「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」では、「ヒューマン」や「グリーン」とともに地方創生に資するデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する「デジタル」の「3つの視点」が重点に据えられました。コロナ禍で社会や地域におけるデジタル化の遅れが指摘されましたが、これを契機に国と自治体が協力しながら行政サービスのデジタル化に対応していく機運が高まり、地域経済の再生に向けた取り組みが進むものと考えられます。今回はデジタルによる地方創生と「自治体DX」について考えてみたいと思います。
デジタルインフラ整備によるデジタル田園都市国家構想
「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めます」という11月の岸田文雄新総理就任時の所信表明を受け、9月に発足したデジタル庁では三つの柱となる「地方におけるデジタルインフラの整備などによる『デジタル田園都市国家構想』の実現」、「データ戦略の推進」、「行政のデジタル化の強力な推進」に重点的に取り組むといいます。下図が第1回の「デジタル田園都市国家構想実現会議」で示された取組イメージです。
(出典:「デジタル田園都市国家構想実現会議」配布資料より)
同図では、「Sustainability(持続可能な環境・社会・経済)」と「Well-being(心ゆたかな暮らし)」を両軸に、「Super City」「MaaS」「地域経済循環型」「防災レジリエンス」「スマートヘルスケア」「スマートホーム」の6項目が並んでおり、デジタル田園都市国家構想の新しいデジタル社会を支える基盤が、「輝く暮らし」「知の交流」「持続可能な地域産業」と描かれています。
政府は12月24日にデジタル社会実現のための政策の道筋を示した「重点計画」を決定しました。6月にまとめられた「重点計画案」に行政サービスや暮らし、規制改革、産業など具体的な施策の達成時期の工程表などが加えられています。目的として「デジタル社会の実現に向けて政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策」が明記されていますが、「重点計画」は9月のデジタル庁発足後、初めて策定されたものです。
また、12月22日に政府は官民で共通の指針となる「デジタル原則」を策定しています。対面や書面、目視などを義務づける行政手続き等を原則廃止してデジタル対応できるようにするなど法令約5000件について3年以内に点検するとしています。来春までに規制や制度など具体的な法整備に関する考え方を「一括見直しプラン」として取りまとめる方針です。なお、「デジタル田園都市国家構想」の一環で、地方のデータセンター拠点を5年程度で十数ヵ所整備するとしています。
「健康・医療・介護」「教育」や「防災」など8分野でデジタル化推進
2020年12月25日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、デジタル社会の目指すビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を掲げ、このような社会を目指すことは「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を進めることに繋がる、としています。そこで、提示された「デジタル社会を形成するための10原則」は以下の通りです。
デジタル庁は、「令和4年度予算(案)」に総額4720億円を計上する方針といいますが、暮らしに密着した健康や医療など「準公共分野」のデジタル化推進経費は新規に約11億円を計上し、「デジタル田園都市国家構想」の実現に寄与する考えです。準公共分野について、社会課題の抽出や実現すべきサービスの設定、必要なデータ標準の策定やデータ取り扱いルール・システムの整備、運用責任者の特定やビジネスモデルの具体化などデジタル化やデータ連携に向けた取り組みを一気通貫で支援するためのプログラム創設についても検討。
地方創生に不可欠なデジタルトランスフォーメーション
現在、社会のあらゆる局面で用いられるDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速していますが、行政分野も同様で「誰一人取り残さない、人に優しい」デジタル社会の実現には地域住民に身近な市区町村の取り組みが鍵となります。2020年12月に「自治体DX推進計画」が発表され、2021年1月から2026年3月までを同計画の対象期間としましたが、自治体にとっても地方創生にとっても「DX」は欠かせないものと捉えられています。
同計画では、自治体が取り組むべき内容を以下の6項目に分類し、重点取組事項としています。国もこれまでより踏み込んだ支援策を掲げており、今後のスケジュールはタイトですが、多くの業務に関わる取り組みを限られた期間で行うことになるため、早々に推進体制を構築して計画的に実践することが望まれます。そのためには、組織体制の整備をはじめ、デジタル人材の確保・育成、計画的な取り組み、都道府県による市区町村の支援が必要となります。
なお、総務省が実施した「デジタル専門人材の確保に係るアンケート」(2020年)によれば、DX推進に係る課題としては、都道府県も市区町村いずれもが「財源の確保」を挙げる団体が最も多く、「情報主管課職員の確保」、「デジタルに係る専門知識を有する外部人材の確保」が続きました。デジタル専門人材の確保のための最大の課題としては、各団体で適切な人材が発見できないことが挙げられています。
【DX推進に係る課題】
(出典:総務省「デジタル専門人材の確保に係るアンケート」より)
オープンデータの利活用により地域課題の解決へ
また、自治体を取り巻く環境や動向が大きく変化する今、未来技術の恩恵を地方創生につなげる一歩が、情報のデータ化とオープンデータの利活用です。オープンデータの利活用により、地域内だけでなく、地域内外の人材・知恵も地方創生に活用することが可能になります。業務効率化にとどまらず、地域が主体的に地域課題解決に取り組む官民一体の地方創生が可能になるでしょう。
「官民データ法」に基づき、中央省庁及び全都道府県では、2020年度までに官民データ活用推進計画の策定が義務づけられ(市町村は努力義務)、オープンデータの推進や分野横断的なデータ流通の促進のための規格整備等を推進することが求められています。内閣官房IT総合戦略室の調査によれば、都道府県は2019年7月時点で22団体、市区町村は2020年3月時点で90団体が策定済みとなっています。
【地方自治体における官民データ活用推進計画の策定状況】
(出典:内閣官房IT総合戦略室「地方自治体の官民データ活用推進計画の策定状況等について」より)
まだまだ取り組む団体が少ない現状ですが、オープンデータに取り組むに当たっての課題や問題点としては、DX推進に係る課題と同様に「オープンデータを担当する人的リソースがない」という回答が最も多いようです。デジタル人材の確保と育成は急務といえるでしょう。自治体の保有するシステムやデータの標準化に関する議論が進むほか、行政デジタル化推進の核となる「デジタル庁」が発足し、自治体DXに向けた動きはより一層、加速することが見込まれます。
自治体においてどのように地域DXを推進し、デジタルガバメントを実現させるかは最重要課題の一つであり、早急に取り組んでいかなければなりませんが、国と地方が一緒になってデジタル化に取り組む必要があるでしょう。12月4日に岸田首相はICTオフィスの視察などのために福島県の会津若松市を訪れましたが、同市はオープンデータの先駆例としても知られています。改めて、同市も含め全国の自治体のさまざまな事例なども交えて「地域DX」について触れる機会があればと思います。