地方都市を中心に百貨店の閉店が続いています。今年は特に「リーマンショック」以来9年ぶりに10店舗以上の閉店が発表されています。物を売るだけでなく地域のコミュニティとして地域文化を支えてきた百貨店は瀬戸際に追い込まれています。そうした中でも新たな基軸、施策を講じて顧客ニーズに応えようとする百貨店もあります。地方都市での現状と新たな取り組みから事例を交え、百貨店にみる地方創生について考えてみたいと思います。
地場独立系百貨店は約8割が減収、赤字企業は約4割に
地方都市を訪ね歩いていると中核都市以上の規模の地域には、どちらにも古くから営業する地場の百貨店がありましたが、この10年間で北海道から九州まで地方の百貨店を中心に約60店舗が閉店しています。日本百貨店協会の統計によれば、2018年の全国百貨店の売上高は2年ぶりのマイナスとなる前年比0.8%減の5兆8,870億円でした。これは下表のようにピーク時の1991年の9兆7,131億円に比べると実に約4割の減少となっています。
(資料:百貨店協会資料より筆者作成)
2018年は訪日外国人旅行者が下支えした半面、7月から9月にかけて西日本豪雨や台風21号、北海道胆振東部地震が相次ぎ、災害に伴う一部店舗の休業や消費意欲の落ち込みなどが当該地域の売り上げにも影響したとみられます。品目別に売上高を見れば、訪日外国人旅行者の需要が大きい化粧品が9.5%増、美術・宝飾・貴金属が3.3%と好調な一方で、衣料品はインターネット通販との競合が激しく、3.1%減となっています。
現在、主要な百貨店78社の約7割が減収で、約3割が赤字ともいわれます。高島屋、三越伊勢丹、そごう西武など大手百貨店の半数は増収増益なものの、地方を中心とした地場の独立系は7割が減収で、赤字企業は約4割に上るといいます。地場の独立系百貨店の売上高上位10社の合計額は約5,500億円ですが、1位の高島屋の売上高7,246億円にも満たない厳しい数字で、12年連続の減収で閉店が相次ぐ地方都市の百貨店の実情をも物語っています。
地域において大きな経済効果とにぎわいを生み出してきた百貨店も、都心店舗は訪日外国人旅行者や富裕層の需要に支えられ、売り上げが堅調に推移しているところも多いですが、地方都市では地元消費が低迷していることに加え、郊外型の大型商業施設との競争にさらされ、若者の百貨店離れやインターネット販売などマイナス要因により苦戦を強いられています。大都市圏と地方都市の格差はますます広がっているといえるでしょう。
2019年は「リーマンショック」以来となる二桁の閉店へ
商圏内の人口減少と郊外型の大型商業施設の相次ぐ出店。これに伴って商業活動の中心だった中心市街地は商店街が衰退し、郊外の大型商業施設などとの競争激化などから減収に歯止めがかからずテナントからも退店や条件変更の申し出が増え、収益改善を見込めないと判断し、営業継続を断念することになります。今後10月に予定される消費増税が逆風になってシステム改修などのコストがかさむことが見込まれ、不採算店舗の整理が進む懸念があります。
地方百貨店にとっては地元客だけでなく、中心市街地に近い駅を利用する旅行客などの利用も少なからずありましたが、自動車の保有率が高い地域では、駐車場が少ないことから車でのアクセス性の高い商業施設が次々に建設されることで顧客が流出したほか、インバウンド需要もあまり見込めず、人口減少による市場の縮小に加え、「買いたいものがない」という消費者の百貨店離れなどライフスタイルの変化と顧客ニーズが様変わりしたことも大きいといえます。そもそも地域のニーズに合った品ぞろえやテナント誘致という原点も疎かにはできません。
さて、百貨店が撤退すると地域にとって空洞化がさらに深刻になります。特に地方都市の百貨店は古くからその地域に存在し、営業しているものも多いことから老朽化が激しく、耐震化の費用負担が重荷となって解体される例もあります。下表のように昨年から今年にかけて閉店、または閉店が予定されている店舗は実に20を数えますが、跡地や建物の利用が未定な店舗、検討中の店舗も多く、そのまま施設が利用されて商業施設がオープンする例は2割ほどです。
(資料:各社WEBなどを基に筆者作成)
地域にとっても閉店後は施設の営業継続や中心市街地の活性化が鍵となりますが、8月25日に閉店が予定されている大和高岡店では、空きフロアーとなる2~5階は高岡市が新たな公共スペースへの設置を検討していく意向のほか、6階以上にある公共スペースなどは維持するといいます。2018年4月にオープンし話題となっている宮崎県の都城市立図書館も大丸百貨店の跡地をリノベーションしたものですが、自治体が公共的な施設として利用する例も増えるでしょう。
空きフロアーには市が公共スペースの設置を検討する大和高岡店(富山県高岡市)
生き残りへ市の支援や地銀とのコラボ、地域産物の活用
実際に9月に閉店が予定されている伊勢丹相模原店の場合、相模原市が建物を所有する三越伊勢丹ホールディングスに対し、店内を通過する図書館や公園への歩行者動線の確保、公共施設につながるデッキの継続利用、街の新たな顔となる商業施設などを求めています。市も相模原の街の顔として地域や商業をけん引してきただけに、地域住民にとっても百貨店の都市機能として重要な回遊性を維持できるように考えていく意向といいます。
また、茨城県那珂市は水戸京成百貨店と地域社会の振興に向けた取り組みを推進するため4月に相互連携・協力に関する協定を締結しました。活力ある地域社会を構築するとともに、両者の発展と地域に密着した社会への貢献、振興に資することを目的としています。一方で、静岡県の遠鉄百貨店は地域の自治体とコラボレーションして、地域の百貨店としてご当地グルメなど「ふるさと納税」のお礼品を提案し、地域の元気を応援するプロジェクトを展開しています。
そうしたなかで注目される動きは、近鉄百貨店が3月11日に奈良県の南都銀行と「地域商社事業」に関する連携協定を結んでいます。奈良県の地域産品の販路拡大を両社が協力しながら後押しするもので、南都銀行では近鉄百貨店に生産者を紹介したり、新たに商品開発を行う場合の資金調達への対応を検討したりするほか、商談会の実施や生産者の事業化計画の支援を両社で協力して行う意向です。
■地域商社事業
地域には、まだまだ知られていない農産品や工芸品など、魅力ある産品やサービスが数多く眠っています。こうした地域の優れた産品・サービスの販路を新たに開拓することで、従来以上の収益を引き出し、そこで得られた知見や収益を生産者に還元していく「地域商社事業」を、地域に育て、根付かせるため、様々な角度から支援活動を行っています。
同百貨店は、既に2018年より地域社会と共に成長・発展する地域共創型の百貨店として、「地域商社事業」の取り組みを開始し、3月に奈良店の地階フロアーにはコンセプトショップ「大和路」がオープンしています。11月には、地域商社事業の第1弾として、明日香村や山添村など4 つの自治体や生産者と取り組んだ 11 の奈良の新たな名産品が誕生しているほか、2019年1月には6つの生産者と取り組んだ21 の商品も販売されていますし、橿原店、四日市店、草津店、和歌山店などにコンセプトショップがそれぞれオープンしています。
(資料:近鉄百貨店ニュースリリースより)
以前は街のランドマークでもあった地方都市における「一番店」の百貨店は物を売るだけでなく、地域のコミュニティとして人の流れをつくり、地域文化を支えてきましたが、2020年以降も地方都市においては、閉店の流れを止めることは厳しいと予想されます。今後、市や地銀などとの連携協力による商品開発や販路拡大をはじめ、地域ならではの特徴を鮮明に打ち出すなど新たな基軸、施策を講じていくことが望まれますし、閉店になった場合でも中心市街地のにぎわいを絶やさないような建物や跡地の利用が期待されます。