1. 人口減少で発生する民間撤退と協同組合
人口減少社会においては、地域内経済の縮小が発生しているところからは生活サービス産業が続々と撤退していきます。スーパーといった購買機能から、開業医といった医療サービス、近年でいえばバスや鉄道といったインフラもかかるコストに対して売上があまりにも少なくなり維持が困難となっていきます。特に民間企業の場合には、事業可能な範囲は極端に言えば地球上どこでも可能であり、より成長の見込みのある地域に投資資本は移動していきます。
一方で人口減少にあっても地域産業としての成長の余地はいくつもあります。農業でも付加価値を上げることで単価が改善して一人あたりの農業所得を改善したり、観光客の増加に対応して景観を活かし、地元の食材を活用したレストランや宿泊施設などの事業機会で成長することも可能です。人口が減少しながらも地方の成長戦略は可能な反面、そこで働く人達が必要とする生活サービスをどう維持するかは、公共だけでは事業性が失われすぎてしまい、民間企業だけでは事業性優先で地域を選択しないため、地域共益的なレイヤーでの事業体の存在が重要になってくると考えます。
いくら人口減少するといっても、いきなりゼロになるわけではなく、地域内需要は一定量維持されていく地域が多くあります。そのような属性で機能する一つの枠組みが協同組合です。出資金を出し合い、個人ではない事業を皆で形にし、非営利ながら利益を適切に配当することが可能なモデルです。地域の中で資金を出し合い、必要なサービスを維持していくのに全国各地で協同組合が大きな役割りを果たす事例が多数存在しています。
しかしながら、一方では地域生協などを“小売流通”的な役割りでしか認識されておらず、地域の抱える課題解決における重要なプレーヤーとして、適切に捉えられていません。当然ながら組合員事業を営む存在のため、不特定多数へのサービスはできないのですが、世帯カバー率が1/3を占めるような地域団体や企業は多くありません。今後の自治体のパートナーシップ先として、また地域内事業の主体として新しい協同組合のあり方などを積極的に模索する段階にきていると考えます。
2. 地域共益経済が作り出す特徴
協同組合が地域共益経済的な存在として持つもう一つの重要な機能があります。それは地域の所得向上のメカニズムです。
地方の平均所得向上が叫ばれて久しいですが、地域内平均所得向上には、労働所得と資本所得の両面からのアプローチが必要になります。往々にして地方活性化では事業を作り、労働所得を作り出す(雇用創出)が叫ばれますが、実際にはそれだけでは不十分で、事業によって発生する利益の一部が働く人たちや地域の人たちに配当されていく必要があります。つまり事業資本の一部が労働者や地域の人々から拠出され、利益の一部が配当分配され所得になっていく仕掛けが大切であるということです。
このときにも地域共益的な存在である協同組合の出資、配当のメカニズムは地域内の平均所得向上に寄与する仕掛けとなります。
3. スペインバスクにおける協同組合の活躍
スペイン・バスク自治州は、スペイン国内でも平均所得が高く、失業率が低い地域ですが、モンドラゴン協同組合企業連合など10万人規模の雇用人数を誇る協同組合グループがあります。協同組合はあくまで日本国内であれば都道府県、海外でも各州などの自治体単位に事業範囲が限られるため、グローバル企業のように利益を海外に投資したりしません。あくまで儲けは組合員へ配当したり、自分たちの地域に再投資されます。バスクで郊外に展開されている大型ショッピングモールもまた、EROSKIという協同組合経営なのです。地元の消費によって生じる利益はまた地元に戻っていくようになっているわけです。また所得格差も最低賃金と最高賃金との差を5倍に設定するなど、所得のばらつきを減少させ、地域経済における消費活動の喚起にもつなげています。さらに同協同組合は教育への投資を伝統的に重要視しており、美食のまちサン・セバスチャンを支えている美食を教える大学、バスク・クリナリー・センターの設立においても多大なる資金を拠出しています。
特にバスク自治州の協同組合の多くは労働者協同組合であり、日本ではワーカーズコープと呼ばれている存在です。労働者が自分たちで資金を出し合い事業体を作り経営していることで、利益に応じて配当なども労働者にもたらされます。さらに利益の一部は常に教育に投資され、地域の発展を支えています。その結果がバスク自治州の平均所得の高さ、失業率の低さを実現している一因といえるでしょう。
4. 人口減少の防波堤・コープさっぽろの挑戦
日本において、私達の生活に近いのは消費生活協同組合などで全国で2187万人、実に全世帯の37.7%(2018.3統計)が加盟しており、総事業高は3兆4,794億円となっており、決して協同組合は遠い存在ではありません。特に、北海道、宮城、兵庫、福井は世帯加入率が5割を超えています。
その中でも北海道で約176万人、世帯カバー率63.5%、出資金総額は約729億円、事業高2834億円を持つコープさっぽろは、近年では人口減少社会における様々な生活機能の防波堤としての役割を果たしています。
特にコープさっぽろは本部に地域政策室という専門部署を開設し、スタッフが道内市町村を日々巡り、様々な地域課題のヒアリングを行うなど直接的には事業に直結しないような地域問題の拾い上げにも熱心です。その成果の1つとして、配達員が各世帯を定期的に配送のため回る機能を活用し、高齢者見守り協定を174市町村と締結しています。
地域農業の付加価値向上と食産業の育成を目指して優良農業者を認定し、道内シェフとコラボする「畑でレストラン」事業も年間を通じて道内各地で開催するなど、地域産業振興にも貢献しています。
絶景のロケーションの中で、北海道で活躍する人気シェフによる畑の採れたて野菜を使ったスペシャルランチコースが味わえる「畑でレストラン」。北海道農業を支える生産者やシェフの思いを知り、北海道の食の豊かさを感じることができる大人気イベントに
また近年は買い物が不便な地域がさらに増加しているため、実店舗や無店舗販売に加え、91台の移動販売車事業を強化し、128市町村を回るなど生活インフラ面での下支えとなっています。これらを含めてしっかりとグループ全体で黒字を続けている経営力もまた、信頼の源泉と言えます。民間企業の様々なサービス撤退が相次ぐ北海道において、6割の世帯が加盟する協同組合事業が地域に果たす役割りはますます拡大していくでしょう。
移動販売車「おまかせ便 カケル」。大型冷蔵庫を備えたた2トン車の内部には、鮮魚や精肉、野菜、果物、日用品など約1,000品目の商品が積まれています
人口縮小時代においては、地域内資本を持ち寄り、地域に必要なサービスを支えていくための協同組合という地域共益経済の仕掛けを今一度見直すことが重要になります。特に地域内住民が自ら出資し、必要なサービスを作り出す仕組みは、行政だけでも支えられない、かといって民間企業としては合理性の欠ける領域を埋める上で新たな取組みが増加してくるでしょう。新たな協同組合の地域連携の挑戦に注目する時代がきています。