新たな働き方「ワーケーション」の可能性と現在地
亀和田 俊明
2021/12/14 (火) - 13:00

12月6日に岸田首相の「所信表明演説」が行われ、新型コロナ対応や経済回復に向けた支援などとともに成長戦略が指し示されました。新しい資本主義の主役は地方、という考え方に基づいて「デジタル田園都市国家構想」が掲げられ、デジタルによる地域活性化を進めること、世界最先端のデジタル基盤の上で自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、スマート農業などのサービスを実装としていく政策が列挙されました。今回はデジタルが後押しする地方において認知度と関心が高まりを見せている「ワーケーション」の現状と事例などを交え、今後の可能性について考えてみたいと思います。

「ワーケーション」について最も興味関心が高いZ世代

先日、「2021年日経MJヒット商品番付」(日本経済新聞社)が発表されました。西の横綱は大リーグでMVPを獲得した「大谷翔平」選手でしたが、東の横綱は、1990年代半ば以降に生まれたデジタルネ―ティブ世代の「Z世代」でした。Z世代についての興味深い調査に日経BPコンサルティングのアンケートで「新しい働き方」について聞いたところ、「週休3日制」や「副業・パラレルワーク」などと同様にZ世代は「ワーケーション」においてもY世代以上に関心は高いものがあるなど、新しい働き方はZ世代の方が全般的に関心が高いことが分かりました。

3月に観光庁より発表された「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書によれば、企業における「ワーケーション」の認知度は80.1%と新たな働き方として広く認知されていることが分かりました。類型別にみると「有給休暇を利用しリゾートや観光地の旅行中に一部の時間を利用してテレワークを行う」という休暇型についての認知度が49.1%と高く、続いて「勤務地と異なる場所で職場のメンバーで議論を交わす、時間外は観光や生活を楽しむ」合宿型が35%、サテライトオフィス型が22%、地域課題解決型ワーケーションは21.5%でした。

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一方、従業員からみると「ワーケーション」の認知者は79%でしたが、実施経験者はわずか4%と少数でした。興味関心のある層では他の属性に比べ若年層が多く、小さな子どもがいる家族の割合が高い傾向にあります。年齢が若いほど興味関心が高い「ワーケーション」ですが、「非常に興味がある」(15.7%)、「興味がある」(23.8%)と観光庁の調査でも20代のいわゆるデジタルネーティブ世代の「Z世代」において「ワーケーション」への関心が高いことが分かったほか、認知経路は年代によって媒体が異なるものの、20代はネットニュースでした。

地方でのテレワークやワーケーションの取組が活発化

昨今、ワーケーションに対しての認知度や興味関心が高まるなか、都市部から地方への人や仕事の流れを創出し、地方創生の実現へとつなげるべく、前政権時から地方ではテレワークやワーケーションの誘致に向けた取り組みが活発化しています。令和3年度は観光庁をはじめ環境省、農林水産省などワーケーション事業を促進普及する省もあれば、内閣府や総務省、厚生労働省、国土交通省などはテレワーク環境の整備や普及を推進しています。

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従来の日本の観光スタイルは、GWや夏休み、正月など特定の時期に一斉に休暇取得する形で、宿泊日数なども短いという特徴がありましたが、コロナ禍での社会変化を踏まえ、休暇取得の分散化を進めるため、観光庁の促進事業でもある滞在型の「新たな旅のスタイル」を普及・促進することが必要となっています。観光庁では、ワーケーションやブレジャーの普及に向け、ワーケーションに関心の高い民間企業(送り手)とワーケーション需要に対応した環境整備を行う地域(受け手)を対象としたモデル事業が公募され、40企業と40地域が選定されました。

ワーケーション自治体協議会に1道22県202自治体が参加

2019年11月にテレワークを活用してリゾート地や温泉地、国立公園など通常の勤務地と異なる場所で地域の魅力に触れながら仕事を行うワーケーションを普及・発信する「ワーケーション全国自治体協議会」が設立されました。コロナ禍で2020年に入って新たに参加する自治体が急増し、11月30日現在、1道22県179市町村の202自治体が参加していますが、同協議会が「令和3年度ワーケーション・コレクティブインパクト」を下表の全国8道県で、関連施設の視察や地元事業者との意見交換などを行うツアーを主催しています。

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ワーケーションについては政府が主導して推進していることもあり、ここ数年で補助金を活用して地方では観光地などでインターネット環境の整備やサテライトオフィスの開設が行われてきました。特に昨年来、新型コロナウィルス感染症の拡大により訪日外国人観光客が激減してしまったことで、観光産業を中心に地方経済は大打撃を受けていることから、上記の道県だけでなく、全国津々浦々の市町でモニターツアーなど都心部からワーケーション誘客を推進するためのさまざまな事業や施策が講じられています。

福利厚生の観点から従業員のリフレッシュ効果に期待

さて、わが国の企業におけるワーケーションは、有給休暇取得推進施策の一つとして2017年に日本航空が導入して話題となった後、大手企業やIT企業へと広がってきました。前述のように企業における「ワーケーション」の認知度は8割を超え新たな働き方として広く認知されていますが、企業の「ワーケーション」導入理由は、以下の「心身のリフレッシュによる仕事の品質と効率の向上」と「多様な働き環境の提供」の二つが最も大きいことが分かりました。

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企業にとって導入は国内のリゾート地や観光地、出張先等の休暇先で仕事をするという新たな働き方によって従業員のモチベーションや生産性の向上につながるほか、休暇の取得も容易になり、旅行の機会や家族と過ごす時間が増えることも期待されています。「ワーケーション」を導入することでの企業、従業員、地域、各々の主なメリットは以下のようなものが挙げられますが、働き方改革を推進する企業と柔軟な働き方を求める従業員、そして地域活性化を目指す受け入れ地域にとって「三方良し」を実現するものといえます。

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早くも「ワーケーション」の自治体間競争が生まれていることが危惧されますが、私も数ヵ所で「ワーケーション」を体験するなか、受け入れ地域の自治体では、セキュリティやスピード面が確保されたWi-Fi等の通信環境や施設環境の整備がより一層望まれますし、何より送り手(企業)と受け手(地域)の持続可能な関係づくりが重要です。地域においては、都市部人材の知見や人脈を活用して副業・兼業や現地の企業や個人の支援にもつながることが期待されますので、自らの地域の特徴が何かを考えるとともに地域の魅力や発信も重視されるでしょう。

コロナ禍でのテレワークの普及に伴って通常の勤務地から離れ、リゾート地などで日常の仕事を継続する「ワーケーション」実施者が増えていますが、地方創生の観点からも人口減少に悩む地域への訪問や滞在など多様な形で地域との関わりを持つ都市部人材が増えることで、地域経済への貢献のみならず関係人口の創出がますます期待されます。利用者(従業員)、企業や自治体などのステークホルダーとともに、欠かすことのできない交通機関をはじめ、宿泊施設、さらに関連するプラットフォームビジネスの企業など民間事業者もの普及・促進に関わってきますので、働く人々の幸福度を高め、企業のイノベーションを生み出し、地域活性化に寄与する「ワーケーション」は決して一過性に終わることがなく、持続的な取り組みが望まれます。

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