新型コロナウイルス感染症の影響が長期化するなか、テレワークが普及しましたが、企業においては長い間進んでいなかった働き方は大きく変化し、テレワーク移住する人や転職をする人も増えて人材の流動化が進んでいます。日本でもキャリアアップを目指して前向きに転職を考える傾向が強まってきており、高度経済成長期にはいい仕組みだった終身雇用は崩れつつあります。今回は「レビキャリ」において、地域の中堅・中小企業での活躍が期待される都市部大企業人材のネクストキャリアの選択肢について触れてみたいと思います。
柔軟で新しい働き方の広がりで地方転職希望者も増加
昨今の兼業・副業の解禁や週休3日制度を導入する大企業が増えることで、キャリアやスキルなどを発揮できるステージが広がり、地方で働くことへの関心も高まっています。みらいワークスが実施した2021年度首都圏大企業管理職に対する「地方への就業意識調査」でも地方の中堅中小企業からの十分に魅力的なオファーには「すぐにでも転職可能」と答えた方が12.8%で、10年以内にという管理職は46.7%に上ったことが分かりました。
また、地方の中小企業へ経営幹部候補としての転職を考えた際、最も重視するのは、「企業の魅力」で88.6%、次いで「給与条件の魅力」が81.3%、「そのポジション(裁量)・ミッションの魅力」が75.4%で続きました。オファーがあった際に、どのくらいの給与水準であれば転職の可能性があるかという問いには、「現状の収入より減少しても転職の可能性がある」と答えた人は43.4%で、2020年より0.7%増加していました。
日本生産性本部の「働く人の意識調査」でもコロナ収束後のテレワークの継続については、意欲的な割合は74.1%と仕事への向き合い方など意識に大きな変化をもたらせています。テレワークをはじめとした柔軟で新しい働き方の広がりを背景に、企業で働く人にも企業への帰属意識、働き方や人生への価値観の変化をもたらしています。特に地方の中堅・中小企業への転職となると収入の減少など、移住先での生活にも支障を来すとして否定的に捉えられていましたが、大企業において地方圏での就労や転職を前向きに捉える人材も増えていますので、そうした人材にとっては、地域の中堅・中小企業とのマッチングを行うための情報登録システム「レビキャリ」の活用が期待されています。
問われる「人生100年時代」の新しい働き方や学び方
我が国では「働き方」も時代を経て大きく変化を遂げました。昭和の時代は「終身雇用」や「年功序列」といった人材の囲い込みが進んだ時代でしたが、パブルの崩壊を受け、高度成長モデルを解消し、平成の時代には「転職市場の形成」や「選抜制度・役職定年」の人材の解放が進んだ時代へ。やがて、人口減少時代の本格的到来による社会変革を迎え、「地方転職」や「副業・兼業」など令和では人材の流動化が進む時代へ移っています。
寿命が延びて「人生100年時代」といわれるなか、新しい在り方を模索する時代でもあります。2016年に邦訳版が刊行された『LIFE SHIFT』(L・グラットン、A・スコット著))以来、「人生100年時代」という言葉が社会に広がりましたが、新しい人生戦略を提示した同書により今後、変化を経験する機会が増えるため、選択肢を持っておくことの価値、そして手持ちのスキルだけでは生き残れないという自らの働き方や学び方などが問われました。
先般、「Future Forum」が欧米日などの知識労働者1万人を対象にまとめた調査で、世界中でテレワークとオフィスを組み合わせたハイブリッドワークの導入率が58%と主流になっていることがわかりました。対象者の68%が望ましい職場環境として挙げていますが、日本でも69%が最も理想的な働き方と挙げています。働き方の柔軟性を求める声は高まっており、78%が勤務場所の柔軟性、95%が時間の柔軟性を求めています。そして、仕事の柔軟性が足りないと感じる人の72%が転職を考えているという、新たな働き方を考えさせる結果でした。
さて、新型コロナ感染症は雇用そのものに多大な影響を与えていますが、働く環境、仕事への向き合い方やワークライフバランス、キャリア観など人の意識にも大きな変化を生じさせており、ポストコロナにおける働き方が今、関心を集めています。大企業では定年まで働き続けたいと考える一方で、単一キャリアではなく、兼業・副業や起業など、複線型のキャリアに興味を持つ人も増え、選択肢も広がってきています。政府の「骨太の方針」にも盛り込まれ、大企業での導入が増えてきている週休3日制度もその一つです。大企業側のマインドも、週休3日制度を導入するなどして、社員の社外(地域含む)への挑戦や能力の発揮、副業を後押しする方向に変わってきています。
また、多くの大企業が副業を認めるに至っています。コンプライアンス上の問題から副業先の制限、就業時間外や休日など本業に差し障りのないの範囲での活動、事前の届出制など条件が付けられるケースが多いものの、副業人のスキルアップや本業への好影響などを期待するところもみられ、多様な働き方を認めることで企業の魅力が高まることにもつながるでしょう。
週休3日などの柔軟な働き方の広がりで、個人一人一人においても、兼業・副業、出向を通じた(地域企業を含む)社外への挑戦は、自らのキャリアパスを考えるうえで非常に有益です。まさに今、その流れを人材マッチングで後押しすべく、政府も取り組んでいるのが「レビキャリ」です。対象となる大企業は資本金が10億円以上或いは従業員数が2000人を超える法人ですが、銀行をはじめ商社や電機、自動車、食品、化学、鉄道、旅行、エネルギー、不動産など既に多くの大企業が賛同し、「レビキャリ」への企業登録を進めています。
自発的なキャリアデザインとネクストキャリアを支援
デジタル化や少子高齢化の加速等、変化の激しい今の時代、社員が自らのキャリアを積極的に、能動的にデザインしていく必要があります。「地方への新しい人の流れ」の創出に向けた政策の一つである「レビキャリ」は、地方をステージとした都市部大企業のビジネスパーソンの自発的なキャリアデザインとネクストキャリアを支援するプラットフォームです。副業や出向では、自分が今までに関わることのなかったつながり、自身の専門性の再発見や職種を超えたスキルの獲得、そして、組織や事業の全体観の獲得ができるでしょう。
(資料・金融庁資料より)
「レビキャリ」には、大企業人材への研修・ワークショップの提供と経営人材を新たに採用した地域企業への給付金という大きな特徴があります。大企業人材が地域企業の経営人材として求められるスキルやマインドなどのキャリア支援研修プログラムを受講でき、地域で活躍するためのリカレント教育は重要です。転籍だけでなく、副業や出向にも適用されるので、地方で働くことに関心を持つ人には登録しやすい仕組みといえます。
「人生100年時代」に未来や地域、自分にとってのウェルビーイングをひとりひとりが主体的に選択しなければならない時代を迎えています。人生100年時代に向けて、個々人の自律的なキャリア形成がますます必要とされるなか、兼業・副業や出向により地域企業に貢献したい、自身のスキルアップを図りたい方、さらにネクストキャリアのフィールドとして地方を志向するシニア世代にとって「レビキャリ」の活用は、人生100年時代の価値ある選択肢といえるのではないでしょうか。次回は、「地域企業経営人材マッチング促進事業」について金融庁の伊藤豊総括審議官のインタビューを掲載させていただきます。