深い緑色が印象的な家庭常備薬「メンターム」で知られる株式会社近江兄弟社は、倒産を乗り越え見事に再建されました。滋賀県に拠点を置きながらも、これほどまでに国民的な家庭常備薬を広めることができたのは、企業努力はもちろんのこと、創業者ヴォ―リーズから受け継いだ「社会奉仕の精神」が根付いていたからではないでしょうか。
米国から商品や技術を仕入れ、日本で発信するグローカル企業のパイオニアが大切にしてきたこと、会社としての姿勢について、引き続き株式会社近江兄弟社 代表取締役社長 山村徹氏にお話をうかがいます。
再建のキーポイントは人と人のつながり
倒産を経験しながらも、アイデア力と行動力で見事再建を果たした近江兄弟社。再建のキーポイントは「人間同士のつながり」だったといいます。
「モノの売り方と、人のつながりが大切だと思っています。単に小売店様に行っても、ぽんぽんと商談は進みません。地道に卸問屋様と良い関係を作りつつ、小売店様と商談をします。当然1回では済みませんので、何回も何回もお会いして、人と人とのつながりで最終的に良い関係を構築させていただく。この商売スタイルは今も変わっていません。たとえ海外のお取引先様でも、やはり人間同士の信頼関係が最も大切です。誠実さがお客様から評価いただくポイントだと思います。」
商売に必要なのは、相手の信頼を得る誠実さ
「良い素材をみつけて、情報とともに遠路まで運んで売買し、そこで仕入れてきた都会の息吹を滋賀に持ってくる。そういった近江商人の質素・倹約・勤勉、そして誠実な心意気を、ヴォーリズはナンセンスとは感じなかったのでしょう。」と山村氏。
「私たちの中には、〝商売に必要なのは才気でも経験でもなく、相手の信頼を得る誠実さである〟という先達の教えが、今も大きなテーマとして息づいているのです。」
近江八幡の街には、ヴォーリズ建築や関連施設が見事に融合している
困っている人の悩みを解決する商品を手頃な価格で提供する
近江兄弟社は、もともとメンタームからスタートし、リップクリームに派生して、日やけ止めやハンドクリームなどの販売に発展していきました。そこには、「近江兄弟社らしい、他にはない、本当に困っている方の肌に寄り添う商品づくり」というコンセプトがあります。
「大手企業様と真っ向勝負してもなかなか勝ち目はありません。ところが、お客様の中には、日やけ止めを使いたいけれども敏感肌で使えないという方も多いのです。アルコールが入っていないもの。防腐剤不使用のもの…。こだわり商品は一般的には価格設定が高いのですが、できる限りお求めやすい価格で消費者の皆様に届けていきたいのです。」
もちろん、こうしたお客様のニーズを採り入れるための努力も怠っていません。「私自身、今でもお店に入っては、どんなものがあるのか、どんな売り方があるのか、どんな色が流行っているのだとかを見ています。そういったものは常日頃から見ておかないといけません。売り場は生き物。常に変化していますから。容器や包装素材のプラスチック問題は、いずれ大きな流れとして必ず来ると思っています。社会的観点からも、資源の量をどう変えていくべきなのかについて考えています。」
また、営業面でも有益な情報を発信していきたいと、山村氏はいいます。「我々は大手企業さんに敵わないかも知れません。しかし、1つの市場を分析するノウハウは持っています。“こういう商品だったら機能補完できますよ”“市場シェアが少なくても、消費者志向の変化に照らすとやはり品揃えが必要ですよ”など、有益な情報も同時に発信していくことが、重要だと思っています。」
社会奉仕の風土の浸透
ヴォーリズが来日にして113年。「社会への奉仕」を基盤とした理想は、近江兄弟社の社風に深く浸透し、生き続けています。
例えば、岩原元社長が始めた、社会の皆様に助けていただき、再建できたことに感謝するニコニコ運動という献金活動、嬉しいことや楽しいことがあった時の社員による「おすそ分け(献金)」、年に2回のチャリティバザー、新しい出会いに感謝して、お客様に手渡す名刺は、1枚につき10円が会社から献金されるなど様々です。
集めた献金は、災害復興や地域の福祉活動に寄附したり、家族と暮らせない子供たちへの自立支援金、ラオスやタイの山奥への小学校建設に使用されています。
ニコニコチャリティバザーの様子
ラオス小学校訪問時の写真
会社の存在意義を語り継いでいく
近江兄弟社のある近江八幡は、美しい空が広がり、夏は湖畔でバーベキュー、冬は近くのスキー場で、楽しみを堪能できます。東京へも朝一の便に乗れば9時には到着でき、大阪までは新快速で約1時間。仕事と家庭の両立といった観点からも、非常に魅力的な土地といえるでしょう。
近江商人の商家が続く町並み。歴史的建築物群保存地区に指定されており、当時の雰囲気を味わうことができる
「営業時代はずっと埼玉に住んでいましたが、こちらに来てもそんなに変わりませんし、むしろ時間に余裕があります。朝夕の通勤時間に苦労があまりないので、自分の時間が取れるのです。何よりも満員電車に乗らなくてすむのは、嬉しいですね。」
「ヴォーリズの遺志を継ぎ、近江兄弟社は社会奉仕のためにあるという存在意義を語り継いでいくことが、重大な自分の役割」だと語る山村氏。
より喜んで使っていただける商品開発を探求し、人と人とのつながりとともに、信頼される誠実な企業姿勢を継承していきたいといいます。
「変えてはいけないことと、変えなければならないこと。やるべきことと、やってはいけないことを、社員たちに少しずつ分かってもらえるような会社づくりを進めていければなと思っています。」
活発なアジア市場で、自分らしく誠実に歩み続けてきた近江兄弟社は、これからも人と人のつながりを大切に、社会へ貢献し続けていくことでしょう。