那覇市情報化推進計画」を基に、「スマートフォンを活用した市民投稿システム」や「異動受付支援システム」など専門的人材の外部登用を図りながら行政手続きのデジタル化等により市民サービスの向上や業務の効率化に取り組んでいくといいます。
3月には発表されたリクルート住まいカンパニーの「東京都民が移住・二拠点居住したいエリアランキング調査」で、移住・二拠点に対しての都民の約36%が「関心があり」で、コロナ禍で「より関心が高まった」人は半数を超える52%で、首都圏エリアが上位に並びました。首都圏以外で注目されたのが北海道と沖縄県でしたが、特に沖縄県那覇市は「移住したいエリア」で8位、「二拠点居住したいエリア」では5位と高位にランクインしました。
沖縄本島の南部に位置する那覇市は交通通信機能の上からも東南アジアの各都市を結ぶ要衝の地点であるほか、日本の南の玄関として地理的に好条件の位置にあります。人口約32万人の行政、経済、観光の中心地で県庁所在地でもある同市の中央部は平坦で、周辺部には小高い丘陵地が連なっています。市内は観光客が集うにぎやかな「牧志」、再開発で都心化された「那覇新都心」、世界遺産の首里城がある「首里」などエリアによって表情が異なります。
亜熱帯モンスーン地帯に属する沖縄は、一年を通じて平均気温は23度前後、平均湿度が77%で、30度前後の蒸し暑く長い夏と17度前後の暖かく短い冬に分けられます。春から夏にかけて雨量が比較的多く、夏から秋にかけては台風シーズンになっており、長時間にわたり強風に襲われることも多々あります。年間の日照時間の合計値は1727.1時間です。1991年から2020年までの平均気温は下表のように23.3度で、2020年は23.8度と上がっています。
海に囲まれた沖縄県は本島を中心に160もの島々で構成されています。那覇市には那覇空港と那覇港という海と空の玄関口があり、各離島へはフェリーを利用してアクセスができるほか、石垣島や宮古島へは直行便も運航されています。那覇空港からは日本航空や全日空、LCC等が東京をはじめ大阪、名古屋、福岡等の主要都市や中国、韓国、台湾など東南アジアを合わせ30以上の路線に就航。空港へのアクセスは沖縄都市モノレール「ゆいレール」が適しています。
市内の交通手段は、「ゆいレール」や路線バスがカバーしています。モノレールは那覇空港から県庁前駅までは約12分で、途中にはビジネス街もあり、通勤や通学でも利用されますが、2019年には首里駅から浦添市のてだこ浦西駅まで延伸。バスは那覇バス、東陽バス、琉球バス、沖縄バスの4社が運行しており、路線網も充実しているので、乗り換えて本島各地への移動も便利です。なお、レンタサイクルも新都心・おもろまちエリアは充実しています。
産業や経済、医療・教育・文化などの都市機能が集積した街
2021年3月に国土交通省から各地の公示地価が発表されましたが、沖縄県の全用途(住宅地・商業地・工業地)はプラス1.2%で8年連続の上昇。新型コロナウイルス感染症の影響により前年からの下落幅は全国最大の9.7ポイントでした。那覇市の商業地はマイナス0.6%となって9年ぶりに下落に転じ、観光客向けの店舗が多い市内19地点のうち11地点で前年を下回りました。住宅地は8年連続で上昇しましたが、前年からは縮小へ。
那覇市の事業所数は約1万9千、従業員数は約16万人で、いずれも沖縄県でトップ、事業所数も従業員数いずれも九州圏で7位。市内の産業構造は第3次産業が大半を占め、携わる事業所数も従業員も約93%です。なかでも「卸売業・小売業」の事業所数は約25%、「宿泊業・飲食サービス業」が約20%、「不動産業・物品賃貸業」が約11%、「生活関連サービス業・娯楽業」が約9%で続いています。
那覇市は新型コロナウイルス感染症拡大による市民生活や地域経済への影響や課題に対して必要な対策を講じるとともに、子ども政策や経済振興政策の充実、老朽化した公共施設の更新や社会保障費増など喫緊の諸課題に対処するために令和3年度の予算編成を行ったといいます。今年度はアフターコロナ時代を見据え、将来にわたり発展し続ける持続可能な社会の実現に向けて、下表のように6つの「まちの姿」に沿ってさまざまな施策を展開するとしています。
同市の「第5次那覇市総合計画」の中に長期的展望に立ち、これからの10年間の那覇市の将来像とその実現のための基本的な理念と方向性を示す「基本構想」がつくられています。具体的には市民と行政がともにめざすべき市の将来像を「まちづくりの将来像」として掲げ、その実現のための基本理念として「まちづくりの姿勢」を示し、方向性として下図のように「めざすまちの姿」を明らかにしていますが、これらは、それぞれ独立するものではなく、互いに密接に連携しながら同市の将来像を実現するものであるといいます。
【めざすまちの姿】
(出典:那覇市「第5次那覇市総合計画基本構想」より)
子育て環境や雇用環境を充実させ、健康長寿の復活へ
那覇市の社会動態をみると、下表のように2015年に一時的に転入超過になった年もありますが、2016年以降、転出超過が続いています。沖縄県の市町村別の転入・転出の状況では、ともに那覇市が最も多いですが、沖縄県への転入、沖縄県からの転出いずれも東京都が最も多く、同県からの転出は、全体的にみると関東地方へ多く移動しています。
沖縄県への移住については、県公式移住応援サイト「おきなわ島ぐらし」で、住む、働く、子育て、医療などの情報やポイントを押さえた沖縄移住のステップや先輩移住者のインタビューなど、生の声を紹介しているので参考になります。楽しく充実した沖縄生活にするための移住情報を最新に更新した「沖縄移住ガイドブック。」も更新版データが公開されています。
那覇市では地域の子育てネットワークの中核として、育児サークル支援などを行う「地域子育て支援センター」を保育所に併設し、交流保育、子育て相談、育児講座等を実施しているほか、子育てアドバイザーが常駐し、子育て中の親子(主に乳幼児0~3歳を持つ親と子)が気軽に集い、交流できる場を提供する「つどいの広場事業」を展開している施設も点在。相互援助活動を行う会員組織「那覇市ファミリー・サポート・センター」も利用できます。なお、4月1日現在の待機児童数は前年から116人の減少となる37人でしたが、認可保育園を2園開設したことや需要の高い年齢の定員を増やしたことなどが減少につながったといいます。
市内にある「沖縄県女性就業・労働相談センター」は、働きたい、働き続けたい『すべての女性』ひとりひとりに必要な相談や支援、応援する総合窓口で、無料の託児付き「女性のおしごと応援セミナー」なども開催しています。また、同センターなどさまざまな相談機関が入居する「グッジョブセンターおきなわ」でも、子育て中の女性の就活を支援。利用には事前の登録が必要ですが、授乳スペースやキッズ用トイレもあるので、小さい子を連れての来場も可能。
市内の救急医療対応病院としては、那覇市立病院、沖縄赤十字病院、沖縄協同病院、大浜第一病院があるほか、ドクターヘリは隣接する浦添総合病院救命救急センターに導入されています。県内の医療情報は「沖縄県うちなぁ医療ネット」での検索が便利です。また、生活習慣病予防対策として、「健康づくり協力店」事業を実施、健康づくりのサポートをしています。入院・通院費など子どもの医療費の一部を助成する「子ども医療助成費」もあります。
那覇市は、森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として109都市を対象にした「日本の都市特性評価2020」によれば、総合ランクで18位と高位置にランクインしています。特に文化・交流分野は、宿泊施設数の多さをはじめ、魅力度や認知度、観光意欲度などが認められて9位、都市のコンパクトさ、空港の利用のしやすさ、鉄道駅・バス停密度などが評価された交通・アクセス分野は19位でした。
1921年(大正10年)に市制を施行し100周年を迎えた那覇市は、美しいまちなみと亜熱帯特有の自然が調和し、産業や経済をはじめ、医療・教育・文化などの都市機能を集積しながら県都として都市を形成してきました。同市ではこれからの100年を展望し、「つなげる力」をひろげる視点、「稼ぐ力」を高める視点、「ひきつける力」が輝く視点の3つの「力」を重要な視点と位置づけていますが、全ての施策が遂行される上で各々の視点を強く意識することが期待されています。
那覇市の人口ビジョンでは2020年までに人口のピークを迎え、今後、人口の減少が予想されています。そうした中、子育て環境や雇用環境を充実させ、健康長寿の復活に取り組むとともに、低炭素社会の実現に向けた地球にやさしい環境共生都市と安全安心で快適な都市機能を調和させ、誰もが訪れたい、住み続けたいまちを目指す那覇市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。