「札・仙・広・福」にみる人口移動と地域経済 の現在地(前編)
亀和田 俊明
2021/10/22 (金) - 18:00

東京都の9月1日時点での推計人口は1403万7,872人で、前年同月比では6ヵ月連続で減少しています。昨春以来、新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークの普及などにより都心を離れる動きが続いており、社会動態をみても他県への転出超過となっています。東京区部への転入者が減少し、神奈川県や千葉県、埼玉県など首都圏の郊外への転出者が拡大。一方で、若者を中心に地方移住への関心が高まりをみせていますが、地方圏でも政令指定都市や県庁所在地など中心都市への移住がうかがえます。今回は「札・仙・広・福」という代表的な地方の拠点都市を軸に人口移動と地域経済、地方創生の現在地について触れる前編です。

札幌・仙台・新潟などの地方都市が前年増の転入超過へ

地域間の人口移動状況を知ることができる総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(2021年1月)によれば、2020年の都道府県別の転入者数では、東京都への転入者数が43万2,930人で最も多く、次いで神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県、愛知県、福岡県が10万人台で続き、7都府県で57%を占めています。逆に転出者数が多いのは、東京都を筆頭に神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県、愛知県が10万人台で続き、上位の6都府県で48.5%を占めています。

また、同報告によれば2020年の日本国内における「市区町村間移動者数」は525万5,721人となり、前年に比べ2.7%の減少。「都道府県間移動者数」も246万3,992人で、前年に比べ4.1%の減少。男女、年齢別にみると最も多いのは就学や就職を機に人口移動する20~24際の男性です。「都道府県内移動者数」を追うと279万1,729人で、前年に比べ1.5%の減少になりました。なお、全国1719市町村のうち、転入超過は422市町村で、全市町村の24.5%でした。

image001.gif (26 KB)
(出典:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」より)

転入超過数では東京都が3万1,125人と最も多く、次いで神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、福岡県、沖縄県、滋賀県の8都府県で転入超過となっており、前年に比べ転入超過数が拡大しているのは4府県で、最も拡大しているのが5,292人の大阪府。逆に最も縮小しているのが5万1,857人の東京都です。一方で転出超過となっているのは、愛知県、兵庫県、福島県、長崎県など実に39道府県で、最も拡大しているのは愛知県の5,365人です。

image002.gif (34 KB)
(出典:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」より)

地方の政令都市レベルでみると、前年に比べ転入者数が増加している都市はありません。転入者数が大きく減少しているのが、福岡市(2,456人)と札幌市(2,347人)、広島市(2,184人)、京都市(1,640人)などです。また、転入超過数が拡大しているのは、仙台市(1,641人)と札幌市(681人)で、新潟市は5年ぶりに男女ともに転入超過に転じています。なお、熊本市は男性が前年の転入超過から転出超過に転じ、男女ともに転出超過となっています。

「札仙広福」の転入者数・転出者数・転入超過数(2020年)

コロナ禍でも地方圏から東京圏への転出が多くみられますが、地方圏においても経済の中心都市である政令指定都市や県庁所在地へ人口が集中する傾向があります。実際に宮城県では沿岸部で人口減少が進むなか、仙台市への人口流入が増加する「仙台一極集中」が鮮明ですし、札幌市でも2020年度国勢調査で前回調査(2015年)に比べ北海道の人口が2.8%減少したものの、札幌市は1.2%増で札幌圏への人口集中が加速しています。

経済規模や文化度で福岡・仙台・札幌・広島が主要都市の上位

さて、9月に発表された森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として人口17万以上の国内の主要138都市(東京23区含む)を対象に総合的にまとめた「日本の都市特性評価2021」によれば、上位11都市は以下の順位でした。2位の福岡市は経済・ビジネスの分野だけではなく、生活・居住面でも高い評価を得たほか、仙台市は研究・開発、文化・交流面で、札幌市は文化・交流のほか、研究・開発などから、それぞれ7位、10位でした。

「日本の都市特性評価2021」ランキング

福岡市、仙台市、札幌市がベスト10にランキングされるなか、広島市は惜しくも11位でした。「札仙広福」と語られることの多い地方圏では抜きんでた四都市ですが、都市によって規模や成長度、格差もみられます。150万人を超える札幌市と福岡市の人口増加率は高く、特に福岡市は国際機能も評価されてグローバル都市化が成長をもたらしています。100万人を超える広島市と仙台市は広島都市圏の人口が減少する一方で仙台都市圏の人口は増加し続けています。

四大都市を個別に見ると、札幌市中心部や札幌駅周辺では超高層タワーマンションやオフィスを中心とした複合ビルの建設が継続的に続いており、同市やJR北海道などが計画する札幌駅に隣接するホテルやオフィス、商業施設からなる高層ビルは2029年秋の全体竣工及び供用開始が予定されているほか、西武百貨店跡地に札幌一高い超高層ビルの建設構想があります。仙台市では、JR仙台駅周辺を中心にして依然としてオフィス需要が活発です。

広島市内はJR広島駅北側の再開発が進み、今後、建設、開業ラッシュを控え、さらに地元企業の旗艦店や商業施設や本社・本店の建て替えなども増える模様です。福岡市は観光客や買い物客の多いJR博多駅がある博多区と天神のある中央区に集中、博多駅周辺では容積率を緩和する再開発促進策「博多コネクティツド」が動き出し、天神地区では2024年末までの10年間を期限に再開発促進策「天神ビッグバン」が進行中です。

移住希望地としても住みやすさが人気の札・仙・広・福

毎年、ふるさと回帰支援センターが実施する「移住希望地ランキング」では、同センターの相談者やセミナー参加者を対象にしたアンケート調査により都道府県ごとに順位が発表されていますが、2020年はコロナ禍で相談件数が前年比で約22%減少の3万8,320件だったといいます。移住希望先の地域類型として「地方都市」を挙げる割合が68.5%と根強い人気がありました。「札仙広福」の4都市が含まれる道県の近年のランキングの推移は以下の通りです。

移住希望地ランキングの推移

特に広島市を抱えた広島県は、2018年の6位から2019年に2位へ急上昇しました。瀬戸内ライフや新しい働き方、カープ移住、食をテーマにした移住相談会を開催するなど広島の資源や魅力を再確認しながら多様な暮らし方の提案、発信を行って来場者を増やし、20歳代以下でトップになったほか、全ての世代で5位以内に入り、幅広い年代へのアプローチが効果を上げているものとみられています。

一方で、全国のビジネスパーソンを対象に「住みやすさ」について8分野で調査した日経BP総合研究所の「住みよい街2020」の都道府県庁所在地別ランキングでは、札幌市は「街の活力」分野の評価が高く、1位でした。仙台市は3位、広島市は15位、福岡市は2位で、広島市を除く3市がトップ3を占めています。また、福岡市はUJIターン別移住希望地ランキング(2017年)において、Uターン3位、Jターン2位、Iターン6位と上位を獲得しています。

札幌市は駅周辺や中心部にもにぎわいが生じ、産業人材の育成や観光施策など経済の活性化や世界都市としての魅力づくりなどに積極的に取り組んでいますし、仙台市は東日本大震災の経験と教訓を糧に災害時の安全性でも強みをみせるとともに日々の暮らしに必要な機能がコンパクトにまとまり、子育てにも優しい街として安心できるといえます。

広島市は豊かな自然にあふれ、子育て・教育環境にも熱心な上に生活環境にも恵まれ、暮らしやすい街としても評価がありますし、アジアのリーダー都市を目指す福岡市は、経済やビジネスの中心地で、国内有数の住みやすい街として知られているほか、活力が満ち溢れ、人やビジネスを惹きつけ、住民は多様性に対する寛容度が非常に高いものがあります。

コロナ禍で都市部では、テレワークが進み、若い世代を中心に地方都市への移住に関心が高まりをみせていますが、特に都市機能やアクセス交通手段を備えているばかりか、自然にも恵まれている代表的な地方都市が、「札・仙・広・福」の四大都市です。地方都市においては、人口減少や高齢化が進むなかにあって、移住者誘致や起業誘致などの都市間競争が加速していますが、四大都市は若い世代にとっては、子育て環境にも恵まれており、関心度も高いと思われます。

札仙広福の2021年度の移住関連事業

前編では、四大都市の人口移動や魅力度について触れましたが、次回の後編(11月掲載)では、コロナ禍で全国的に基準地価が下落する逆風下にあって、堅調な「札・仙・広・福」の住宅地や商業地などの地価のほか、各都市の主要駅周辺や中心部で進む再開発の進捗、企業誘致やスタートアップ支援の現状などを中心とした地域経済について触れたいと思います。

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索