このほど日本経済新聞社と東京大学が各種都市データを集計して多様な働き方が可能な特徴を点数化した調査を行いました。全国主要287市区の通勤時間や経済循環率、公衆無線LAN整備状況など8つの指標を用いて指数化し算出されたものです。コロナ禍でテレワークが普及するなか、生活サービスの利便性も求められ、多様な働き方や生活を実現できる都市が再評価されていますが、人口10万人の石川県小松市が首位で、トップ30のうち97%が地方都市、21市は人口20万人以下の都市が占めました。「働き方」で考える地方創生シリーズ1回目は、地方への転職なき移住について触れます。
働き方の方向性は「時間・空間の制約からの解放」が8割
7月23日に「TOKYO2020」が開幕しましたが、政府は7月19日~9月5日までテレワークを集中的に実施するキャンペーン「テレワーク・デイズ2021」を行っています。2017年から働き方改革の国民運動として始まっており、今回は全国で3000団体の参加を目標としていますが、総務省の「令和2年通信利用動向調査」によれば、企業におけるテレワークの導入が急激に進み、在宅勤務を中心に導入する企業の割合は前年比で倍以上の47.5%に達したといいます。
9月5日まで「テレワーク・デイズ」を実施中です(出典:「テレワーク・デイズ」HPより)
現在、東京を中心に全国的に新型コロナウイルス感染症の拡大が止まりませんが、コロナ禍の1年間で、総務省の「労働力調査」では就業者は48万人減少し、失業者は29万人増加しているといいます。感染症は雇用そのものに多大な影響を与えるとともに、テレワークの普及など働く環境、仕事への向き合い方やワークライフバランス、キャリア観など人の意識にも大きな変化を生じさせており、ウィズコロナ、ポストコロナにおける働き方が今、関心を集めています。
内閣府の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」でも「仕事への向き合い方などの意識に変化はありましたか」の問いには57%が「はい」と答えているほか、「ご自身の仕事と生活のどちらを重視したいかという意識に変化はありましたか」の問いには50%が、「生活を重視するように変化した」と回答しました。確実に仕事への向き合い方やワークライフバランスといった意識の変化が起きていることが分かります。
また、「コロナ禍でのフリーランス・会社員の意識変容調査」(一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)では、ウィズコロナ、ポストコロナの働き方の方向性として、「時間・空間の制約からの解放」と回答した割合が8割を超え、上記を含め、半数以上の割合で下表のように、6項目についての回答がありました。現在の仕事や働き方の問題を解消する或いは満足度を高める取組として「副業・兼業」も挙がっています。
コロナ禍で企業におけるテレワークの取組や促進が必要になっているほか、ウィズコロナ、ポストコロナの時代の働き方として副業・兼業やフリーランスなどの多様な働き方への期待が高まる傾向にあります。企業が副業・兼業を認めることができるルール整備、また約462万人ともいわれる拡大するフリーランスという働き方にあって、働く人の環境整備のためのルール整備も必要になっています。政府はテレワークや副業・兼業、フリーランスという新しい働き方を定着させ、リモートワークにより地方創生を推進し、DXを進めることで分散型居住社会を可能とする社会を実現することを目指すとしています。
2020年度の第3次補正予算で、「新たなひとの流れの促進支援」に約30億円が計上されました。そこでは大企業から中堅・中小企業へのひとの流れを創出し、地域企業の経営人材確保を支援することが掲げられていましたが、地方移住や副業・兼業への関心の高まりなど意識や行動変容も見られるなか、選択的週休3日制等を推進するという動きもあります。都市部の企業に勤務する人がテレワークにより地方にいながらにして都会と同じような仕事ができるようになれば、地方移住の拡大が期待できるとも考えられています。この「転職なき移住」という新しい働き方が地方創生に資するものとして注目されています。
地方創生テレワークやひとの流れの創出に人材支援
さて、「ひと・まち・しごと地方創生基本方針2021」では、コロナ禍で地方への関心の高まりやテレワーク拡大、デジタル化といった変化を後押しして地方への大きな流れを生み出し、新たな地方創生を展開するなど、東京一極集中の是正を図るとしています。さらに、地方の中小企業への就業や事業承継、起業等を契機として、地方をフロンティアと捉える都市部人材が地方に移住・定着できるように取り組み、そのために以下のような、さまざまな施策を講じるといいます。
具体的にみていくと、地方創生テレワークを推進するためには、地方公共団体に対しては地域の強みの確認や企業とのマッチング等、具体的な状況を踏まえた個別の相談に対応することが求められています。企業に対しては社内制度整備に向けたアドバイスや移転・進出先の相談対応が有効であり、働き手に対しては既存の移住相談窓口との連携強化が求められています。さらに、2024年度末までにサテライトオフィス等による企業進出や移住等の推進に取り組む地方公共団体を1000団体とすることを目指して取り組むとしています。
企業の地方移転等の促進については、地方において雇用を創出し、地方への新たなひとの流れを生み出す観点から企業の地方移転を地方拠点強化税制などの関連施策により引き続き支援し、その際、コロナウイルス感染症の影響によるビジネス環境や企業動向の変化を踏まえた検討を行うほか、企業移転等の更なる推進を図るとともに、政府関係機関の地方移転についても引き続き着実に進めるようです。
地域における人材支援の充実の項では、地方創生人材支援制度により国家公務員及び民間専門人材等を積極的に地方公共団体に派遣していくほか、2020年10月に創設した「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」による企業人材の地方公共団体等への派遣等、地域の取組を支援。地域おこし協力隊についても「地域おこし協力隊インターン」等による応募者の裾野の拡大やオンラインを活用する等制度の充実を図り、より多様な人材の活躍等を促進するといいます。
また、地域企業に対して、プロフェッショナル人材事業により、経営戦略の策定支援とそれを実現するためのプロフェッショナル人材とのマッチング支援。加えて先導的人材マッチング事業により、地域金融機関等が行う地域企業へのハイレベル人材のマッチングを引き続き支援するほか、さらに地域経済活性化支援機構が整備する人材リストの積極的な活用等を促し、大企業から地域企業へのひとの流れを創出するとしています。
企業の転勤や単身赴任など見直しで転職なき移住へ
「緊急事態宣言」の発出や「まん延防止等重点措置」の適用で、国民に対して外出の自粛が求められたためにテレワークを実施する企業が増えたほか、対面ではないウェブ会議が普及し、新たな働き方が広がりましたが、地方で暮らしてもテレワークで都会と同じ仕事ができるとの認識も拡大しています。折から政府では、大都市圏に立地する企業に勤務したまま地方に移住して地方で仕事をする「転職なき移住」を推進しています。
都市部人材が地方企業の業務を副業として請け負う「ふるさと副業」という言葉もありますが、新たなワークスタイルの一環としてJTBでは、居住の拠点(ふるさと)を全社員が会社に登録する「ふるさとワーク制度」を導入しています。業務はテレワークが基本で、出勤が必要な場合には出張費などは会社の負担といいます。また、先進的な企業の中には単身赴任の仕組みを見直す例もありますが、富士通では、単身赴任を解消する遠隔勤務を認めたといます。
日本生産性本部の「働く人の意識調査」では、コロナ禍収束後のテレワークの継続については、意欲的な割合は74.1%と仕事への向き合い方など意識に大きな変化をもたらせていますが、テレワークをはじめとした柔軟で新しい働き方の広がりを背景に今後、企業でも転勤や単身赴任などは見直されてくることでしょうし、会社員にとっては地方移住、それも転職をしないで移住をする例は増えることが予想されます。
政府は地方でテレワークを活用することによる「転職なき移住」を実現するため、サテライトオフィスの整備や利用促進、立地円滑化を推進するとしていますが、地方への人の流れを生み出し、少しでも東京一極集中が是正されることが期待されます。次回は、地方への新たな人の流れを促進する「都市部人材の移住&転職による地方支援」について考えてみたいと思います。