先日、総務省が発表した2021年8月時点の「通信利用動向調査」で、テレワークを導入したと答えた企業が51.9%で初めて5割を超えたことが分かりました。資本金が50億円以上の企業では93.4%など資本金が多い大企業ほど導入率が高い傾向があります。一方、テレワークを利用した従業員は「3割未満」が約6割を占めました。テレワークなどが高まったことにより若者を中心に地方への関心が高まり、地方への新たな人の流れに向けた動きも生じています。今回は有効な地域活性化策としても注目される「関係人口」について触れてみたいと思います。
関係人口最多は1140万人の沖縄県、移住意欲は2割強
内閣府の令和4年度予算では、「日本全体を元気にする活力ある地方創り」の中で、「地方創生の推進」が掲げられていますが、まち・ひと・しごとの創生と日本全体を元気にする活力ある地方創りの実現のため、地方の創意工夫を活かした自主的な取組を政府一体となって支援するとしています。具体的には「関係人口創出・拡大のための対流促進事業」として、中間支援組織の提案型モデル事業と全国版の官民連携協議会の運営に1億円が計上されています。
■関係人口創出・拡大のための対流促進事業
特定の地域に継続的に多様な形で関わる「関係人口」の創出・拡大を図るため、新型コロナウイルス感染症の影響下とその後を見据えた形で都市住民と地域のマッチング支援を行う民間事業者等によるモデル事業を実施するとともに、全国の官民関係者が参画する協議会を運営し、全国フォーラムや研修会の開催等を通じ、関係者間の情報共有やネットワーク化に取り組む。
さて、注目される「関係人口」ですが、ブランド総合研究所の「関係人口の意識調査2022」では、最も関係人口が多かったのは沖縄県で1140万人でした。同県の関係人口は応援者が95%を占めていますが、その応援者が前年より急増したことで、前年に比べ191万人の大幅増に。前年1位でした福島県は応援人口が減少し4位へ。47都道府県でも関係人口が増加したのは2割強にあたる11都道府県で、他の36件は減少しています。これはコロナ禍の影響に原因があるとみられています。
(出典:「関係人口の意識調査2022」ブランド総合研究所より)
関係人口のうち、7割以上が地域に関する活動を行いたいと思っています。最も活動意欲が高いのは「観光」で40.4%、次いで「帰省・訪問」が21.7%、「ふるさと納税」17.8%の順でした。地域産の「食品を購入」するや「祭りやイベントに参加」など、地域に関係する活動への意欲は多岐にわたっていることが分かりました。
(出典:「関係人口の意識調査2022」ブランド総合研究所より)
同調査では、出身者および応援者(居住地と出身地以外で“最も応援したい都道府県”として選んだ人)を、その地域の「関係人口」と定義していますが、関係人口で「すぐにでも住みたい」(7.1%)、「いつかは住みたい」(13.5%)と移住意欲のある人も20.6%で前年より増え、47都度府県では2194万人に増加しており、「関係人口」同様に沖縄県が最も移住意欲者も多く、281万人という結果でした。
約18%が訪問系の関係人口で属性は8タイプに類型化
「関係人口」については、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、「その地域の担い手として活躍することにとどまらず、地域住民との交流がイノベーションや新たな価値を生み、内発的発展につながるほか、将来的な移住者の増加にもつながることが期待される。また、関係人口の創出・拡大は、受入側のみならず、地域に関わる人々にとっても、日々の生活における更なる成長や自己実現の機会をもたらすものであり、双方にとって需要な意義がある」としています。
2020年9月に国土交通省が実施した三大都市圏に居住する約7万5千人を対象とした「地域との関わりについてのアンケート」によれば、三大都市圏都市部の18歳以上の居住者(約4678万人)のうち、約18%(約858万人)が関係人口(訪問系)として、日常生活圏や通勤圏等以外の地域を訪問していることが分かりました。さらに、関係人口について、同アンケート調査から下図のように属性が8タイプに類型化されました。
(出典:国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会 とりまとめ」より)
「関係人口」は、大別すると田植えや祭り、イベント、ふるさと納税など趣味や楽しみが主体の「ファンベース」と兼業・副業、テレワークなどビジネス寄りの「仕事ベース」の2種類に分類されます。前述の国土交通省の「地域との関わりについてのアンケート」調査では、訪問系の関係人口の地域における過ごし方については、趣味・消費活動や地域でのイベント等への参加・交流活動を行う人の割合が大きくなっているといいます。
また、地方の暮らしを体験することやボランティア等で定期的に関わるといった取り組みに加え、最近ではコロナ禍で直接の移動や面会ができない間はオンラインで関係を構築・維持するなど必ずしも現地を訪れない形もあります。2020年10月に設立された全国の中間支援団体、民間事業者、地方公共団体等による「かかわりラボ(関係人口創出・拡大官民連携全国協議会)」でも会員同士が取組のマッチング、ブラッシュアップを図るためオンラインで交流を図っています。
2024年度までに創出・拡大へ地方公共団体は1000団体を目標
冒頭の内閣府の「関係人口創出・拡大のための対流促進事業」では、都市住民と地域の関わりの創出・拡大に向けた中間支援を行う民間事業者等による都市住民と地域のマッチング支援等の取組に関する提案型モデル事業を令和2年度から実施していますが、令和4年度は「課題解決や政策意義の視点で先導的な取組」と「早期の自走化が見込まれる取組」として下表の6団体の中間支援組織の提案型モデル事業が採択されています。
2024年度までに関係人口の創出・拡大に取り組む地方公共団体は1000団体を目指していますが、同事業によりデジタル技術等を活用しながら関係人口の創出・拡大に取り組む動きを加速化し、地方への人の流れをつくる効果があると考えられています。地方圏では人口減少や高齢化で地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に変化を生み出す人材が地域に入り始めており、地域づくりの担い手となることが期待されます。
地域の課題解決や活性化へ約7割の自治体が取組を実施
東京圏への人口の過度な集中を是正し、地域で住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある社会を維持することを目的とする「地方創生」ですが、地域の発展には地域外からの視点は必要不可欠です。そこでは多様な関わりが望まれますし、地域外からの関係人口と地域内でその土地を盛り上げたいという人たちとの地域内外の「対流」を促進させることにより「関係人口」も含めて地域の活動人口を増加させていくことが重要です。
2020年の国土交通省の「地域との関わりについてのアンケート」調査では、約7割の自治体が、「関係人口の創出・拡大」に関する取組を実施していましたが、「地域から都市住民等への情報発信・コーディネート・受け入れ」や「個人版ふるさと納税を行った人の関係人口化に向けた取組」が多い状況で、体験型や滞在型の取組(農泊、農山漁村体験、二地域居住等、副業・兼業、地域留学、インターンシップ、ふるさとワーキングホリデー等)は比較的少ない状況でした。
これまでの「移住で考える地方都市の魅力」の連載コラムで取り上げた32都市の中でも今年度、下表の9都市は、それぞれの置かれた環境や地域特性に即して「令和4年度予算」として、「関係人口」に関するさまざまな事業を展開しています。
「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」が政策の中心的柱である富山市などは、公共交通及び消費活動の利便性を高めたり、農林水産業やガラス産業、教育などの分野における地域課題に関連したプロモーションや体験事業を行うことにより交流人口を拡大、関係人口の創出へつなげ、官民連携プラットフォームを活用した課題の解決や地域の活性化を図るとしています。
地域づくりにおいては、多種多様な関係人口が存在することが望ましいと考えられていますが、副業・兼業やテレワークの増加等、働き方の変化とともにライフスタイルも多様化し、地域への関心や興味を持つ素地も形成されつつありますので、地方と関わる地域づくりの担い手確保の視点からは移住・定住を前提としない「関係人口」との関係構築が有効になるかとも思われます。ウィズコロナ時代は「働き方改革」によって人材流動が加速度的に進むと見られていますので、改めて副業・兼業、テレワーク、二地域居住、ワーケーションなど「新しい働き方」について取り上げてみたいと思います。