アイデア創出 IGNITE! Vol.5レポート
花岡 美和
2018/06/12 (火) - 07:00

異業種、多ジャンルの有志が月に1回集まって、それぞれが興味をもったテーマを選び、実際のサービスをつくっていく1年間のワークショップ「IGNITE!」(イグナイト)。
シェアオフィス&コワーキングスペース「富士見 森のオフィス」(長野県諏訪郡富士見町)が主催するIGNITE!は、ありそうでなかった新しいスタイルのイベントとして口コミで広がり、5回目となる今回も参加者のうち約3分の1が初参加という、注目のイベントになってきました。

セカンドステージのテーマは「アイデアの創出」と「チームビルディング」

今回からいよいよセカンドステージです。
セカンドステージのテーマは「アイデア創出」と「チームビルディング」。今回の山場は、ファーストステージの締めくくりとして取り組んだ「ホームワークシート」の発表でした。

「何をするの?」「誰のために?」「なぜやりたいの?」「実現のために必要なものは?」

ホームワークシートの4つの問いに答えていくと、自然とアイデアが創出されるようになっています。
後半の発表会の前に、こちらも今回の目玉である、GREEN FUNDING by T-SITE(以下、GREEN FUNDING)の代表、沼田健彦氏が登壇。「成功するサービス・失敗するサービス」をテーマに、サービスの企画立案を行う際のポイントについてお話がありました。

仕事柄、7年で1万人近い人たちからひたすらアイデアを聞いてきたという沼田さんの、実学ともいえる貴重な体験談と分析は、自分たちのアイデアのブラッシュアップにぜひ反映させたいところ。沼田さんの登壇で参加者の集中度が一気に上がりました。

世の中の目利きが見落としている「3割」に隠れたヒット商品がある

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GREEN FUNDING by T-SITE代表(株式会社ワンモア代表取締役CEO)/沼田健彦。GREEN FUNDINGの立ち上げから7年。その間に約1万人のアイデアに触れてきた、アイデア見極めの達人。クラウドファンディングで重要なことは「人と人の縁」「想い」「コンテンツの質」だそうです。

お話の冒頭、「3割」というキーワードが示されました。

このファンディングはいけるか・いけないかを予測したとき、7割方は当たるけれど、残りの3割は「僕らの想像を超えたもの」だと沼田さん。これは世の中でもよく起きていることで、ベテランバイヤーも実は3割くらいを見逃しているのではないかと沼田さんはみています。
つまり、「俺はメッチャほしい!」という極端なニーズは世の中から消されやすいのです。ところが、「俺はメッチャほしい!」というプロジェクトをクラウドファンディングにのせてみると、意外にも同種の人たちが一定数いて、商品化あるいは作品化するために十分なお金が集まったりするのだとか。

「目利きの人たちの判断は両極端のニーズをカットしている可能性がある。そのカットされた3割の中に実は隠れたヒット商品があって、世の中はそれを見落としがちなのではないか」。これは沼田さんが最近感じていることのひとつだそうです。

マーケットイン ――顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ

「そもそも、世の中に受けるアイデアとそうでないアイデアがある」と沼田さん。
世の中に受けるアイデアとはつまり「マーケットイン」。マーケット側が求めているものをアイデアとして提供すれば、買い手に必要とされているので当然購入してもらえます。
これに対して、作り手側の発想で開発・生産・販売する「プロダクトアウト」は、クラウドファンディングでは結果が出づらいそうです。

プロダクトアウトの一例としてあげられたのは、地域や生活様式を限定したサービス。
「この地域で〇〇してみたい」「出産直後のママは〇〇で困っているから、それを解決するアイテムをつくりたい」といった、地域や生活様式(ライフスタイル)を限定した発想は、むしろ自らターゲットを狭くしている可能性がある。なぜなら、お客さんがこういっていた、友達がそういっていた、私自身がそう思った、そういう人を見かけたなど、ミクロからニーズを発見していく人は、それが世の中の全員に当てはまると思い込んでしまうケースが多いからだそうです。

もちろんニッチが強みになることもありますが、クラウドファンディングではビッグプロジェクトになりにくいパターンだそうです。

GREEN FUNDINGの母体であるTSUTAYAの増田宗昭社長には、「顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ」という行動指針があるそうです。
人に聞いて出てくるニーズは、すでにサービス化されていることが多い。既存のサービスとの差別化を図ろうとすると細かくなりすぎてしまう。だからこそ、顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ、というわけです。

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「それって本当?」 ――自分が思う「真実」を捉える

自分の企画・アイデア・商品がマーケットインかプロダクトアウトか。ここは感情を抑えて冷静に分析しておきたいところ。そのときもっておきたいのは、自分が思う「真実」を捉えることだと沼田さんはいいます。

有名なコンサルタントが提唱する何とかモデル、メディアでの「〇〇な消費者が増えている」という情報、それらは間違ってはいないでしょう。しかし、マーケットインを狙っていくなら、視野や視座や視点を変えて「それって本当?」と自分に問いかけてみること。これが沼田流の、自分が思う「真実」を捉えるやり方です。

「自分が捉えた真実が必ずしも合っているとは限らないけれど、これが真実だと自分が思うことを発見して、そこの先にサービスを考えていくことがだいじだと思う」

難しく考えるのではなく、もっと人間の欲望を素直に見つめてみる。沼田さんからのアドバイスです。

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アイデアを受け入れてもらうためのドキュメンタリークリエイティブ ――「ボケ」と「アレオレ」と「個の時代」

マーケットインなアイデアがあるとして、それをどうやって世の中に受け入れてもらうか。成功するサービスのコツとして、ここは重要なポイントです。その例として、一昨年のグラミー賞の音楽大賞に選ばれた作品に話が及びました。

実は、受賞した4作品はすべて、世界最大のクラウドファンディングKickstarterを使ってつくった作品でした。なぜKickstarterを使ったか。アメリカではいま、クラウドファンディングで多くの人から支援された作品はヒットするだろうという視点の仮説が生まれているからです。

いまのような「個の時代」に求められているのは、誰が、どんな想いを込めてつくった商品(サービス)かという「個」へのコミットだと沼田さんはいいます。

〇〇制作委員会がつくった作品ではなく、〇〇さんがつくった作品。〇〇さんはなぜこの作品をつくったのか、そこにどんな想いが込められているのか。支援者が一番気にするのはそこです。
だからまずは「こういう作品をつくりたい」とプレゼンして、徐々に支援者が固まってきたら、その人たちと一般販売を迎えたほうが良い結果になる。いい換えれば、“関係性を買いたい”と思わせるアイデアが求められているのです。

このとき、コミュニティツールとして必須なのはSNSでの拡散。しかも、ただ拡散するのではなく、“関係性を買わせてあげる”という発想がSNSを通じた広がりを生むのだとか。沼田さんはこれを「ドキュメンタリークリエイティブ」という造語で表現していました。

ドキュメンタリークリエイティブのポイントは「ボケ」と「アレオレ」。
SNSでは“完璧な自分”は敬遠されます。結局のところ口コミを起こすのは「ボケ」や「頼りなさ」。ボケに対する「なんだよそれっ!」という突っ込みが関係性をつくっていきます。
つまりは「目指せ指原」。HKT48の指原莉乃さんの絶妙なボケ加減は、ファンや支援者をつくっていくときの良い手本になるだろうとのことでした。

一方の支援する側には、「アレを手伝ったのはオレ」といいたい「アレオレ」な人が増えているようです。「俺があいつを応援してやったから上手くいった」という支援者心理を逆にいかして、いかに「アレオレ」という気持ちになってもらうかでコミュニティに巻き込んでいくのです。

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マグネットデザイン ――成功するサービスのコツは「人が集まる」こと

話のまとめとして、沼田さんの先輩でもあるスペースコンポーザー、谷川じゅんじさんの「マグネットデザイン」という言葉が引用されました。

「人が集まればなんとかなります。人が集まる、イコール人気(ひとけ)がある。つまり人気(にんき)がある。人とお金は寂しがり屋だといわれます。人が集まることさえつくれたら商売が成り立つ時代になってきています」

マーケットインにしても、ドキュメンタリークリエイティブにしても、主役は常に「人」。自分の原体験をいかに相手の心に届くように表現するか。成功するサービスの極意はここにありそうです。

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自分とは違った視野・視座・視点でアイデアをブラッシュアップさせる

後半は、ホームワークシートを使ったグループディスカッションからスタート。もち寄ったアイデアをグループメンバーの視点で練り直したり、沼田さんのお話を知恵として足してみたりと、活発な20分間でした。

あるグループでは、「飲んだ量がわかるストロー」というアイデアについて積極的なディスカッションが見られました。
アイデアのきっかけは前回の地域課題。福祉施設の職員さんから、入居者の水分摂取量を把握できたらとても助かるという話を聞き、1日に飲んだ量がわかるストローなら活用できるのではないかと考えたそうです。

このアイデアに対してグループ内からは、「スポーツ用にも使えそう」「お酒はどうだろう」「ビールは水分の扱いか」「でもビールはもともとストローで飲まないよね」と、どんどん話が広がった結果、用途は色々考えられるとして、お金を集める切り口は福祉以外にもありそうだという意見でまとまったようです。

沼田さんからは、「企業向けに考えたストローを2C(消費者向け)にも使えそうだという視点はとても面白い」との感想がありました。2B(企業向け)の商品は地味な印象になりがちなので、2Cで展開してから2Bに売り込むほうが成功するケースが多いそうです。

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最後はお互いのアイデアを評価し合うワイガヤタイム。ホームワークシートが貼られたホワイトボードの前に集まって、二種類の評価シールでそれぞれのアイデアを評価していきます。
「いいね!」と思ったアイデアには水色のシールを、「興味がある!」「一緒にやってみたい!」と思ったアイデアには、ピンクのシールに自分の名前を書いて貼っていきます。

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ワイガヤタイムはいつも和気あいあいとした雰囲気ですが、今回は緊張の時間でもありました。自分のアイデアが人からどう評価されるか。受け入れてもらえるか。興味をもってもらえるか。「いいね!」シールが貼られた自分のワークシートを見ていた参加者に感想を聞くと、「会社ではなかなかできない経験です」と嬉しそうでした。

ピンクのシールは「自分も関わってみたいです!」という参加表明でもあるので、貼る側も緊張したようです。ワークシートを1枚1枚、真剣に読んでいく参加者たち。けれどワイガヤが進むにつれて意見交換も活発になり、ぽつぽつとピンクのシールが貼られていく頃には、会場のあちこちでアイデアに込めた想いを語り合う姿が見られました。

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「IGNITE!」というアイデアを参加者がカタチにしていく

ところで、こうしたIGNITE!のやり方にモデルケースはありません。実はこのイベントは、森のオフィスを運営するRoute Designのメンバー(津田賀央氏、松井彩香氏、松田裕多氏)が立ち上げたideado(イデアド)という自主プロジェクトチームのオリジナル企画。この3人に加え、IGNITE!参加者でもある数人のメンバーで毎回コンテンツを考えています。

たとえば今回は、後半の最初に全員でプチプレゼンをする予定でしたが、企画会議の際に参加者側のメンバーから、「それではみんなが緊張して話し合いが盛り上がらないかもしれない」という意見が出たそうです。そこで、まずはグループディスカッションの時間を設けようとなり、結果的に話し合いは大いに盛り上がりました。

「アイデアをカタチにしていく」がテーマのIGNITE!。主催者のアイデアに参加者の視点も取り入れることで、より参加しやすいイベントにブラッシュアップされ、それが口コミとなってコミュニティが広がっていく。これは、沼田さんのお話にも通じる“成功するサービス”の流れでもあります。
森のオフィスで生まれた「IGNITE!」というアイデアは、回を重ねるごとに着々とカタチになっているようです。

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