FILE.03/マーケティングとチームビルディングで組織の強化とさらなる地域貢献を
信州100年企業創出プログラム事務局(信州大学 学術研究・産学官連携推進機構)
2019/05/01 (水) - 08:00

国立大学法人信州大学など4法人によるコンソーシアムは、中小企業庁のモデル事業として、長野県の次代を担う「100年企業」創出を目指す新しい地域活性事業「信州100年企業創出プログラム」を2018年6月から実施した。
コンソーシアムには信州大学のほか、政府系人材サービス会社の株式会社日本人材機構、地域活性学会における成果の社会還元を担う一般社団法人Lamphi(ランフィ)、信州地区を代表するシンクタンクである特定非営利法人SCOPが名を連ねる。
首都圏などで高度な専門性を持って活躍している人材を、信州大学の「リサーチ・フェロー(客員研究員)」として受入れ、受入企業の課題解決と持続的成長のシナリオ作成に挑戦する本プロジェクト。
今回、この取り組みに参画した企業6社およびリサーチ・フェロー6名に、約半年間に渡る研究・実践活動の成果について伺った。

受入企業

株式会社松本山雅
代表取締役社長 神田 文之さん

ICTソリューションの経営課題解決力と士気を高める体育会系キャラに期待

私たちは松本市周辺をホームタウンとするJ1リーグのサッカークラブ・松本山雅の運営と合わせ、育成組織のサッカークラブ運営や、サッカー以外の活動を地域で展開するホームタウン活動にも取り組み、地域の活力になるような事業をめざしています。そんな当社は、私も含め松本山雅の元選手も働くものの、意外とワイワイと楽しむ体育会系要素が薄い状況で、もう少しクラブのスローガンである “One Soul” を体現できる雰囲気をつくっていきたいと思っていました。そうしたなかで今回のプログラムのマッチングを担う日本人材機構の担当者から薄隅さんを紹介され、NTTで培ったICTソリューションによる経営課題解決の経験と、長年アメフトをやっていたキャラクターにより社内の風土をさらに高めてくれる骨太感に期待感をもちました。というのも、実はかつて一度、薄隅さんとはお会いしたことがあったのです。当社はCRM( 顧客管理システム)の活用法でも悩んでいたことから、日本人材機構の担当者より、当時NTTで働いていた薄隅さんを法人営業担当としてご紹介いただいたからです。話を聞くと、NTTのパッケージ提案ではなく、想像以上に当社に踏み込んだ提案をしてくれました。その後、実は薄隅さんがNTTを退社しスポーツビジネスの世界に飛び込みたいと考えている話を聞き、改めてリサーチ・フェローとして面談をしたところ、当社に足りないところと彼がスポーツビジネスで歩みたい道が重なったため、迎える流れとなりました。

社内の明るさと横並びの関係を構築
今後はさらなるリーダーシップに期待

当社はここ数年、社員を増やし分業化を進めてきましたが、ワンフロアで働くにも関わらず、社員が多くなった分、意思疎通が図りづらい状況でもありました。積極的に声をかける人がいないとコミュニケーションが促進されないと考えていたなかで、薄隅さんは社内の飲み会などオンとオフをうまく使い分けながら、仲間づくりや社員の横並びの関係性を築いてくれています。おかげで社内が明るくなり、「これをやりたい」というチャレンジの風土が少しずつ育まれています。ただ、リーダーとしては苦言を呈さなければいけない場面もあるなかで、どうしてもよくないことは改善しろと言わなければいけない私の立場を彼がサポートしてくれると、私自身はもっとクラブの先を見据えた仕事に目を向けられます。今後は上下関係なくたくさんの社員を巻き込みながら、一体感のある経営のために尽力してくれることを期待しています。特に今は2019シーズンのホームゲームの集客施策といったマーケティングの方向性を3月までに決める時期。そこで薄隅さんのキャラを生かして社内外で意見を出し合い、キャッチーなフレーズも使いながらコンセプトを作ることに期待しています。
また、4月以降は薄隅さんにチケット担当の部署をお任せする予定です。そこで今後は前職で培ったノウハウを業務に落とし込んでもらい、当社の事業を広げていきたいと思っています。J1に昇格したことで地域の影響力も確実に変わりますし、これからさらにやるべきことが増えるチャンス。一方で、地域の楽しみや賑わいの創出が松本山雅の成り立ちの原点で、J1のクラブでも本質は変えてはならず、さらなる地域貢献を事業として考えています。強いクラブであるだけでは浮き沈みもして経営も安定しません。当クラブの存在意義を今まさに色濃く出し、地域とともにどうあるべきか考え、地域で共有する機会にしたいと考えています。非常によいタイミングで人材補強ができたので、経営にも生かし突き進みたい気持ちです。

長野県民とは異なるユニークな個性のリサーチ・フェローの受け入れで地域をもっと元気に

長野県民は非常に真面目で実直で温かい雰囲気ですが、薄隅さんのように信州人とは少し異なる明るい体育会系のキャラクターを各企業でしっかり受け止めることで、いろいろな化学反応が見られるようになるでしょう。多くの企業がリサーチ・フェローを受け入れることで、一緒に長野県を活力ある地域にしていきたいと考えています。


リサーチ・フェロー(客員研究員)

薄隅 雄樹さん

東京都出身、松本市在住。NTTで9年間、法人営業を担当し、ICTソリューションによる経営課題解決に従事。金融業界、製造業界のほか、スポーツ業界(スポーツメーカー、Jリーグクラブ)を担当し、J1リーグ・松本山雅FCのCRMの活用法提案を任され、次第に同クラブに魅了される。2018年12月、以前から興味があったスポーツビジネスの業界に飛び込むために退職。高校から社会人リーグまで10年間アメフトの選手としても活躍。現在は立教大学アメフト部のコーチも担当。

前職の営業から松本山雅の魅力を実感
クラブと地域に貢献したい思いで応募

NTTで 9 年間、法人営業を担当し、最後の2年間は大阪でスポーツチームの営業担当のなかでもJリーグのクラブチームの活性化をミッションとしていました。そして、当初はCRMの活用法の営業担当として松本山雅に関わっていたのですが、試合にご招待いただいたり社長と話をするうちに、満員のスタジアムで老若男女が一生懸命に応援する独特のサポーター層や、市民クラブとして地域住民に支えられ今も一緒に歩んでいる歴史などを知り、市民にとって生活の一部になっているクラブの魅力を実感しました。これはもっと発展できる。そう可能性を感じたなかで、私自身、もともとスポーツビジネスに携わりたい思いはずっともっていたことから、ITでしか関われない限りあるNTTの仕事を辞め、松本山雅に入ってサポーターとFace to Faceの付き合いから学びたいと思ったのです。そうしたなかで、今回のプログラムのリサーチ・フェローとして私より1カ月前に参画した星野さんの活躍もあり、社長がもう一人リサーチ・フェローを探していると聞き、このクラブに貢献して地域を活性化させたい思いで応募しました。

CRMやITから考えるクラブの未来と社内の横連携や一体感の創出

当初はもともとCRM の営業をしていたこともあり、クラブの保有しているデータの活用と顧客獲得というマーケティングが私に与えられたミッションでした。そこで既存のデータを1から調べて分析し、大学の統計学のフォローも受けつつ、ターゲットを絞ってソリューションを考え、効果の検証に取り組んでいます。今、クラブの一番の支えは40代の層ですが、彼らが高齢化しても元気よくスタジアムに足を運んでもらうために、松本山雅を通して元気になってもらえる事業が今後必要ではないかと社長には話しています。実際にCRMの活用でシニア層に配慮したイベントも考えましたし、今後はキャッシュレスなどITを使ってファンの利便性を高めたり、付加価値を提供できるものを考えていけたら面白いと思っています。
一方で、もう一人のリサーチ・フェローである星野さんとも連携を図り、部署間の横串を刺すことは意識しています。そして、社長の声を一人ひとりに伝え、意見を吸い上げながらフォローすることで話しやすい雰囲気を社内につくり、全員が同じ方向に向かうチームビルディングも心がけています。その結果、より社内で具体的に方向性を共有できるようになりつつあり、やりがいを感じています。

同じ目線で働くことで信頼関係を構築 
今後はさらなる社内の連携強化が課題

実は松本に来る前は、縁もゆかりもない地方都市でNTTという看板を下ろした自分が勝負していかなければいけないことや、ほかのリサーチ・フェローと違ってコンサルや起業の実績がなく営業経験しかなかったことに不安を感じていました。しかし、この地域独特の気風なのか、最初は仕事ベースの付き合いをしようと思っていたものの、きちんと話をし、同じ目線で汗を流して同じ飯を食うことで信頼関係が構築されたと実感しています。そうしたなかで社員の皆さんと話すと驚くほどクラブへの思いが強く、やりたいことも考えていることから、今後は社員の声をもっと引き上げて横の連携を強化し、社長に対してもより提言していくことが課題です。同時に、生活の拠点を松本に移したこともあって人の温かさを実感しており、サポーターから声をかけられる機会も多くなったことは嬉しく感じています。

人脈を広げてクラブの方向性を見出し今後は経験を生かし正社員として活躍

今は営業担当やホームタウン活動担当に同行し、集まった行政関係者や地域の方、サポーターの方々にインタビューをして意見を聞いたり、新たな人脈を広げるためにもゴミ拾いなど地域コミュニティーの活動に積極的に参加し、交流しながら松本山雅への思いを聞いて今後の方向性のヒントにしています。この自由度の高さこそが、今回のプログラムの魅力。自分が思うところにアプローチできるよさを感じています。
4月以降は社員として内定しています。経営戦略立案に長けたほかのリサーチ・フェローの方々との交流から学んだことや大学で勉強したナレッジを、今後も活用していけたらと考えています。


[ 受入企業 紹介 ]

業種/サービス業
株式会社松本山雅(松本市)

松本市、塩尻市、山形村、安曇野市、大町市、池田町、生坂村をホームタウンとするJ1リーグ加盟の「松本山雅FC」の運営会社。農業や健康教室、サッカー教室、運動会や地域活動の参加などさまざまなホームタウン活動も展開。


リサーチ・フェローのミッション

マーケティングの仕組みの体系化・CRM活用の活性化、現在および未来のターゲットや方向性の軸の明確化、社内の部署間の連携強化・共通認識をもって推進する仕組みづくり(チームビルディング)

現状分析

「社内外でコミュニケーションを図り、今後さらにクラブが地域に貢献するための新たな仕組みやアプローチを考えています。」(薄隅さん)
クラブが保有するデータを調べて分析し、ターゲットを絞ってソリューションを考え、効果の検証に取り組んでいる段階です。サポーターのメイン層である40代の高齢化を見据えた取り組みや、現在のシニア層に向けたイベントなども企画。また、社長の声を一人ひとりに伝え、意見を吸い上げながらフォローすることで話しやすい雰囲気を社内につくり、部署間の連携を図っています。加えて、ホームタウン活動や地域イベントへの積極的な参加で人脈を広げ、情報収集から今後のクラブの方向性を見出しています。


近い将来の未来ビジョン

・既存データの分析からCRMの活用法やマーケティングの基本方針を設定、プロモーション戦略と事業戦略の立案と実行
・部署間や幹部と社員の共通認識の構築、組織全体のパフォーマンスの引き上げ
・ITを使ったサポーターの利便性向上を提案

未来シナリオ

松本山雅が地域の人々の生活の一部になっていることや、地域の象徴や誇りであることは、地域の人たちが支えたクラブチームの成り立ちからの積み重ねによるもので、地域と一緒に歩んできたクラブチームという認識はこれからも変わってはいけないものだと感じています。それをベースに、今後、さらなる地域密着や地域貢献を踏まえてサッカークラブやスポーツの枠から広げ、より地域の人々の魂になるような事業展開もしていくべきかを模索している段階です。そのためにも、現時点では私に与えられているマーケティングの強化とチームビルディングというミッションを社内でコミュニケーションを図りながら進め、未来シナリオという長期的視点からのプランニングに少しでも方向性を示せるよう、松本山雅の展望を定めていくことが今後のめざす姿です。

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