注目される再開発進む地方拠点都市「札仙広福」の現在
亀和田 俊明
2022/05/10 (火) - 15:00

東京都の3月1日時点での推計人口は1397万2039人で、前月比で8446人減り、10ヵ月連続で減少しました。未だ終息に至らない新型コロナウイルス感染症の影響により、東京から他道府県へ人口が流失する傾向が続いていますが、2020年は東京23区外や首都圏への転出者が多かったものの、2021年は四国や九州など西日本への転出が増えています。リモートワークの普及に伴って地方移住への関心が高まるなか、地方経済の拠点都市で、移住先としても人気が高い「札仙広福」の人口移動と地価、地域経済、再開発などの現在について触れます。

札幌・仙台・福岡は道県内で最も転入超過数の多い都市

地域間の人口移動状況を知ることができる総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(2022年)によれば、2021年の都道府県別の転入者数は、東京都への転入者数が42万167人で最も多く、次いで神奈川県が23万6157人、埼玉県、大阪府、千葉県、愛知県、福岡県の5府県が10万人台で続き、7都府県で56.4%を占めています。逆に転出者数が多いのは東京都を筆頭に神奈川県、大阪府、埼玉県、千葉県、愛知県が続き、上位の6都府県で48.9%を占めています。

今回、実に35道府県で転入者数が増加していますが、仙台市を抱える宮城県では117人の転入超過となり、2015年以降初めて転入超過に転じています。前年に比べ転入超過が拡大しているのは、仙台市青葉区(401人)など4市町村です。ちなみに下表のように北海道では札幌市、宮城県では仙台市、福岡県では福岡市が各道県内で最も転入超過の多い市となっており、各地域における四大都市への人口集中が加速していることがわかります。

「札仙広福」の転入者数・転出者数・転入超過数(2021年)

転入超過数(日本人移動者)の多い上位20市町村をみると、四大都市では3位に札幌市(9676人)、5位に福岡市(8578人)、15位に仙台市(3088人)がランクインしています。また、年齢3区分では、0歳~14歳で9位に札幌市(606人)、15歳~64歳で4位に福岡市(8459人)、6位に札幌市(6967人)、11位に仙台市(3219人)が続き、65歳以上は1位に札幌市(2103人)、5位に福岡市(504人)、10位に仙台市(290人)が名を連ねています。

「移住希望地」でも上位に入る北海道・宮城・広島・福岡

毎年、ふるさと回帰支援センターが実施する「移住希望地ランキング」では、同センターの相談者やセミナー参加者を対象にしたアンケート調査により都道府県ごとに順位が発表されていますが、2021年はコロナ禍にもかかわらず相談件数は前年比で約29%増の4万9514件でした。2021年の移住希望先は東京近郊以外の全国にも広がったといいますが、「札仙広福」の四大都市が含まれる当該道県の近年のランキングの推移は以下の通りです。

移住希望地ランキングの推移

広島市を抱える広島県は、セミナー参加者では2020年の2位から2021年は1位へ上昇しました。窓口相談での相談傾向を独自に分析し、県庁自らセミナーを企画し、サイクリングや起業など移住相談者のニーズに即したセミナーをタイムリーに実施することで、セミナー参加者の人気を集めたといいます。また、窓口相談者においては、20歳代以下から60歳代までの世代で7位以内に入り、幅広い年代へのアプローチが効果を上げているものとみられています。

窓口相談で2位に入った福岡市を抱える福岡県は、九州出身者がUターン希望する傾向がみられたといいます。四大都市では唯一、2021年に転出超過となった広島市ですが、今年度は下表のように「定住者受入れのための環境整備」や「若い世代の人材確保」等の移住関連事業に取り組む予定です。四大都市は、都市機能や交通アクセス機能を備えているばかりか、自然にも恵まれている代表的な地方都市ですので、若い世代にも関心が高まっています。

広島市の2022年度の移住関連事業

「札仙広福」の公示地価はいずれも三大都市圏を上回る

新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に緩和する我が国ですが、3月に国土交通省から発表された2022年の公示地価は、住宅地や商業地、工業地を合わせた全用途の全国平均は前年より0.6%上がり、2年ぶりに上昇に転じました。「札仙広福」の四大都市は住宅地が5.8%、商業地が5.7%といずれも三大都市圏の数値を大きく上回っています。商業地では2021年に下落した広島市も上昇に転じていますし、福岡市は9.4%と上昇率が拡大をみせています。

2021年の「札仙広福」の変動率

四大都市を個別にみると、札幌市は住宅地で9.3%と大幅に上昇率が上がっています。同資料によれば中央区の高級住宅地や利便性の高い隣接区では住宅地需要は堅調。周辺部にもマンション並びに戸建て住宅需要の広がりがみられるといいます。仙台市の住宅地は4.4%の上昇で、仙台駅周辺や鉄道駅徒歩圏を中心に住環境が良好な地域や生活利便性の高い地域で需要が旺盛で上昇率を示し、郊外部でも住宅需要が堅調で地価は上昇。

広島市の住宅地は1.4%の上昇となり、市中心部へのアクセスに優れ住環境が良好な平坦地や郊外型大型店舗周辺の生活利便性が高い地域で需要は堅調で地価が上昇しているといいます。福岡市でも住宅地は6.1%の上昇となり、中心部へのアクセスに恵まれた生活利便性の良い地域で需要は堅調であるほか、優良なマンション用地については需要が競合する傾向が見られ、地価が上昇している状況です。

四大都市はオフィス需要堅調で再開発により地価上昇

コロナ禍でも都道府県庁所在地の中では堅調な四大都市の商業地を資料でみると、札幌市は5.8%の上昇。オフィス需要が堅調で空室率の低い状態が続いている上に札幌駅南口ビジネス街周辺に加え、札幌駅北側や北海道新幹線ホーム設置予定の東側の地域などでも再開発計画の進展とともに地価が上昇しています。一方で、同市中心部の繁華街であるすすきの地区などは前年に続いて下落しています。

仙台市の商業地はコロナ禍で国分町地区の繁華街で店舗需要が減退し、地価が下落しているものの、仙台市の商業地はオフィス需要が堅調に推移している上に仙台駅周辺及び東北大学農学部跡地の周辺で引き続き需要が旺盛で4.2%上昇。現在、全域において商業施設ばかりでなく、教育・医療・文化などの新しい開発プロジェクトが進んでおり、2030年までの長期計画第1弾として老朽建築物の建替えを進める「せんだい都心再構築プロジェクト」も始動しています。

広島市の商業地は2.6%の上昇で、広島駅周辺では北口の再開発による拠点性の向上と南口の再開発による発展への期待から需要は堅調で、地価は上昇しています。中心部の商業地では八丁堀や紙屋町及びその周辺では人通りも回復傾向にあり、将来への売上期待感から需要は持ち直しつつあります。同市では新サッカースタジアムの建設計画が進められているほか、今後、地元企業の旗艦店や商業施設や本社・本店の建て替えなども増える模様です。

全国の商業地の上昇率トップ10のうちJR博多駅周辺など7地点が市内だった福岡市の商業地は9.4%と最も上昇しています。現在、天神地区では2024年末までの10年間に再開発促進策「天神ビッグバン」が進められていますが、旧大名小学校跡地活用事業の「福岡大名ガーデンシティ」も今年10月の竣工を予定しています。また、観光客や買い物客の多いJR博多駅周辺では容積率を緩和する再開発促進策「博多コネクティツド」も進行中です。

「札仙広福」の主な再開発事業

新産業の育成・新事業創出やスタートアップ支援に注力

道内や県内で人口が集中する四大都市は、各都市の主要駅周辺や市中心部等で再開発事業により商業施設や高級ホテルなどの建設が進められていることが、地方都市にあっては活況を呈している要因でしょう。特に地域圏における大都市なだけに古くからの建造物が多く残されているためにビルの老朽化が心配されていましたが、福岡市の「博多コネクティツド」などに代表されるように、官民による中心部の大規模再開発が弾みをつけているといえます。

また、以前は、大企業などの支店が多く置かれていたことから『支店都市』とも呼ばれていた「札仙広福」ですが、最近では企業誘致を強化するほか、再開発や投資が活発化しています。一方で、地元企業の育成、成長を促進する支援策、スタートアップ企業の創出・支援を行う取り組みを四大都市とも積極的に行っています。令和4年度においても下表のように、スタートアップの創出支援など産業分野において注力する施策が掲げられています。

「国際金融都市」構想の候補地に手を挙げている福岡市は、資産運用業やフィンテックなど11社の誘致に成功。起業する人たちにとっても行政の支援などを手厚く受けられるメリットの多い土地として創業が活発で、ベンチャー企業、スタートアップに最適な環境といわれますが、スタートアップに投資を呼び込み、イノベーションを創出する戦略を描いており、スタートアップ企業の増加により建設中の新たなオフィス需要の担い手にもなると期待されています。

令和4年度における「札仙広福」の産業分野の主な施策

地方都市においては、「地方に仕事をつくる」、「新しい人の流れをつくる」というミッションがあります。これからの時代、地方都市においてイノベーションの担い手であるスタートアップ企業は重要な存在であり、今後、世界で勝てるグローバルスタートアップ企業を創出することも必至であるほか、何より人材面では他都市への転出を抑え地域内に留めるほか、首都圏等からの移住者を増やすことにもつながるのではないでしょうか。

都市機能をはじめ交通アクセスや自然にも恵まれ、首都圏に比べれば住宅コストも安価な代表的な地方都市が、「札仙広福」ですが、道内や県内からの人口移動が多いのはもちろん、首都圏在住者にも人気の高い地方都市です。新産業の創出や人材育成等の支援においても前述の施策のように熱心な都市ですし、大規模な再開発が数年先まで続いていきますので、今後も「札仙広福」の四大都市の動きは注目されますし、定期的に扱っていきたいテーマといえます。

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