地方拠点の「札仙広福」にみる人口移動と移住定住
亀和田 俊明
2023/07/04 (火) - 12:00

6月27日に総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告」によれば、5月の東京都への転入者は前年同月比4.4%増の3万4284人で、5ヵ月連続の転入超過となりました。新型コロナウイルス感染症法上の分類の「5類」移行に伴い、都心回帰が進んで東京都への人口流入が続いているといえます。21大都市でも5118人の転入超過でしたが、四大都市では福岡市(685人)、札幌市(438人)、仙台市(174人)の順で転入者が転出者を上回りました。今回は地方経済の拠点都市というだけでなく、それぞれ移住先としても人気が高い「札仙広福」の人口移動と移住定住の現在地について触れます。

道県内で最も転入超過数の多い3都市、札幌・仙台・福岡

昨年末に政府は、デジタル化で地方創生を促す「デジタル田園都市国家構想」の総合戦略案をまとめ、2023年度からの5ヵ年の実施計画を盛り込みました。デジタル技術を活用して都市から地方への人の流れをつくる方針を掲げていますが、2027年度には東京圏から地方への移住者を「年間1万人」とする目標も定め、2021年度に8万3827人だった転入超過ですが、地方と東京圏との転出・転入を2027年度には均衡させるとしています。

今年、発表された住民基本台帳に基づいた国内の人口移動の状況を知ることができる総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告(2022年結果)」によれば、2022年の日本国内における市区町村間移動者数は531万972人となり、前年に比べ1,2%の増加でした。なお、都道府県間移動者数は255万3434人で、前年に比べて3.1%の増加、都道府県内移動者数は275万7538人で前年に比べ0.5%の減少となりました。

都道府県別の転入者数は、東京都への転入者数が43万9787人で最も多く、3年ぶりに増加に転じており、次いで神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県、愛知県、福岡県の5府県が10万人台で続き、7都府県で56.3%を占めています。前年に比べ転入者が最も増加しているのは東京都の1万9620人で、大阪府、福岡県などが続き、実に39都道府県で転入者数が増加しました。ちなみに、転出者数が最も多いのも東京都で、上位の8都府県で56.2%を占めました。

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次に転入超過数が多い上位20市町村でみると、今回、取り上げる四大都市では4位に札幌市(8913人)、6位に福岡市(6031人)、13位に仙台市(2938人)がランクインしています。また、年齢3区分では、0歳~14歳で9位に札幌市(555人)、15歳~64歳で5位に札幌市(6080人)、6位に福岡市(5571人)、9位に仙台市(2920人)が続き、65歳以上は1位に札幌市(2278人)、2位に福岡市(709人)、12位に仙台市(261人)が名を連ねています。

地方経済の拠点都市といえる「札仙広福」の四大都市ですが、前年に比べ転入超過数が拡大したのは仙台市(650人)で、逆に転出超過数が拡大しているのは広島市(110人)でした。また、広島市を除く北海道では札幌市、宮城県は仙台市、福岡県は福岡市の3都市が各道県内で最も転入超過の多い都市となっており、各道県における県庁所在地でもある中心都市への人口の一極集中が継続していることも分かります。



移住希望地で4都市ある北海道・宮城・広島・福岡は人気

さて、ふるさと回帰支援センターが相談者やセミナー参加者を対象にしたアンケート調査で都道府県ごとに「移住希望地ランキング」を発表していますが、2022年もコロナ禍にかかわらず地方移住への関心の高まりから移住相談件数(面談・電話・メール・見学・セミナー参加)は2年連続で過去最多となる5万2312件。移住相談会やセミナー等の開催数も前年を上回り、2年連続の過去最多で、オンライン開催から会場利用を伴うセミナーへの回帰が進みました。

セミナー参加者では広島市を抱える広島県が2021年に続き1位でした。同県は窓口相談での相談内容や傾向を把握し、移住希望者のニーズに即したセミナーを県庁担当者自らが企画し、年間30回実施することで、セミナーへの参加者を多く集めたといいます。また、窓口相談においても6位で、20歳代以下から50歳代までの世代で、いずれもベスト10にランクインするなど、働き盛りの年代の人気とアプローチが効果を上げているものとみられています。

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相談者の年齢は、2021年に引き続き40代以下が全体の7割程度を占めており、現役世代や子育て世代が中心であることが分かります。移住先を選択する際の優先順位として「就労の場があること」が58.5%で最も高いものでしたが、2021年に比べ「地方都市」を希望する人が64.9%から73.6%へ増えたことともリンクし、「札仙広福」の四大都市を抱える当該4道県の人気を裏付けるものともいえるでしょう。

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四大都市は子育て支援や若者世代の移住・定住促進へ

次に四大都市の人口移動と移住関連事業について触れていきます。転入超過数は全国で4位の札幌市ですが、地価が上昇していることもあり、最近では、子育て世代の移住が進む周辺の自治体を含んだ札幌圏の一極集中が顕著です。同市はシニア層の移住が多く、若者の定住促進が課題でしたが、東京に道出身者などと札幌圏内企業とのマッチングを図る常設拠点の設置が計画されているほか、同市の補助金を利用したIT系企業の札幌進出が2022年度は28社へ増加。

宮城県は東北で唯一、7年ぶりに転入超過となりましたが、市町村別に人口移動をみると最も転入超過が多かったのが、全国13位の仙台市の2938人で、青葉区と若林区が前年に比べ転入超過が拡大しています。テレワークの浸透など生活スタイルの変化もあり、他県から仙台圏に移住する人が増えたことや大学卒業後に仙台圏内で就職する人が増えていることが要因とみられます。同市では2023年度に若者の地方定着を推進し、人材確保に取り組むとしています。

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広島県の転出超過数をみると9207人と都道府県別で最も多く、前年に比べて2048人と最も拡大していますが、広島市の転出超過数は前年に比べやや減少し、2522人だったものの、変わらず転出数の増加が課題となっています。同市では、移住・定住の促進について2016年より「地域課題解決ネットワーク」と連携し、相談体制の一層の充実を図っているほか、2023年度も広域都市圏として東京圏や関西圏の学生のUIJターンの促進に取り組みます。

福岡県を除く九州6県(佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島)は、軒並み転出超過なものの、前年に比べ縮小していますが、福岡市の転入超過数は6031人で、九州各県からの転入が多いほか、15~29歳の若年層が9割弱を占めています。また、女性の転入超過が男性の2.3倍に上るなど他の3都市とは違う福岡市は、天神ビッグバンをはじめ都心部の魅力の発信や外資・国際金融の誘致など多様な人材や企業が集まるまちづくりを推進するとしています。

年初に共同通信が実施した「移住支援策」に関する自治体へのアンケート調査で、コロナ禍前後の2019年度と2021年度の変化について「増加」と答えたのは557自治体(33%)で、「減少」は12%でした。また、20~30代で移住した人が増えたのかの問いには、33%が「増加した」と答えています。移住の理由については「よい子育て環境」が40%で最も多く、効果的な施策としては「住居・家賃支援」(39%)がトップでした。

この自治体調査でも明らかなように移住誘致、定住促進について、子どもを安心して産み育てられる環境というのが、20~40代の子育て世代にとっては、何よりも優先される条件となっていることが分かります。「札仙広福」の四大都市も表5のように、2023年度にはさまざまな子ども・子育て支援策が講じられていますので、地方都市への移住を考える際に参考になることでしょう。

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都市機能をはじめ交通アクセスや自然にも恵まれ、首都圏に比べると住宅コストも安価な代表的な地方都市が、「札仙広福」ですが、道内や県内からの人口移動が多いのはもちろん、前述の「移住希望地ランキング」からも分かるように首都圏在住者にも人気の高い代表的な地方都市です。何より暮らしやすい街と評価され、移住先として関心を集める情報発信などが県外、ひいては首都圏からの移住者を増やすことにもつながっているのではないでしょうか。次回は、公示地価の動向と大規模な再開発が行われている現状から「札仙広福」の魅力を考えてみたいと思います。

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