「札・仙・広・福」にみる人口移動と 地域経済の現在地(後編)
亀和田 俊明
2021/10/29 (金) - 18:00

9月21日に国土交通省から発表された2021年の基準地価は、コロナ禍で経済が停滞するなか、住宅地や商業地など全用途の全国平均が対前年比で0.4%減となり、2年連続で下落でした。一方で、札幌、仙台、広島、福岡の中核四市は、いずれの用途でも上昇をみせていますが、現在、四市が中心部で再開発を進めていることも要因でしょう。今回は「札・仙・広・福」という代表的な地方の拠点都市を軸に人口移動と地域経済、地方創生について触れる後編です。

上昇率は縮小も札・仙・広・福の公示地価は上昇を継続

さて、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた我が国ですが、3月に国土交通省から発表された公示地価(2021年1月1日時点)は、全用途平均で2015年以来6年ぶりの下落に転じました。用途別では住宅地が5年ぶりに、商業地は7年ぶりに下落へ。四市を除く地方圏も商業地は4年ぶり、住宅地は3年ぶりに下落。地方の拠点四市(札幌、仙台、広島、福岡)は、全用途、住宅地、商業地のいずれも上昇率は縮小したものの、上昇を継続しました。 

2021年の公示地価の変動率

全国平均の商業地は0.8%減、住宅地は0.4減と下落に転じました。全体的に弱含みとなっていますが、地価動向の変化の程度は用途や地域によっても異なります。昨年からの変化としては用途別では商業地が住宅地より大きく、地域別では三大都市圏が地方圏より大きく、大阪圏の商業地が最も大きな変化をみせました。住宅地では、地方四市をはじめ地方圏の主要都市で上昇の継続が見られるなど、昨年からの変動率の変化は比較的小さいものがあります。

今回の地価下落の背景には、商業地においては、コロナ禍による飲食店を中心した休業や営業自粛、訪日外国人旅行者の減少が長引くことによる店舗やホテルの需要減退、先行き不透明感から需要者が価格に慎重な態度となったことなどを背景に全体に需要は弱含みになったとみられています。特に国内外の来訪者の増加による店舗やホテル需要でこれまで上昇してきた地域や飲食店が集積する地域では比較的大きな下落に。

そして、下表のように「札仙広福」の地方四市で、住宅地が2.7%、商業地が3.1%、といずれも三大都市圏の数値を上回っています。商業施設、オフィス開発など主要駅周辺や中心部での再開発が活発化し、全用途で2.9%の伸びでした。中でも福岡市は、前年に比べ減少しているものの、商業地で6.6%と都道府県庁所在地で1位、住宅地は札幌市の4.3%に次いで3.3%で2位と堅調でした。ちなみに、商業地では札幌市も2.9%、仙台市も2.8%と上昇。

2021年の札仙広福の変動率

札・仙・広・福の主要駅や市中心部は再開発で建設ラッシュ

四市を個別に見ると、札幌市の商業地は前年比2.9%の8年連続で上昇。市中心部や札幌駅周辺では、2031年春の北海道新幹線の札幌延伸に向け、再開発事業が継続的に続いており、同市やJR北海道などが計画するJR札幌駅に隣接するホテルやオフィス、商業施設からなる札幌最高層の超高層複合施設は2029年秋の完成が予定されているほか、西武百貨店跡地にはヨドバシカメラホールディングスの超高層ビルが2030年度の完成予定です。

東北では宮城県の上昇率が全国2位でしたが、仙台市の商業地はコロナ禍で飲食店などを中心に需要が激減したものの、JR仙台駅周辺を中心に依然としてオフィス需要が手堅く推移し、2.8%の上昇でした。現在、同市では全域において商業施設ばかりでなく、教育・医療・文化などの新しい開発プロジェクトが進んでいますが、2030年までの長期計画第1弾として、老朽建築物の建替えを進める「せんだい都心再構築プロジェクト」も始動しています。

広島市は四市の中では唯一、商業地が0.4%の下落でマイナスに転じました。同市中心部のオフィス街や飲食店が集まる繁華街などで地価が下がりました。同市では、2023年4月に広島大学の法学部が東千田キャンパスに移転するのをはじめ、サンフレッチェ広島の本拠地となる新サッカースタジアムの建設計画が進められているほか、JR広島駅の再開発や市中心部の八丁堀再開発、タワーマンションなどマンションも開発ラッシュの状況です。

新型コロナウイルス感染症の影響で昨年から上昇幅は縮小したものの、商業地では6.6%と最も上昇した福岡市は、全国ベスト10のうち8地点が同市内。現在、天神地区では再開発構想「天神ビッグバン(BB)」が進行中ですが、10月4日には第1号プロジェクトとして5棟のビルを解体した跡地に「天神ビジネスセンター」が竣工し、来春に商業施設が開業予定。また、博多駅周辺では容積率を緩和する再開発促進策「博多コネクティツド」も動き出しています。

今回、コロナ禍でも都道府県庁所在地の中では堅調でした地方の拠点四市。下表にも示したように、各都市いずれも主要駅周辺や市中心部等で再開発事業により商業施設やホテルなどの建設が進められていることも要因といえるでしょう。特に地域圏における大都市なだけに古くからの建造物も多く残されているためにビルの老朽化が心配されていました。10年間で民間ビル20棟の建て替えを計画する福岡市の「博多コネクティツド」などは、その代表例といえます。

「札仙広福」の主な再開発事業

四市は新産業の育成・新事業創出へスタートアップ支援

道内や県内で人口が集中する四市の経済規模をみると、事業所数並びに従業員数は下表の通リですが、札幌市は全国に比べ製造業などの2次産業の割合が低く、3次産業が中心。仙台市も3次産業が約9割、「卸売業・小売業」「宿泊業・飲食サービス業」の割合が大きく、福岡市も3次産業が約9割を占め、「卸売・小売業」「専門・科学技術、業務支援サービス業」の割合が大きいものです。四市の中では広島市が3次産業の割合が最も低く約8割です。

「札仙広福」の事業所数・従業員数

以前は、大企業などの支店が多く置かれていたことから『支店都市』とも呼ばれていた「札仙広福」。都市の成長において市民生活を支える産業の発展は重要な要素の一つといえますが、企業誘致を強化する一方で、地元企業の育成、成長を促進する支援策、また次代へ牽引する産業の発展に必要不可欠なスタートアップ企業の創出・支援を行う取り組みが四市とも活発化してきています。令和3年度においても下表のように、注力する施策が掲げられています。

令和3年度における「札仙広福」の産業分野の主な施策

四市で人口増加率が高い福岡市は、現在、起業する人たちにとっても行政の支援などを手厚く受けられるメリットの多い土地として創業が活発で、ベンチャー企業、スタートアップには最適な環境といわれ、クリエイターやエンジニアなどの職種の移住者が多い街でもあります。全国でも有数の開業率を誇る同市ですので、スタートアップ企業の増加により建設中の新たなオフィス需要の担い手にもなると期待されてもいるといいます。

企業の新規開業(起業・創業)は、競争とイノベーションを促して地元に雇用創出や経済成長をもたらし、地域の活性化に貢献します。これからの時代、地方都市においてはイノベーションの担い手であるスタートアップ企業は重要な存在であり、今後、国内の他都市とだけではなく、世界で勝てるスタートアップ企業を創出することも必至であるほか、何より人材面では、転出を抑え、移住者を増やすことにもつながるのではないでしょうか。

都市機能や交通アクセス機能を備えているばかりか、自然にも恵まれている代表的な地方都市が、「札・仙・広・福」の四市です。道内や県内からの人口移動も多いほか、首都圏在住者などにも人気の高い地方都市でもありますが、新しい産業の創出、人材育成などの支援においても前述の各自治体の施策のように熱心な都市でもありますので、今後も、「札・仙・広・福」の四市の動きは、地方創生の視点からも注目されます。

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