ウィズコロナ時代に移住で考える地方都市の選択
亀和田 俊明
2022/05/19 (木) - 12:00

先般、発表されたパーソル総合研究所の「地方移住に関する実態調査」で、地方移住に関心がある層は、「Iターン型」を希望する割合が56.7%と半数を超えたほか、移住経験者のうち生活への満足度が最も高いのは「Uターン型」であることが分かりました。また、ふるさと回帰支援センターの調査によれば、首都圏の地方移住希望者は推計309万人に上るといいます。2020年4月から2021年9月まで32の地方都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな実態をレポートしましたが、これらの調査でも分かるように地方移住への関心が高まるなか、今回は改めて「移住」を考える際の地方都市の選択について触れてみたいと思います。

移住意向者は日常的買い物の利便性や医療体制を重視

32の政令指定都市や中核都市についての連載コラム「移住で考える地方都市の魅力」では、移住を考える方々が移住先の都市を選択するに当たって、環境や暮らしぶりなど地域の実情について具体的にイメージしづらいことから、それぞれの都市の規模や自然・環境、気候などにはじまり、都市計画、公示地価、公共交通、そして、転入・転出状況、移住支援、子育て支援、医療体制など多岐にわたっての現状について各種データなどを駆使して取りまとめました。

さて、冒頭の実態調査で移住経験者が移住した際に影響した項目は、「地域での日常的な買い物などで不便がない」37.4%、「都市部へのアクセスがいい」34.9%、が上位に挙がりました。特に若年層ほどこの項目への関心は高い傾向が確認されたほか、「自然が豊かで身近に感じられる」、「十分な広さや間取り、日照など快適な家に住める」、「穏やかな暮らしを実現することが出来る」といった暮らしにおける心の余裕や快適さを希求していたことが特徴的です。

移住経験者の移住時に影響した項目(年代別)

また、移住意向者が移住検討時に影響すると回答した項目では、移住経験者と同様に「地域での日常的な買い物などで不便がない」がトップでしたが、76.4%とほぼ倍になっています。次いで、移住経験者では最も低かった「地域の医療体制が整っている」75.0%が上位でした。なお、「街並みの雰囲気が自分の好みに合っている」や「穏やかな暮らしを実現することが出来る」といった曖昧な主観的な期待感も特徴的でした。

移住意向者の移住時に影響した項目(TOP10)

同調査では、移住に際して生活上必要な具体的条件(都市・生活基盤の担保)だけでなく、移住候補地に対してポジティブな印象や期待感が抱けるといった情緒的な側面も重視されているようだと分析しています。さらに、「地域への愛着」が地域生活における主観的な幸福状態の予測因となることが示唆されています。

自然環境と都市機能が移住者に人気の高い都市の特徴

都市を評価する上で、さまざまなランキング、指標がありますが、「移住で考える地方都市の魅力」では、たびたび森記念財団都市戦略研究所の「日本の都市特性評価2021」と日経BP総合研究所の「シティブランド・ランキングー住みよい街2021」の二つのランキングに触れましたので、前回取り上げた「札仙広福」を除く28都市について以下の一覧表で、それぞれの順位も紹介していきます。同時に、掲載時の各都市の特徴を表現したタイトルを併記しています。

なお、「日本の都市の特性評価」は人口17万人以上の主要138都市を対象に都市の力を構成する要素として「経済・ビジネス」「研究・開発」「文化・交流」「生活・居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野、それらの主要な要素である「都市内交通」「自然環境」「健康・医療」など26指標グループ、それらを構成する86指標が設定された後、86指標に関しての定性・定量データを収集し、スコアを算出して評価・分析が行われたランキングになります。

「住みよい街」は、全国の20代以上のビジネスパーソン2万4553人を対象に「安心・安全」「快適な暮らし」「生活の利便性」「生活インフラ」「医療・介護」「子育て」「自治体の運営」「街の活力」の8分野、さらに「治安がよい」「公園が多い」「繁華街へのアクセスがよい」「公共交通機関が充実している」「病院や診療所が多い」「街に活気がある」など39項目について、実際に自分が住んでいる自治体の「住みよさ」を評価したランキングです。

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ランキングの算出方法や指標などが異なるので、同じ土俵で評価することが難しいほか、「住みよい街」では県庁所在地以外の都市が除外されていますので、都市の比較が容易ではない部分がありますが、神戸市のようにどちらもほぼ同位置で上位にランクされる都市もあれば、鹿児島市のように同順位の都市もある反面、佐賀市や那覇市のように著しく順位が違う都市もあります。ちなみに「都市特性評価」の上位には「札仙広福」を含め大都市が並んでいます。

移住を考えた場合にその都市で生活をする上で重要なものの一つに気候があります。できれば気候が比較的穏やかで、災害が少なく治安が良い土地は誰しもが望むマストな条件と思われますが、その上で市内並びに市外の交通アクセスに恵まれて通勤ラッシュの心配も少ないほか、自然が豊かな上に都市機能が凝縮しているコンパクトな街、「職」「住」「遊」が近接していてオンもオフも充実させることのできるという都市の特徴が表のタイトルからも分かると思います。

首都圏からの20~30代の若年層や子育て世代が増加へ

現時点では2021年度の最新データがまとめられていない都市が多いのが現状ですので、ここでは28都市の中から12都市の2020年度の移住者数を主な特徴とともに下表に掲載します。松本市を除いてはいずれも前年度より移住者が増加しており、それも首都圏から移住が顕著なことが分かりますが、松本市も2021年度は85人に増加していますので、2021年度のデータがまとまれば、他の都市も2020年度と同様に増加することが予想されます。

実際に地方への移住の実態を2020年度の自治体の統計で見ると、自治体によって移住の定義などが異なるために単純に比較はできないものの、相談窓口を通じた実数をカウントする自治体が多いといえます。特徴としては、20~30代の若年層や子育て世代の移住です。これらの移住者は、何より「子育て環境を重視」していますので、生活環境のなかでも子育て支援、さらに教育環境や医療施設などが充実した都市は訴求力が強く条件を満たしているといえます。

主なコラム掲載都市の移住者状況(2020年度)

移住者を増やすことになった自治体の具体的な施策としては、市町村レベルでの補助・助成制度や対象に合わせた移住施策などの強化、大都市圏での相談窓口の開設はもとより、専属職員の配置、オンラインによる移住フェア・相談会の開催などの充実があるほか、ポータルサイトや移住・定住などWEB、SNSでの情報発信。さらに、地域の魅力を体験できる移住体験ツアーやお試し施設での地域滞在ツアーの実施なども有効であったとされています。

若い世代の移住者の場合、単身者だけではなく、家族で移住する例も多くありますが、未来を担う子どもたちを第一に考えた子育て・教育、安心できる生活環境でなければ、移住する決断には至らないでしょうし、まちの未来もありません。出産や子育て世代の減少は都市の衰退の可能性があるので、そうした家族が安心して暮らすことができません。移住支援においても行政による子育て支援の整備が移住者にとっても魅力となり、大きな判断材料になるでしょう。

また、地方都市では、経済・ビジネスや生活・居住・子育て環境など一定の条件を満たす中規模以上の都市が注目されていますが、日本経済新聞社と東京大学が各種都市データを集計して多様な働き方が可能な特徴を点数化した調査では、コロナ禍でテレワークが普及するなか、生活サービスの利便性も求められ、多様な働き方や生活を実現できる都市が再評価され、トップ30のうち97%が地方都市、21市は人口20万人以下の都市が占めました。

テレワークの普及により地方で暮らしても都会と同じように仕事ができるとの認識も拡大し、政府も大都市圏に立地する企業に勤務したまま地方に移住して仕事をする「転職なき移住」を推進していますが、地方都市へ移住して転職される例も多くありますので、就労支援はもとより企業誘致や地場産業の支援など働く場の創出に熱心であるほか、創業支援や地域の特性を生かした産業振興などにも注力する地方都市が望まれています。

実際には、さまざまな条件を満たしても移住者にとっては、その土地に溶け込めるかが心配されますが、外部人材の受け入れや多様性への寛容度が高く、新しいものを受け入れる、認め合う風土がある都市は活力が満ち溢れ、人やビジネスを惹きつけていますし、地域コミュニティでも受け入れる風土があるなど移住者にも優しい都市といえるでしょう。移住を考える上で、何より住み続けたい、住みたい生活環境が魅力となるのではないでしょうか

前述のふるさと回帰支援センターの調査で、移住検討と新型コロナウイルス感染症の影響について尋ねたところ、「影響がある」と 回答した人は約3割、7割は新型コロナとは関係なく移住を考えていることから、地方移住はコロナ禍による一過性のブームではないことが推察されますので、今後ますます増えることでしょう。「人生100年時代」に未来や地域、自分にとってのウェルビーイングをひとりひとりが主体的に選択しなければならない時代を迎えていますが、地域生活における幸せを感じられるよう、どの地域で働くか、どの都市に住むかを考えることが必要といえるでしょう。

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