地方移住や転職の推進に期待される「レビキャリ」
亀和田 俊明
2022/01/24 (月) - 18:00

先日、パナソニックが希望する社員が週休3日を選べる「選択的週休3日制」を導入する方針を明らかにしました。対象となる社員や給与体系、開始時期などは各事業会社での検討や労働組合との協議を経て決まるとしていますが、副業や自己学習、地域ボランティアなど社外での取り組みを推奨し、ワークライフバランスの実現を図るといいます。兼業・副業が解禁され、週休3日制を導入する大企業が増えることで、地方で活躍できる都市部の大企業人材のステージが広がりを見せていますが、今回は「地域企業経営人材マッチング促進事業」と「REVICareerレビキャリ」の狙いと概要について触れてみたいと思います。

都市部から地方への新たなひとやしごとの流れの創出

新型コロナウイルス感染症は地域経済や住民生活に大きな影響を及ぼしていますが、一方で地方移住への関心の高まりとともにテレワークを機に人の流れに変化の兆しがみられるなど、国民の意識や行動も変化しています。こうした変化を踏まえ、2021年6月に発表された「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」では、「都会から地方への新たなひとやしごとの流れを生み出す」ことを目標としていますし、「デジタルや「グリーン」と並ぶ地方創生の3つの視点のひとつ「ヒューマン」においても地方へのひとの流れの創出と人材支援が掲げられています。

みらいワークスが実施した2021年度首都圏大企業管理職に対する「地方への就業意識調査」では、地方への転職に46.7%が「興味がある」、地方の中小企業での副業にも56.8%が「興味がある」と回答しているほか、地方での副業を経験後に、その地域への移住・転職につながる可能性がある人は66.9%だったといいます。下図のように地方企業で働くことには、「45~54歳」世代の興味関心が最も高く55.2%で、前年より2.1%増加するなど首都圏の大企業管理職にも地方副業・転職への関心が高まっています。

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(出典:みらいワークス「地方への就業意識調査」)

そのような中、金融庁では令和2年度より「地域企業経営人材マッチング促進事業」を開始しており、地域金融機関の人材仲介機能を強化し、転籍や兼業・副業、出向といったさまざまな形を通じて大企業から中堅・中小企業(ベンチャー企業含む)へのひとの流れを創出し、大企業で経験を積まれた社員の各地域における活躍を後押ししています。中堅クラスの兼業・副業、出向では将来の幹部人材として外部で経営に関わる貴重な経験になるでしょうし、シニア世代の転籍では人生100年時代に必要性の高まるセカンドキャリアの獲得機会につながることでしょう。

人材リストを整備し地域金融機関の人材マッチングを推進

同事業は大企業から地域の中堅・中小企業への人の流れを創出し、地域企業の経営人材の確保を支援することで企業の経営革新や生産性向上を図り、地域経済を活性化することが目的です。そのために地域経済活性化支援機構(REVIC)に人材リストを整備し、地域金融機関等による人材マッチングを推進することになりますが、令和2年度第三次補正予算では、経営人材を新たに採用した地域企業への補助など、約30.6億円、令和3年度補正予算では、補助対象を地域企業での兼業・副業、出向にも拡充し約18.4億円を計上しています。

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(出典:地域経済活性化支援機構のHPより)

地域経済活性化支援機構(REVIC)に大企業に就業し知見を深めた人材を地域金融機関が仲介役となって地域の中堅・中小企業へのマッチングを行うための情報登録システム(通称:REVICareerレビキャリ)が整備され、2021年10月から本格稼働しています。このスキームを活用して経営人材を採用した地域の中堅・中小企業に対しては、地域企業経営人材確保支援事業給付金を給付。更に、大企業人材には地域の実情や中小企業の実態を事前に理解してもらうため研修会やワークショップの提供や先行例などの広報が実施されます。

地域の中堅・中小企業に対して支給される給付金は、都市部の大企業人材と地域企業との間に存在する年収ギャップ等を一定程度解消し、地域企業による経営人材確保を進めるため、人材リストを活用して地域企業が経営人材の要件(年収600万円以上)を満たす人材を採用した場合には、地域企業に対して採用対象者に支払う年収の3割、2年分に相当する金額を上限500万円まで一時金として補助されますが、2月1日に制度改正が予定されており、改正後は兼業・副業、出向も補助対象となります。その際、転籍の場合は従前どおりですが、兼業・副業、出向は、レビキャリを通じて採用した地域企業が支払う年収の3割、雇用(出向)期間(上限2年間)に相当する金額は上限200万円までで、年収要件は設定されません。人の流れが一定程度創出されるまで継続して実施されますが、今後、追加の予算措置が認められれば、事業を継続・拡充していく意向といいます。

登録者には地域での活躍を叶えるワークショップ等の提供

「REVICareerレビキャリ」の対象となる大企業は資本金が10億円以上或いは従業員数が2000人を超える法人で、子会社に在籍する社員も当該大企業経由で人材リストに登録することは可能です。同スキームの参加に当たり、登録する大企業や社員には費用負担は生じませんし、研修やワークショップの受講費用もかかりません。なお、登録者の役職や年齢についても基準や制限は設けられていませんので、大企業に勤務され、地域の中堅・中小企業での兼業・副業に関心を持つ方には登録しやすい環境が整っているといえます。

また、地域企業で働くに当たって、経営人材として必要なスキルやマインドなどを懸念される登録者にはマインドセット・スキルセットを醸成するため、希望に応じて下表のような研修やワークショップが提供されています。登録者は、さまざまなバックグラウンド、ニーズ等に応じてプログラムの選択ができ、大企業や登録者個人それぞれ費用負担なく受講が可能です。なお、人事部担当者の体験利用も可能といいます。

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コロナ禍で地方経済は大きな影響を受けていますが、日本経済を支えている第二創業期を迎える地域の中小企業や成長の踊り場を迎えている地方の中堅・中小企業では、組織内に足りないスキルや経験を持った都市部の大企業人材の力を必要としています。地方には都市部で培った経験やスキルが活きる場があり、副業や出向・転籍といったさまざまな形を通じて経営に近い立場で仕事を行うことで業績が伸び、企業自体が様変わりするような地域企業は数多くあると思われるほか、企業や産業、地域の発展につながることが期待されています。

冒頭で紹介したように首都圏大企業管理職は、地方への転職や地方の中小企業での副業に関心を持っています。さまざまな課題を抱える地域にとっては、知識やノウハウを持ったそうした都市部の大企業人材の関わりが一層重要といえるでしょうし、大企業人材にとっても自らの持つ発想や技術を活用して地域の価値を高め、新たな価値を創造できる可能性は、地方の中小企業での副業において副収入以外に興味がある自身の「スキルアップ・成長」、そして「やりがい」にもつながることでしょう。「人材マッチングの仲介役」といえる地域金融機関が全国に広がりを見せるなかで、地域の中堅・中小企業と都市部の大企業人材のマッチングの動きは地方創生の視点でも注目されます。次回は地域金融機関を介しての求人マッチングの取り組みについて触れます。

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