2000年代初頭、政府が発行した地域振興券に刺激されブームとなったのが「地域通貨」でした。当時はまだ珍しかったポイントや特典を与えた「その地域でのみ使える通貨」で、観光客の誘致や地域経済の活性化が期待されたものです。ところがブームから20年あまり、現状ではその大半が廃止や休止の憂き目に遭っています。このような状況は何が原因で起こったのでしょうか?また、なぜ普及は進まなかったのでしょうか?近年はデジタル化の影響で再注目されている地域通貨。今回は地域通貨の概要から課題、デジタル地域通貨への期待などについて解説していきます。
地域通貨とは?
地域通貨は、政府以外の企業やNPOなどの団体、地方自治体、商店街などが独自に発行する通貨で、特定の地域やコミュニティで利用することができます。私たちが普段使っている法定通貨とは違うものなので厳密な意味では通貨とは言えませんが、購入した金額以上に使えるポイント制度や地域ならではの特典が用意され、あたかも通貨のように使うことができます。
たとえば埼玉県深谷市で発行・利用されているnegi(ネギー)という地域通貨は、10%のポイント還元率を持つ地域通貨で、深谷市内の743店舗(2023年4月時点)で使うことができます。negiはスマホのアプリや専用のカードに金額をチャージすることで使えるようになりますが、エコ活動やボランティア活動、アンケート回答などでも受け取ることができます。発行主体(企業やNPOなどの団体、地方自治体、商店街等)が地域通貨に法定通貨とは違った役割を持たせることにより、地域課題の解決や地域活性化に寄与させることができるのです。
廃止や休止が続いた地域通貨
地域通貨の発行は、1999年に緊急経済対策として政府が発行(実際の発行主体は全国の市町村)した地域振興券が契機となりブームになりました。2000年代初頭から全国で地域通貨の発行が相次ぎ、2019年までに延べ650の地域通貨が誕生したと言われています。ところが、2020年12月現在で残っている地域通貨はわずか180程度。地域通貨は20年の間に廃止や休止が相次いだのです。
■ 地域通貨ブームが続かなかった理由
地域や地域経済を活性化させるはずの地域通貨は、どのような理由で廃止や休止となっていったのでしょうか?それには、以下のような理由があると言われています。
▷ 地域通貨の発行規模が小さかった
ほとんどの地域通貨は発行の規模が小さかったため発行主体が利益を確保できず、事業の縮小や休止を余儀なくされました。事業の縮小で使い勝手が悪くなった地域通貨は購入されることが無くなり、必然的に消滅していったのです。
▷ 購入額の全額を利用できない通貨が多かった
すべての地域通貨ではありませんが、地域通貨の多くは商品やサービスの購入額すべてに充当することができませんでした。つまり1,000円の商品を購入したとしても、地域通貨はその半分の500円までしか使えないなど、非常に使い勝手の悪いものでした。
▷ 特定の場所でしか購入できなかった
特定の地域や目的で使える地域通貨ですが、購入もまた限られた場所でしかできませんでした。たとえば市内の数百カ所で使える地域通貨でも、購入できる場所は数カ所に限られ、購入するためにわざわざ出かけていかねばならないことが多かったのです。
▷ 地域通貨が財布の中でかさばった
地域通貨は法定通貨を模したものやクーポンに似せたものが多く、財布の中でかさばりました。使用者の多くは財布に法定通貨と区別して地域通貨を入れたので、場所を取ってしまったのです。このような文字通りの使い勝手の悪さから、地域通貨は次第に敬遠されることになってしまったのです。
デジタル化で再注目される地域通貨
2014年に安倍改造内閣が地方創生策を発表し、2021年に発足した岸田内閣ではデジタル田園都市国家構想を推進しています。地域通貨の発行・活用が地域や地域経済活性化の役に立つことは間違いのないことで、地方創生策の一環として再び地域通貨が注目されています。
再注目されている地域通貨は、以前のように法定通貨やクーポン券の形を摸してはいません。地域通貨が再注目されるようになったきっかけは、上記の政府による地方創生策の推進とスマートフォンの普及で、今話題となっているのはデジタル化された地域通貨なのです。
埼玉県深谷市の例として紹介した地域通貨negiは、スマホのアプリや専用のカードに金額をチャージすることで使えるようになります。negiは市内の743店舗で使えますが、スマホで使う限り、チャージはどこでも行えます(クレジットカードからチャージする)。カードで使うnegiにしても、クレジットカード1枚を財布に入れておく感覚で決してかさばることがありません。また地域通貨の発行主体も地方自治体(深谷市)で規模が大きく、印刷代や保管代、輸送代などもかからないため低コストで地域通貨を運用することができます。以前にあった地域通貨が続かなかった要因の多くを、デジタル化が解決しているのです。
まとめ
地域通貨再普及の鍵は、使う人の使い勝手向上と発行主体の利益を確保することです。デジタル化された地域通貨は、この両方を高次元で両立しています。デジタルの力で再び力を取り戻した地域通貨。きっと地域経済活性化の起爆剤となってくれることでしょう。
<参考>
デジタル地域通貨の課題と持続可能な仕組みの考察
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=104580
地域経済活性化を目的とした地域通貨の現状と課題
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/1949/00103312/ronsyu20-09.pdf
デジタル地域通貨は地域活性化の切り札になるか
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20220408_local-currency.html
地域通貨をSDGsに活かすには|SDGsと地域活性化【第2部 第4回】
https://sdgs.kodansha.co.jp/news/knowledge/39939/