都会と田舎、両方で暮らす二地域居住(もしくは二拠点生活)が、テレワークの普及を機に大きく変化しはじめています。今まではあくまで都会が「主」で田舎が「従」という関係性でしたが、この関係が逆転しはじめているのです。今回は、今までの二地域居住と新しい二地域居住の違い、また新しい地方移住のカタチについて解説していきます。
今までの二地域居住
二地域居住や二拠点生活という言葉ができたのは、地方移住がブームとなる少し前、つまりまだ最近のことです。以前は特に呼び名はありませんでしたが、たとえば都会に本拠を置いてリゾート地に別荘を構える「別荘族」が、今で言う二地域居住にあたるのかもしれません。別荘族は富裕層が中心となっていましたが、これらの人々は特に意識すること無く実質的に二地域居住を行っていたことになるのです。そしてこのような事情から、二地域居住は長らく別荘でのバカンスや定年後のセカンドライフを過ごす方法として考えられてきたのです。ところが現在では、この解釈が少し変わってきています。近年の二地域居住は、どのようなことだと考えられているのでしょうか?
二地域居住とは?
国土交通省は、現在の二地域居住について以下のように定義しています。「二地域居住とは、都市住民が、本人や家族のニーズ等に応じて、多様なライフスタイルを実現するための手段の一つとして、農山漁村等の同一地域において、中期的、定期的・反復的に滞在すること等により、当該社会と一定の関係を持ちつつ、都市の住居に加えた生活拠点を持つこと」とてもわかりにくい文章ですが、つまりは都会に住む人が多様なライフスタイル実現のために田舎に居を構え、繰り返し移動しながら地方と関わっていくこと、と定義しているのです。
この定義自体は昔からある二地域居住と変わってはいませんが、変わったのはこのようなライフスタイルを楽しむ人たちです。従来は富裕層や定年後のセカンドライフを楽しむ人達のものだった二地域居住は、現在では一般の人たちが関心を持つものになっているのです。
高まる二地域居住への関心
従来は富裕層やセカンドライフを楽しむ人が中心であった二地域居住について、多くの人が関心を持つようになったのは新型コロナウイルスの感染拡大が契機になっています。新型コロナウイルスの感染拡大で、東京23区にある企業の5割以上がテレワークを実施することとなりました。
政府(内閣府)が行った調査によれば、東京23区では49.1%と半数近くの人が地方移住への関心を示し、セカンドライフなどまだまだ先の20代でも、東京圏では44.9%の人が地方移住に関心を持っていると報告されています。これは、コロナ禍によって過密を避けた自然豊かな環境に魅力を感じていることや、通勤を必要としないテレワークが普及し、感染症の収束後もこの働き方が定着するとの考え方があるからだと言われています。つまり都会に住む利便性より、地方での暮らしやすさに重きを置くことに価値観が変化しはじめているのです。都心にある会社に出社しなくても仕事ができる環境は、一気に通勤という課題を解決し、地方移住や二地域居住への可能性を広げたのです。
冒頭で、従来の二地域居住には都会が「主」で田舎が「従」という関係性があると書きました。二地域居住、もしくは地方移住を楽しむためには、まず先立つものとしてしっかりとした収入が必要になります。田舎では仕事が少なく収入は期待できない。だから本拠は都会に残しておこうということで、この主従関係は成り立ってきたのです。ところがテレワークの普及で、この主従関係が逆転しはじめています。
これからの二地域居住
前出の国土交通省はこれからの二地域居住に関して「テレワーク等を前提として地方に就労を含む生活の主な拠点を移し、都市との関わりも副次的に残すという、いわゆる新しい生活様式に沿った新たな二地域居住が可能となり、より二地域居住が進展、拡大する」としています。
つまりテレワークの普及により、生活の拠点は完全に地方に移し、仕事だけを都会に残すようなライフスタイルが可能になったのです。都会が「主」で田舎が「従」ではなく、田舎を「主」とすることで都会のあらゆるストレスからの解放が可能になり、より自分らしい、ストレスフリーな生活を送ることができるようになります。またこのような新しい生活の可能性は、新たな地方移住のカタチも誕生させています。
アドレスホッパー、ノマド生活者
アドレスホッパーとは、生活する拠点を定めず(住所を持たず)、さまざまな場所を転々とするライフスタイルです。二地域居住は都会か田舎、どちらかに本拠を置きますが、アドレスホッパーには本拠という概念がありません。アドレスホッパーは二地域居住より自由度の高い、新しいライフスタイルだと言えるでしょう。またノマド生活者とは、ノマド(nomad:遊牧民)のように場所を次々と移動させながら働き、生活していくライフスタイルです。どちらも本質的にはほぼ同じですが、好きな場所で好きなときに働き、ストレスの少ない生活を送ることを目的としています。これらもやはり、テレワークの普及がカギとなって生まれた新しいライフスタイルです。
まとめ
テレワークの普及は、二地域居住を一気に身近なものへと変化させました。またアドレスホッパーやノマド生活など、さらに新しい移住のカタチも登場させています。二地域居住やこれらの新しい移住のカタチは、今までにない新たな人生をあなたにもたらしてくれるかもしれません。
<参考>
地方公共団体向け二地域居住等施策推進ガイドラインhttps://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/chisei/content/001491148.pdf
二地域居住 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/chisei/kokudoseisaku_chisei_tk_000073.html