「都会は物価が高く、地方は何もかも安くて生活がしやすい」と、半ば常識のように皆が思っていることでしょう。しかし、現実的には、地方の方が、物価が高い場合も往々にしてあるのです。この勘違いはどこから生まれてくるのでしょうか?また実際に地方で物価が高いものにはどのようなものがあるのでしょうか?今回は物価について私たちが勘違いする原因と、現実的な都会と地方の物価差について解説していきます。
「消費者物価地域差指数 」が勘違いの原因に
総務省統計局は、定期的に都道府県別の物価差を調査してそのレポートを発表しています。このレポートが「消費者物価地域差指数」で、物価の全国平均を100とした場合の各都道府県の数値(指数)が記されています。
2020年に行われた調査では、全国平均の100に対して東京都が105.2と最も高く、次に神奈川県が103.2となっています。一方,最も低いのは宮崎県の95.9で、次に群馬県が96.7と続きます。特に宮崎県は、3年連続で最も消費者物価地域差指数の低い都道府県となっています。また毎年若干のばらつきはあるものの、都市別に見ても札幌市、福島市、さいたま市、千葉市、京都市、大阪市などは常に100を超えており、このデータを見る限り「都会は物価が高く、地方は何もかも安くて生活がしやすい」は正しい評価に思えます。
ところが気をつけなければいけないのは、この統計の内訳です。この物価差は「総合的な物価」で判断されているのですが、内訳には「住居(家賃)の物価」も含まれているのです。このレポートは統計の注意点として、以下のような記述を載せています。
「物価水準が高い東京都及び神奈川県は『住居』が最もプラスに寄与し、物価水準が低い宮崎県及び群馬県は『食料』が最もマイナスに寄与している」
「物価水準が高い東京都及び神奈川県は,『住居』が極めて高く,次いで『教育』も高くなっている。宮崎県は『住居』が特に低く,群馬県は『教育』が極めて低くなっている」
つまり、東京都と神奈川県の物価高には、地方との住居(家賃や土地の価格)差が一番影響しているのです。ですからこのデータを額面通りに受け取り、「都会は物価が高く、地方は何もかも安くて生活がしやすい」としてしまうことには、少し無理があるといえるでしょう。
地方はすべての物価が安いとは限らない
都会と地方の物価差で一番インパクトがあるのは、上記のように土地代や家賃です。しかし、それ以外の物価も地方がすべて安いとは限りません。
たとえば住民税。これは基本的に全国一律で、市区町村や都道府県が超過課税を行っている場合以外は、都会でも地方でも変わることがありません。また水道料金も、都会が高く地方は安いというセオリーが当てはまりません。
日本水道協会が発表している水道料金表 (2019年4月時点)によれば、水道料金が最低の自治体は兵庫県赤穂市で20立方メートルあたり853円。最も高い自治体は北海道の夕張市で、6,841円です。その差は約8倍。ちなみに最高のトップ10にも、最低のトップ10にも東京都は入っていません。税金や公共料金の場合には、都会が高く地方が安いというセオリーは通じないのです。
また公的な物価だけでなく、民間の物価にも同様の傾向はあります。たとえばガソリンの価格は、都会と違って他店舗との競争が少ないので都会に比べ地方は高い傾向にあります。同じように全国で販売されている生活用品なども、無理に値引きする必要がないので地方で買う方が高くなる場合があります。
都会と地方で発生する物価差には理由がある
公共の物価以外に物価差が発生する要因は、需要と供給のバランスです。物の値段は、すべてこれが影響しています。また土地の値段や家賃も需要と供給のバランスで、ほぼ間違いなく都会に比べて地方が安くなっています。ある調査によれば、同程度の条件(広さ、間取り、築年数、駅からの距離など)での家賃差は、最高と最低で年間60万円ほどの差が発生しています。
地産地消のものは地方が安い
それともう1つ。都会に比べて地方で安く買える物には、地産地消の商品があります。たとえば地元の農家が作る野菜や果物、海や川の幸などです。これらは都会に比べて輸送費や中間業者のマージンがかからないので、ほとんどの場合都会に比べて安く手に入ります。
まとめ
このように、都会と地方の物価差はさまざまな条件によって決まります。一概に都会は高く、地方は安いなどとは言えないのです。したがって地方移住を考えたときには、先入観だけで行動するのではなく、いくつかの条件を冷静に比べ移住後の生活を考えて行きましょう。
<参考>
https://mrt.jpn.org/inakaakiya/post-1000/
消費者物価地域差指数 -小売物価統計調査(構造編)2020年(令和2年)結果-
https://www.stat.go.jp/data/kouri/kouzou/pdf/g_2020.pdf
https://www.sankei.com/gallery/20200512-MQO2UP25FZIRNI3ANLIN4DHSE4/