6月7日に政府がまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と「新しい資本主義」の実行計画が閣議決定されました。骨太の方針では、第2章の「新しい資本主義に向けた改革」で、東京一極集中の是正や社会機能を分散した国土へ、デジタル田園都市国家構想の実現による地方の活性化を強力に進める、という一文も記載されています。今回は、東京圏から地方への関心が高まるなか、少子化が進む地域にとって移住が期待される子育て世代を巡る現状と地方都市の選択について触れてみたいと思います。
東京圏の34%、東京23区の37.3%が「地方移住へ関心」
内閣府は2019年度から家計の状況や社会とのつながり、健康状態などの13分野から生活満足度を調べる「満足度・生活の質に関する調査」を実施していますが、この一環として、2020年5月から2021年11月にかけ半年ごとに4回にわたって、「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」も行っています。コロナ禍による個人の変化を捉える貴重なデータとなっています。
2021年11月に行われた同調査では、「働き方」をはじめ、「子育て」や「地方」などについての項目がありましたが、全年齢で「東京圏」も「東京都23区」も、いずれもが2019年12月の調査から回を重ねるごとに地方移住への関心が高まっていることが明らかになりました。第4回の調査では、「強い関心がある」「関心がある」「やや関心がある」を含め、「東京圏」で34%、「東京都23区」で37.3%と約3割が地方移住に関心を持っていることがわかりました。
【「地方移住への関心」(東京圏在住者)】
(出典:内閣府「第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より)
東京圏在住で地方移住に関心がある人の「地方移住への関心理由」としては、最も多い「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため」は31.5%、次いで「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」が24.3%、「ライフスタイルを都市部での仕事重視から地方での生活重視に変えたいため」は21.6%で、いずれも第3回より減少。子育て世代にとって関心の高い「買物・教育・医療等がオンラインによって同様にできると感じたため」は10.5%で逆に上昇しています。
【地方移住への関心理由】
(出典:内閣府「第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より)
地方移住の際には、「新しい仕事を探すこと」や「年収が下がる」「キャリアを活かせる仕事がない」などが気になりますが、「地方移住にあたっての懸念」については、「仕事や収入」が48.5%で最も大きな懸念となっています。次いで、「人間関係や地域コミュニティ」「買物や公共交通等の利便性」「医療・福祉施設」と続き、子育て世代が最も気になる「子育て・教育環境」は13.7%でした。子どもの育児や教育については、30歳代が最も不安を抱え、40歳代が続いています。
【地方移住にあたっての懸念】
(出典:内閣府「第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より)
合計出生率は1.30で6年連続低下し、超少子化の危機
また、6月3日に発表された厚生労働省の2021年の「人口動態統計」によれば、出生数は81万1604人で、前年より2万9231人の減少、出生率も6.6で、前年の6.8から低下。合計特殊出生率も1.30と6年連続で低下しています。出生数は下図のように第1次ベビーブームの約3割となっているほか、コロナ禍でもあり、結婚や出産を控えたこともあるのでしょうが、国の推計よりも6年早い減少ペースで、超少子化国への危機感が高まってきています。
【出生数及び合計特殊出生率の年次数移】
(出典:厚生労働省の2021年「人口動態統計」より)
出生率が低下する要因としては、結婚や出産に対する価値観の変化などもあるでしょうし、昨今、結婚しても子どもを持たずに仕事を続けるという女性も少なくはありませんが、何より子育てや教育などにお金がかかりすぎるという厳しい現実もあります。経済状況などから子どもを欲しいと思っても出産をためらい、子どもを産みたいという意欲が減退した若い世代の夫婦も存在します。残念ながら出産の希望が叶いづらくなっているといえます。
子どもを欲しいと思ったら産み育てられるような社会をつくらなければなりません。子育て世帯の経済的な負担を少しでも軽くして、育児と仕事を両立できるような環境づくりも必須でしょう。地方移住への関心を持つ移住希望者は、若者・単身世代、子育て世代、シニア世代に大別されますが、約3割を占める子育て世代にとっては、子育て環境や子育て支援が、移住を考える上で地方都市の選択を判断する重要な条件となるでしょう。
総合計画や今年度予算で各都市は「子育て支援」に注力
「移住で考える地方都市の魅力」で紹介した32都市では、今年度も前年度より移住者が増加している都市が多く、それも首都圏からの移住が増えている傾向があります。実際に「人口動態統計」などからも30歳代、40歳代の子育て世代の地方都市への転入が増加しています。同世代は何より「子育て環境を重視」していますので、生活環境のなかでも子育て支援、さらに教育環境や医療施設などが充実した都市は訴求力が強く条件を満たしているといえます。
先般の「移住で考える地方移住の選択」のコラムや「移住で考える地方都市の魅力」の連載で、「日本の都市特性評価2021」(森記念財団都市戦略研究所)の各都市の評価ランキングを一部掲載しましたが、同調査では育児や教育など子育て分野については「生活・居住」のカテゴリーに該当し、その中には「合計特殊出生率」をはじめ、「保育ニーズの充足度」や「子どもの医療支援」「教育機会の多様性」などの項目が含まれています。
下表の32都市についての「都市特性評価」は、「生活・居住」についての順位となります。各都市の総合計画で掲げられている目標や令和4年度予算での取り組まれる事業では、必ず「子育て関連」について項目が設けられ、人口減少や少子化が進む地方都市にあっては、少子化の克服や子どもを産み育てやすい社会の実現は大きなミッションとして、子育て支援策の拡充や子育て・医療介護などの充実へ30歳代から40歳代の子育て世代に向き合っています。
いずれの都市も「子育て」には力を入れていますが、子育て世代を中心に移住地として高い人気を得ている鳥取市は妊娠・出産、幼少期から学童期へと、それぞれのステージに寄り添った子育て支援体制が整っており、「日本一子育てがしやすい」ともいわれています。「子育てをするなら四日市」を標榜する四日市市は、さまざまな子育て政策に取り組むなか、市政アンケートで「子育て支援の充実」の評価が大幅に上昇するなど市民からも高い評価を得ています。
子育て支援をはじめ教育環境、医療施設の充実を重視
さて、自治体が提供する子育て支援にはさまざまな形があり、アプローチも異なりますが、家族で移住する際、とりわけ小さな子どもを抱えている場合、未来を担う子どもたちを第一に考えた子育て・教育、安心できる生活環境でなければ、移住する決断には至らないでしょうし、まちの未来もありません。出産や子育て世代の減少は都市の衰退にもつながる可能性が考えられるので、子育て世帯が安心して暮らすこともできません。
移住支援においても行政による子育て支援の整備が移住者にとっても魅力となり、移住を決める大きな判断材料になるでしょう。子育て世代は、夫婦共に働いている世帯も少なくありませんので、仕事と子育てが両立できるような制度や環境が望まれています。移住した場合の住宅購入費の補助や賃貸住宅の家賃補助は元より、以下のような支援が子育てしやすい街として移住希望者に評価されやすいといえるでしょう。
・子どもの医療費補助
・子どもの学費補助や給食費補助
・保育園の整備、学童を含む保育環境&サービスの充実
・子育て支援施設の整備や充実
・育児ヘルパーや家事代行の派遣サービス
・育児用品の割引券やクーポン券の配布
・子育てに関する相談窓口、情報サイト、手帳などの整備
コロナ禍を契機にテレワークの広がりにより、ライフスタイルにも変化がみられると同時に、新型コロナウイルス感染症は、人々の生活や地域経済に大きな影響を及ぼしている一方で、働き方、暮らし方を見直す機会ともなりました。「家族と過ごす時間や趣味の時間を、これまで以上に大事にしたい」と考える子育て世代も増えています。前述の内閣府の調査でも18歳未満の子を持つ親に対する「家族と過ごす時間を保ちたいと思うか」という設問に対し、回を重ねるごとに「保ちたい」という回答が増え、第4回では約6割まで上昇しています。自治体にとっては妊娠・出産から始まり、子育て支援を経て、病院や学校などの充実した医療・教育環境などが地方都市への移住を促進するアドバンテージであり、選ばれる要素といえるでしょう。ゆとりある地方都市で暮らす新たなライフスタイルの実現が期待されます。