地方創生を目的として2015年に創設された株式会社日本人材機構は、 地方の企業に対し、さらなる発展に必要な人材ソリューションを提供し、地域経済の活性化を目指しています。 本コーナーでは代表取締役社長の小城武彦が、岩手県洋野町の“水産ベンチャー”株式会社ひろの屋の下苧坪之典社長と、 同社を「月10日勤務」でサポートする神山治泰さんをお迎えし、新しい人材と企業の活性例に迫ります。
下苧坪之典(したうつぼ・ゆきのり)
1980年生まれ。岩手県洋野町(旧種市町)出身。八戸学院大卒業後、カーディーラー、保険会社などを経て、2010年に株式会社ひろの屋を設立した。同社代表取締役。昨年はTBS系列の人気テレビ番組「林先生が驚く初耳学!」にも取り上げられるなど、メディア出演も多数。通称 「北三陸の海男児」 。
神山治泰(かみやま・はるやす)
1970年生まれ。東京都出身。東海大学卒業後、大手自動車メーカーに勤務し、設計などを担当する。水産加工会社に転身し、在籍最後の5年間は代表を務めた後、 2016年に独立した。17年6月から、株式会社ひろの屋でのキャリアをスタート。今年2月には新規開発した商品が、岩手県知事賞を受賞した。
神山さんを「ひろの屋」に迎え入れたワケ
小城:神山さんは、弊社からの紹介で昨年6月からひろの屋さんでの仕事を始められたわけですが、最初に話を聞かれた時はどのように思われましたか。
神山:知らない地域でしたが、日本人材機構の方から「チャレンジしがいのある案件がある」と熱く誘われ、下苧坪社長とお会いしました。そうすると、さらに熱い方で(笑)。熱意と情熱と夢があり、この社長は成し遂げるだろうという気になりました。
小城:講演等でよく言っているのですが、 首都圏で活躍されている方を、知らない地方の企業に紹介する際、最強のキラーコンテンツはオーナーであると思います。いかに熱く語れるか。いろいろと地方への転職のハードルが挙げられますが、そういうのを軽々と超えていける可能性があるのは、やはり、オーナーの一言なのです。
小城武彦(おぎ・たけひこ)
1961年生まれ。東京都出身。東京大学卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。 97年カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。代表取締役常務などを経て2004 年株式会社産業再生機構入社、カネボウ株式会社執行役社長(出向)。07年丸善株式会社(現丸善CHIホールディングス)代表取締役社長を経て、15年より現職
下苧坪:自分とは真逆の人だなと思ったのが大きかったです。自分はただ突っ走るタイプですけど、神山さんは慎重に突っ走る。感覚が違って、物事の見方が違って、ロジックも違う。こういう人と融合していくことで、前に進む大きな力が生まれるのではないかと思いました。
小城:神山さんのご経歴を教えてください。
神山:大学を卒業して、大手の自動車メーカーで 10年ほど設計をしていました。その後、結婚を契機に水産加工会社に入ることになりました。そこで 15年仕事をして、最後5年は代表もやらせてもらいました。次 は違うことをやりたい。そういう中で、今回のお話をいただいたのです。
「月5日」から始まった、生活の拠点を東京から変えないワークスタイル
小城:当初は「月5日」という勤務スタイルでした。
下苧坪:設立7年の自分たちの会社では、まだまだ神山さんのような人をフルタイムで雇えるような給料は出せない。でも、人材としては優秀な人が欲しい。そんな中で、日本人材機構さんと相談を重ねた結果、「月5日」ということになりました。
神山:自分としても、「月5日」というスタイルは入りやすいところがありました。拠点を東京に置いたまま、働くことができますし。
下苧坪:ウニの漁期以外に加工場をどう稼働させるか、あるいは工場の生産効率の改善をどうするか。そういうところをお願いしていたので、「月5日」とはいっても、東京にいる時も、いろいろ考えてくれていたと思います。その結果、今は「月10日」でお願いしています。
会社を大きくし、雇用を増やし、地域をよくする
神山:この地域に来てみて、いろいろと魅力的なものがありました。例えば、ワカメ。ワカメはほとんどが養殖で、天然物は3パーセント程度しか流通していない。ここには素晴らしい天然ワカメがあって、今まで食べたことのないくらい風味豊かなものでした。新商品にこれを入れない手はないと思い、商品化を行いました。
下苧坪:このエリアはブランディングが下手なんです。例えば、ここには本当においしい椎茸があります。それで、その椎茸を他地域の業者が買い、他地域で商品化してブランドそのものを他地域の原産地として流通させていたりする。地元としては焦っているところもあるし、「このままでいいや」と思っているところもある。私としてはそのあたりを変えたいんです。
神山:地域をよくしたいから、地域の雇用を増やそう。そのために、まず自分の会社を大きくしたい。社長は経営者以上の地域のリーダーとしてのビジョンを持っている。 そういうところに触れて、自分もこの地域をよくしたいと思うようになりました。
小城:そのあたりは、地方で働く醍醐味だ と思います。自分が活躍すれば会社がよくなる。会社がよくなれば地域全体にいい影響を与える。こうしたことは、なかなか都会では感じられないものだと思います。
下苧坪:北三陸ファクトリーというブランドを作ったのも、そういうところが大きくあります。地域と水産業の未来を創ることこそが、会社の発展につながります。
神山:これまで「素材ありき」一辺倒で、 それは当然大事にしていきつつも、もう少しさじ加減が必要だなと感じていました。 加工商品を開発していくことで、工場の稼働率が上がって地域の雇用を生み出せる。 元々、給食センターだったのを改修した工場なので、万全な体制とは言えないところがありますが、だからこそ、生産環境の改善はやりがいがある。時間と金が掛かるので、じっくりじっくりですが、いずれは工場がフルに稼働して地元の人が働ける環境にしていきたい。
小城:地域とともにという意志は素晴らしいですね。最後に、下苧坪社長には「都会人材を受け入れる」とはどういうことか、 神山さんには「地方で働く」とはどういうことか、ご意見を聞きたいと思います。
下苧坪:神山さんを迎える時、膿を出し切ろうと思ったんです。旧知の人間だけでやっていくと、どうしても楽なほうを選ぼうとしてしまう。外から人が来て、しかも東京の最前線でやっていた人が見てどう思うかを真摯に受け止めて、自分も含めて前へ進もうと思ったのです。まだ膿は出し切れてはいませんが、神山さんが「気付き」 をくれるので、社員からも「やりましょう」 という雰囲気を感じるようになりました。
神山:地域の企業すべてがそうではないかもしれませんが、(大企業的な)一つのコマ的な働き方とは違って、広く仕事を任せてもらえるところは大きい。自分のようにパートタイム的な働き方は、生活の拠点を東京から変えずに地域の発展に携われますし、 いいワークスタイルだなと感じています。
株式会社ひろの屋
2010年(平成22年)創業。洋野町産天然うに・北三陸の天然わかめ・蝦夷あわび・鮮魚、北三陸ファクトリー製品の開発および販売を事業内容とする。企業理念は「北三陸から日本、そして世界へと価値のある地域ブランドを創造する」。日本国内での展開はもちろんのこと、台湾、ハワイ、香港、アメリカへ北三陸食材を輸出するなど海外展開も積極的に行う。
- 設立
- 2010/5/18
- 代表者名
- 下苧坪之典
- 従業員数
- 20名(うち正社員12名)
- 資本金
- 300万円
- 事業内容
- (1)岩手県洋野町の「うに牧場?」でとれた北紫ウニの加工と販売
(2)海藻・魚介類の加工と販売 (わかめ・蝦夷アワビ・ホヤなど)
(3)地域資源のブランド化商品「北三陸ファクトリー」の製造販売
- 業種
- 水産加工業(食品製造業)
- 住所
- 岩手県九戸郡洋野町種市22-131-18