子育て・働き盛り世代の「地方都市」移住の現在地
亀和田 俊明
2023/08/04 (金) - 19:00

今年1月に実施された20代~50代の社会人874人を対象とした株式会社ライボによる『2023年 地方移住の意識調査』によれば、全体の約6割が地方移住に「興味あり」と回答し、年代別では63.1%の30代が最多でした。理由としては、「首都圏より居住費が安い」が61.1%、「転職せず引越しができる」が55%でした。そして、「環境変化」と「移住費」がハードルになるものの、44.7%が今後、検討の可能性があると答え、地方移住が増加している傾向を裏付けるものとなりました。今回は各種データを基に「地方移住」への関心や現状について探るとともに、課題や自治体の施策なども含め地方移住の現在地について触れてみたいと思います。


全年齢層で地方移住へ関心増加、特に20代に強い傾向

内閣府では、2020年5月から5回にわたってコロナ禍による個人の変化を捉える貴重なデータとなる「コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を実施していますが、3月に第6回調査が行われました。最新調査では「働き方」や「子育て・結婚」と並んで「地方」の項がありますが、東京圏在住者のうち、地方移住への関心を持つ層は全年齢層で増加していることが分かるとともに特に20歳代でその傾向がより強く表れていました。

回を重ねるたびに地方移住への関心が高まっていますが、東京圏在住者で移住に関心がある人に「地方移住への関心理由を」を尋ねると、「人口密度が低く自然豊かな環境の魅力を感じたため」が33.1%、続いて「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」が22.6%、「ライフスタイルを都市部での仕事重視から、地方での生活重視に変えたいため」も20.9%で、コロナウイルス感染症によって働き方に大きく影響を与えたことがうかがえます。

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一方で、「地方移住に当たっての懸念」の問いでは、仕事や収入をあげる割合が約半数の51.1%で最も大きな懸念となっています。「買物や公共交通等の利便性」(27.0%)をはじめ「医療・福祉施設」(20.9%)や子育て世代が最も気になる「子育て・教育環境」(14.1%)など東京圏に居住している際には、あまり不便を感じないような移住環境が続き、移住先で問題となりがちな「人間関係・地域コミュニティ」(26.0%)の課題も上位でした。


移住相談窓口の相談件数は過去最多、人気県が上位に

前回の地方拠点都市「札仙広福」のコラムのなかで、ふるさと回帰支援センターが相談者やセミナー参加者を対象に行った「移住希望地ランキング」の調査について触れましたが、ここでは総務省が実施した2021年度における移住相談に関する調査をみることにしましょう。同省では、平成27年度(2015年度)より各都道府県及び市町村の移住相談窓口等における相談受付件数等に関する調査を実施していますが、新しい調査結果が発表されています。

各都道府県・市町村の移住相談窓口等において受け付けた相談件数は、令和2年度(2020年度)に減少に転じていましたが、令和3年度(2021年度)において、全体で324、000件(窓口:約285、500件、イベント:約38,500件)となっており、前年度から約33,000件(窓口:約23,200件、イベント:約9,600件)増加しています。表1は、令和3年度(2015年度)からの相談件数と各都道府県が設置している常設の移住相談窓口数の推移です。

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令和3年度(2021年度)は、イベントにおける相談件数が次第に増えてきてはいるものの、移住相談窓口における相談(面談のほか、電話やメール等での相談を含む)の増加により、6年前の平成27年度(2015年度)の約2.3倍となる過去最多の結果となっています。現在、常設の移住相談窓口は166ヵ所(首都圏77ヵ所、近畿圏25ヵ所、中部圏6ヵ所など)ですが、表2は相談受付が多かった上位10道県の件数と内訳(相談窓口とイベント)になります。

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同調査からは、コロナ禍を契機に全国的な地方移住への関心の高まりなどにより過去最多の相談件数になっていることが分かりますし、実際、前年より移住者が増えている県が多い状況です。相談件数が増えている当道府県及び市町村においては、オンライン環境の整備によりオンラインを用いたイベントの実施やオンラインでの窓口相談の拡充などコロナ禍でも若い世代が気軽に参加できるような対応が進められたことが功を奏したといえるでしょう。


軒並み過去最多の移住者、多い20~30歳代の若い世代

これまで述べてきたように20~30歳代の若い世代を中心に地方移住への関心が高まり、実際に移住する方も増えていますが、現時点では2022年度の移住者数がまとめられていない自治体も多いのが現状です。ここでは判明している主な県について、自治体の2021年度と2022年度のデータを比較しながら主な特徴とともに表3に掲載します。今回、取り上げている自治体は例外なく、前年度に比べて軒並み移住者が増加していることが分かります。

実際に地方への移住の実態を2022年度の自治体の統計でみると、自治体によって移住の定義などが異なるために単純に比較はできないものの、移住相談窓口を通じた実数をカウントする自治体が大半です。特徴としては、20~30歳代の若年層や子育て世代、そして働き盛り世代の移住が顕著なほか、前居住地は一部を除いて首都圏からの移住者が最多です。移住先としては県庁所在地など地域で人口が多く、最も大きな都市がトップなのが実情です。

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表3のようにほとんどの県で移住者が増えていますが、主な要因としては、自治体が補助・助成事業や対象に合わせた移住施策などを強化したほか、相談窓口の増設はもとより、移住コーディネーター等の配置、オンラインによる移住フェア・相談会の開催などの充実があります。移住・定住などWEB、SNSでの情報発信も熱心に取り組んでいますが、最近では、地域の魅力を体験できる移住体験ツアーやお試しテレワークの実施なども有効であったとされています。

【移住者増加の主な要因】

■移住施策の強化(補助・助成事業など移住者支援・就業支援)
■組織改編で担当部署を新設(移住・定住の業務に特化)
■大都市圏での相談窓口の開設
■移住コーディネーターなど専門職員の配置
■オンラインによる移住フェア、相談会・現地見学会の開催
■移住体験ツアーやお試しテレワークの実施
■情報発信の強化・充実(WEB・SNS等)

各自治体ともに2023年度もより移住者を増やすために高い数値目標と、推進するためのさまざまな施策を今年度の事業予算に組み込んでいます。最近では、Uターンばかりでなく、Iターンによる移住も増えていますので、さらに就業支援や起業支援を強化する自治体も多くなっていますし、福島県のように「転職なき移住」の推進を掲げる自治体もあるなど、リモートワークの浸透で働き方や居住地など移住を考える人に向けた的確な受入体制も望まれています。


主要ターゲットの若者、特に子育て世代へ望まれる支援

人口が減少する地方において、前述のように2022年度も2021年度より各県で首都圏からの移住者は増えていますが、20~30歳代の若い世代が顕著です。なかでも子育て世代は何より「子育て環境を重視」しています。生活環境のなかでも子育て支援、さらに教育環境や医療施設などが充実した地域、自治体に関心を持っていますので、経済・ビジネスや生活・居住・子育て環境など一定の条件を満たす中規模以上の地方都市が今後も注目されるとみられます。

子どもを欲しいと思ったら産み育てられるような社会となれば良いのでしょうが、子育て世帯の経済的な負担を少しでも軽くして、育児と仕事を両立できるような自治体による環境づくりも必須でしょう。地方移住への関心を持つ移住希望者は、若者・単身世代、子育て世代、シニア世代に大別されますが、約3割を占める子育て世代にとっては、子育て環境や子育て支援が、移住を考える上で地域や都市の選択をジャッジする重要な条件となるでしょう。

地方への移住はコロナ禍による一過性のブームではありませんので、今後も各地でますます増えるでしょう。子育て世代は夫婦共に働いている世帯も少なくありませんので、仕事と子育てを両立できるような制度や環境が望まれています。移住した場合の住宅購入費や賃貸住宅の家賃の補助は元より、妊娠・出産から始まり、子育て支援を経て、病院や学校などの充実した医療・教育環境など、次世代を担う子どもたちを第一に考えた子育て・教育、安心できる生活環境が地方への移住を促進するアドバンテージであり、移住者にとっても魅力となるでしょう。

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